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秒速5センチメートル 全シーン注釈  作者: 入江晶
「第一話 桜花抄」
5/25

チャプター3.約束の当日(5:40~) (1)

シーン1-4:約束の日(1)(5:42~)

(5:47~)

 黒板に「3月4日(金)」とあるが(また、直前の場面でも、時計に同様に表示されていた)、貴樹の購入した時刻表に書かれていた一九九五年の三月四日は金曜日ではない。一番近いところでは一九九四年が金曜日になる。この曜日と年の問題については後述。


(5:51~)

 同級生の言葉で、「夕方から雪になる」と語られている。

 また、貴樹の計画表がクローズアップされる。この計画について、根本的に疑問を持つべきなのかもしれない。そもそも休日の昼間にでも堂々と行けばよいのでは?と。小説版ではある程度補足されているものの、「事情を言っても親は許してくれない」といったことが述べられるくらいで、具体的になぜそうなのかまでは不明である。確かに中学一年生という年齢を考えれば、東京から栃木まで一人で遠出するのを親が許さないというのも自然だし、親に同行させるということも無理ではあろう。それでも、休日の昼間に、遊びに行くとでも嘘をつけばバレずに行けそうな気もするのだが。小説版では、引っ越しの準備で休日は忙しいからこの日(三月四日)しか都合がつかなかった、と補足されているので、その線を認めてこれ以上踏み込まない方がよさそうである。

 また、本作においては、貴樹の親との関係性についてはほとんど描写されていないため、上記の事情については完全に推測である。漫画版では、終盤に退職を伝えられた親が貴樹の心情に無理解な言葉を発する場面があるが、それを遡って本作にまで適用してよいかは疑問であろう。


(6:15~)

 貴樹は大宮で乗り換えて小山に向かっているが、現在は新宿から乗り換えなしで小山まで行くことができる。

 明里の書いている「めん街道」は、岩舟に近い足利市、佐野市のラーメン店などが多く立地している場所のこと。公式には、少なくとも現在は「めんめん街道」と呼ぶようだ。


(6:29~)

 小田急線豪徳寺駅の改札。数年前に筆者が訪れた時は、細かい部分はともかくほとんどこのままであった。

 また、改札の上の案内表示に「関東全域に大雪警(大雪警報、であろう)」と出ており、その後の展開を予告している。


(6:50~)

 「昼過ぎから雪になった」そうだが、貴樹が学校にいる頃(夕方)までは雨だったのではないのだろうか。あるいは、後年振り返って、昼頃にはもう関東では記録的な雪が降り始めていた、ということなのかもしれない。第一話は全体として、そのような貴樹の視点で語られているように思われる。なお、ここで初めて貴樹のモノローグが現れる。

 また、現実においては一九九五年三月四日(ただし土曜日である)には東京で雪が降っていたようである(https://www.data.jma.go.jp/stats/etrn/view/hourly_s1.php?prec_no=44&block_no=47662&year=1995&month=03&day=4&view=p1参照。気象庁ウェブサイトより)。これを作中の天気に持ち込んでいる可能性もありそうにも思え、それが曜日の一致しない「一九九五年三月四日」を舞台とした理由なのかもしれない。


シーン1-5:回想(1)(6:54~)

(6:54~)

 代々木八幡宮の情景は一連のシーンとして描かれる。なお、ここで現れる猫のキャラクターは、新海誠作品にたびたび登場する。一種のカメオ出演、スターシステムといったところか。

 境内から見下ろす階段(6:54、二人はここから上がったのであろう)、階段を上がったところ(6:57、奥にパイプ状の階段の手すりが見えるが、直前のシーンの階段とは別だと思われる)、境内の石畳(7:06)、二人が通り過ぎる鳥居(7:09)、続いて通り過ぎる石塔の並ぶ通路(7:12)は、描写された順番通りに位置的に連続しており、二人の辿った道が現地で容易に実感できる。

 なお台本では6:54の場面に警備員がいることになっているが、映画版では実際には存在しない。


(7:16~)

 二人が下っている階段は直前の代々木八幡宮での進路の先にあり、小田急線参宮橋駅付近にある。ただし、現在は(昔からなのだろうが)私有地であり通り抜け不可、という看板がある。


(7:26~)

 二人がいるのは代々木八幡駅もしくは参宮橋駅付近だと思われ、実際にその範囲にマクドナルドが、少なくともかつてはあったが、この内装の店舗がどこに存在するか(あるいはしたか)は不明。明里がフライドポテトで表現したハルキゲニアは多数の細長い足を持つ奇妙な外見の生物で、貴樹の言う通り「似ている」。

 また、この場面で二人が話している本については、小説版では多少語られ、漫画版では、別の本も含めてより詳しく描写される。科学的な知識に二人は興味を向けていたようだが、それが「宇宙の真理」と言うべきものに思えた、ということであろうか。


(7:44~)

 貴樹が四年生の時に、明里は(小説版によれば静岡から)転校して来ており、貴樹はその一年前に(小説版によれば長野から、長野は新海誠が幼少期を過ごした場所である)転校したという。

 小学校三年生時点と思われる貴樹の後ろの黒板には、「四月九日月曜日」とある。中学一年生の三月を基準に考えれば、貴樹の転校はその五年前のはずである。注釈5:47からすれば一九九四年の五年前即ち一九八九年となるが、一九八九年の四月九日は月曜日ではない。一方、時刻表に書かれた一九九五年の五年前である一九九〇年は曜日が一致する。


(7:48~)

 明里の背後の黒板には「4月8日(月)」とある。前注の内容を受けて考えると、一九九〇年の一年後である一九九一年は、この日付と曜日が一致する。

 これらの情報からすると貴樹の岩舟来訪は一九九五年と考えるべきなのだろうが、注釈5:47で示したズレが明瞭になっている。ミスと見るべきか意図的なものなのかを判断する手がかりはない。ミスにしてはあまりにも目立つところで、気づかない方が不自然であるように思われる。特に、7:44の場面とこの場面の日付は、上記の通り一九九五年三月時点で中学一年生という本作の設定と合わせる意図がなければ、このようにならないはずである(まさか、偶然の一致ではないだろう)。

 小説版では曜日などの年を特定できるような情報は示されず、漫画版では触れてきた曜日や年の表記は映画版から変更されていない。

 もし意図的なものであるとすれば、風景を写実的に描き、こういった日付についてももっともらしく装いつつ、厳密に見ようとすると最終的には現実と一致しないという、ギリギリの地点では作品世界と現実世界の区別を強調する意味があるのではないか、というような解釈も可能ではあろう。注釈6:50で示したように、現実では(土曜日の)一九九五年三月四日には雪が降っており、それを作品内に持ち込むための手法だったとも考えられる。(新海誠にとって、三月四日が何か、日付を動かせないほど特別な日であったのだろうか?)


(二〇二五年三月六日追記)

 一九九五年にしても一九九四年にしても、当時の中学校は、第一土曜日である三月四日は授業日だったはずである。ただし、午前中のみであっただろうから、出発時刻や到着時刻の面で、本作の後の展開は再現しにくいことになる(正午過ぎに出発して遅れた結果夕方到着、では話にならないだろう)。したがって、一九九五年三月四日を土曜日として本作に採用することもあり得ないのだろう。

 そう考えると、やはり一九九五年三月四日という日付そのものに特別な意味があったのではないかと思いたくなる。

(中学校の土曜休みの実施については、一九九二年度から第二土曜が休み、一九九五年度からさらに第四土曜が休み、二〇〇二年度からすべての土曜日が休みとなったらしい。以上、Wikipedia「学校週5日制」の項目を参照した。)

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