3話
大昔、ある大魔術師が自身の眼に高度な特殊能力を施した。
─眼を見た対象者に強い術をかける─
後にそれが魔眼と呼ばれ…“魔眼を持つ者は魔術師としての地位が上がる”などという、何とも浅ましい時代があったらしい。
己の高い能力を誇示したいがために、赤く光る魔眼を使って人を従えたり惑わしたりし続けた結果…呪いだと疎まれ…今に至る。
一方、師匠が言うには…私の魔眼は生まれつきの『異能』と呼ばれる特別なもので、人により能力が違うのだという。
異能を持つこと自体が稀らしいけれど…魔眼ではなく他の能力ならよかったのにと思った。
「イルシス、お前の眼は人を呪ったりはせん。異能の魔眼は、後付けの魔眼とは似て非なるものだ」
2つの魔眼。卵が先か鶏が先か…?
「異能の魔眼は、その能力のほとんどが未確認なのだ。
古い文献には、人の死や過去を視たり読み解いたりすると記されておる」
異能力者は、類まれな力を国に利用され続けてきたという暗い過去がある。
政治的、軍事的に役立つ人間がいるのなら…今だって…変わらずそうなのだろうと私は思う。
異能ついては意図的に情報が隠されてきたに違いない。
では、私の魔眼に一体どのような能力があるのか?
7歳だった私が師匠と半年ほど過ごすうちに、未来を視る力だとほぼ分かっていた。
手を繋ぐなどの直接接触と、眼を合わせることで…対象者の未来が映像のように視える。
「お前の魔眼は“先読み”の能力のようだ。それから…右眼だが、金色に他の色が混ざり始めておる。
“先読み”の能力が開花して影響を受けたのかもしれん。
イルシス、お前は…おそらく両眼とも魔眼だ」
─魔眼は、赤眼だけではなかったのね─
右眼は淡い金色。
他にもいろんな瞳の色があると仮定するならば、私は運悪く左眼が赤かったために忌み嫌われた…ということになる。
師匠は、左右で違う能力を持った魔眼だろうと推測していた。まだ開花していない金色のほうがより強い能力だ…とも…。
私は、魔眼にどんな凄い力があったとしてもどうでもよかった。
これからもずっと隠れて生きていく、そう答えは決まっているんだもの。
そんな私の諦め顔を見た師匠は、隣国であるバイセル王国から薬師を呼び寄せ、密かに研究を始めた。
5年後、魔眼を抑える目薬は見事に完成した。
朝晩2回の使用で丸1日能力を抑え、瞳の色が黒くなるので薬の効き目も分かりやすいという優れもの。
但し…抑えるのであって…封じてはいないため、万全とはいえなかった。
魔眼は脳と深く繋がっている。
視覚情報や魔力、感情などの刺激が脳内に作用し…目薬に施した術の効果をかき消す可能性は十分に考えられる。
そもそも“魔眼は呪いをかける”というところが、すでに事実とは異なっている。
私の場合は、目薬の効果が消えたところで…視たくもない他人の未来を読んで嫌な思いをするだけ。
誰かを呪ったり傷つけたりはしない。
眼の色を変えること、少しでも私の苦しみを和らげること…師匠たちは、それが目的で目薬を作ってくれたのだと思う。
異能である“先読み”の能力を私が持っていることなど、誰にも分かりはしないのだから。