つまらぬ人生と訪問者
初めての投稿になります。
物語を作る事も初めてなので、所々違和感を感じるかもしれませんがよろしくお願いします。
今後の参考にさせていただきたいと思いますので感想是非とも書いていただきたいです。
私の辞書に不可能はない。
岡田信二は自尊心が強い人間だ。それは、自分の能力に対する自信とプライドの表れでもあった。彼は一流大学を卒業し、一流企業に就職した。エリートコースを順調に歩んでいる。彼には成功者の自覚があったし、そうあるべきだと信じて疑わなかった。
だが、そんな彼の自信も、今の自分の境遇を見ると揺らぎそうになる。
「……まあ、いい」
岡田信二は小さくつぶやいた。
彼には時間があるのだ。焦る必要はない。
彼はベッドから起き上がった。
そして、いつものようにシャワーを浴びるため浴室に向かう。
その途中で、鏡に映る自分自身を見てあざ笑うような笑みを浮かべた。
「ふん……」
鏡の中の自分が嘲笑しているように思えたからだ。
こんな姿になった自分を見たら、過去の自分はどう思うのだろうか。恐らく見下すであろう。だが、それも仕方のないことだ。あの時とは状況が違う。今の自分はこの生活が気に入っていた。少なくとも、今の生活を失うよりはずっとましである。
しかし、その日を境に、彼の人生は大きく変わることになる。
朝起きると、まずコーヒーを飲む。それが彼の習慣だ。会社に勤めていた際は職場近くのコンビニで買った缶コーヒーを買い職場で飲むのが習慣であった。その習慣が抜けないのかコーヒーがなくては、目が覚めないのだ。朝食は食べないことが多い。昼過ぎまで寝ていることが多いため、腹が減ることはほとんどないのだ。今日もコーヒーを飲みながらテレビを見る。特にこれといって面白い番組はないが、他にやることもないため、ただぼんやりと見るだけだ。
信二は、ほんの2ヶ月前までは、年収数千万越えの一流サラリーマンであった。それどころか、彼は日本でも有数の資産家の息子であり、将来を約束された存在であった。
だが、今は違う。
今では一日に数万円しか稼げず、貯金を切り崩して生活している始末だ。
「…………」
彼は時計を見つめていた。そろそろ出かけなくてはならない時刻だ。彼は身支度を整えると玄関に向かった。靴を履いていると、インターホンが鳴る。彼は一瞬躊躇したが、無視するわけにもいかず、ドアを開いた。するとそこには、一人の男が立っていた。
「岡田さんですね?」
男は名刺を差し出した。その名刺には、株式会社T&S開発部人事課主任と書かれていた。
「私は人事担当の佐藤といいます」
信二は黙って名刺を受け取った。
「突然ですが、岡田さん。あなたをスカウトするために来ました」
「スカウト?」
信二はその言葉を聞いて眉間にしわを寄せた。
「はい。私どもの会社では、人材を募集しておりまして、現在多くの方々に応募してもらっています。そして、その中から優秀な人材を選び抜きたいと思っているのです」
「それで?」
「率直に申し上げましょう。あなたの能力を高く評価しています。ぜひ我が社に来ていただきたいと思っております」
「俺の能力?冗談じゃない!俺は落ちこぼれだよ!」
「いえ、そんなことはありません。現に今こうして生きておられるではありませんか」
「生きてるだけで優秀なら、そんな奴は星の数ほどいるじゃないか!」「そうかもしれませんね。でも、岡田さんの能力は他と比べて飛びぬけていると思いますよ。何せあの若さで大成功を収めたんですから」
「成功した?ああ、そうだな。確かに成功者だったさ。だけど、結局は金とコネの力だよ。俺は何にも才能がなかった…ただの無能だ。」「本当にそうでしょうか?」
「あんたは何を知ってるんだ!?」
信二は声を上げた。
「何も知りません。だから、これから知ろうとしているところですよ」
「知るだと?」
「ええ。そのために、わざわざここまで来たんですよ」
「ふざけるのもいい加減にしろ!警察を呼ぶぞ」
信二は玄関脇のゴルフバッグからクラブを取り出し上に突き上げた。これで逃げるだろう。だが、佐藤は引き下がらない。それどころか玄関に足を踏み込み家に押し入るほど接近してきた。
慌てて押し出そうとした瞬間。佐藤は上着ポケットからあるものを取り出し信二に噴射した。「うっ……」
そのスプレーを浴びた途端、急に全身の力が抜けたように感じられた。そして、視界が歪み始める。
「心配しないでください。毒薬とかじゃありませんから」
信二は薄れゆく意識の中で佐藤の声を聞いた。
「最初は・・かもしれませんが・・時期に・・ます。セカンドキャリア頑張ってくださ・・・」
最後まで聞き取る前に意識は遠のいた。