6話
2人で一緒に広場へと歩いて向かう。
途中、男性が屋台で飲み物を買っているな…と思っていたら…広場のベンチに座る私に“どうぞ”と差し出した。
やや長めの黒髪に濃いブルーの瞳、目鼻立ちがはっきりとしていて整っている…かなりの美男子よね。
ぶつかった時に鍛え抜かれた身体だなと感じたし、歩き方や仕草も洗練されている気がする。
この男性、高位貴族の騎士様かな?
「……………」
差し出された飲み物を受け取るかどうか?
確かに、仕事終わりで喉は乾いている…。
しかし、見知らぬ男性から…いただいていいものなのだろうか?
経験がなさすぎて固まる。
「どうした?怪しい薬など入っていないぞ?」
えぇ、く…薬…?…ちょっと発想が怖いです。
「い…いただき…ます?」
そっと飲み物を受け取り、ぎこちなくお礼を言う私を見て、男性はプッと吹き出した。
笑われた私は…さっぱりしたレモン水をチューチューとストローで吸い込みながら、男性を睨んだ。
「すまない…どうか気を悪くしないでくれ。実は、君に聞きたいことがあるんだ。
大魔術師のグランド様を知っているかい?」
─師匠のことをどうして?─
「大魔術師…さま…ですか?なぜ私にそんなことを?」
「そのお方は私の師匠であるのだが…ある少女のことで、頼まれ事をしてね」
「そのお話…私とどんな関係が?」
隣に座った男性は、すっとぼける私のことをチラリと横目で見てくる。
「ひとついいか?…今…魔術で姿を変えているだろう?」
─变化していることがバレてる─
そうか…この男性は私の兄弟子になるのよね。騎士ではなく魔術師だとしたら?
知らぬ存ぜぬといった言い逃れは…できないかも。
「君は、アンデヴァイセン伯爵家から…いや、小さな小屋から出てきただろう?」
その言葉に私は青ざめ、無意識に肩を震わせた。
─隠匿していたこともバレてる─
「まさか…私の後をつけて来たのですか?」
男性は項垂れて…はぁ…と、大きく息を吐き出す。
「…伯爵家で酷い扱いを受けていたな…やはり、師匠の心配していた通りだったか」
そう小さく呟くと、眉根を寄せて…長い前髪を片手でクシャリと掴む。
「…あの…」
「私は、フェルナンド・ランチェスター。侯爵家の次男で…今、第三皇子に仕えている」
師匠から聞いたことがある。
帝国のランチェスター侯爵家は、魔法剣士として高い能力を持つ騎士を多く輩出している名家だと。
「私は、師匠に頼まれて…イルシス・アンデヴァイセン伯爵令嬢を捜しているんだ」