チャプター11.秒速5センチメートル(54:46~)(3)
(57:16~)
明里の高校の卒業式。キャラクターデザインの様式のため、明里がかなり目立たなくなっているように思える。筆者はごく当初の一時期、花苗の描写が前後にあるため、花苗たちの卒業式だと勘違いしていた。
(57:17~)
貴樹が出発し、花苗が飛行機を見送っているのは旧種子島空港で、二〇〇六年三月に閉鎖された(別の場所に新しい空港がある)。本作の描写のための取材がいつ行われたのか定かではない。ただ、筆者が種子島を訪問した際、現地の食堂に「2005.6.5」と書かれた新海誠のサイン色紙が飾られているのを見た。このことから、旧種子島空港が使用されていた時期に新海誠が訪れていたというのは確かだと思われる。公開が二〇〇七年三月であるため、制作中には失われた風景となることは認識されていたのであろう。
また、この場面は第二話で貴樹たちが高校三年生時点で一九九九年十月だったことから、二〇〇〇年三月ごろと思われる。現在は立ち入ることはできないが、建物の大部分はそのまま残っており、花苗が立っていたと思しきところも見られる。高校のすぐ近くにあり、澄田家(のモデル)からも近い。
なお、上記の取材日程に関連して、近い時期の種子島でロケットの打ち上げが行われたのは二〇〇五年二月、二〇〇六年一月である。実見した結果が反映されているのかもしれない(もっとも、そうだとしたらインタビューなどで述べられているだろう。筆者はそういうものを特に調べていない)。
(57:22~)
シンプルながら不思議と印象的なこの坂道は、30:51および34:36でも描かれた。ここでの描写のつながりからすれば旧種子島空港と澄田家の間のどこかに置かれているように見えるし、以前のシーンにおいては、花苗の高校からの帰り道にあるように見えるが、実際には全く違う場所にある。アイショップや高校などの位置するあたりからかなり南に離れているので、訪問するにも、あらかじめ知っていないと見つけるのが難しい場所である(似たような景色はアイショップ付近でも見られるが、完全に一致していることがはっきり分かる地点として別に存在する)。
(57:37~)
青空の下でロケットが打ち上げられていることから分かるように、第二話で貴樹と花苗が目撃したものではない。一九九九年十月(第二話)から二〇〇八年二月(第三話)までには何度もロケットの打ち上げが行われているため、そのどれに相当するのかは不明。そもそも実際の打ち上げがモデルであるとか想定されているというわけでもない、ただ単にある一つの打ち上げの風景として描かれたのだろう。
物語上の解釈としては、外宇宙へと向かうELISHに続く同志の存在だとか、あるいは注釈32:11で別の人工衛星ADEOSとの対比について述べたように、いくらか近づいたり似てはいても、結局は孤独を強調することになるもの(花苗)を象徴しているといったことが考えられるだろう。
台本ではH-IIAロケットとされているので、一応、ある程度ロケットが絞れることにはなる。なお第二話で打ち上げられたロケットは、32:59のポスターでH-IIと記述されている。H-IIAロケットは二〇〇一年に初めて打ち上げられているため、この点では劇中の設定に矛盾はない。
(~58:04)
このあたりの細かいカットについては、注釈57:08と同様だと思われる。以降の似たシーンについても同じ。
(58:06~)
水野の携帯電話に「9月25日(月)」と表示されている。曜日が一致するのは二〇〇六年である。貴樹と付き合い始めて一年ほど経った頃であろうから(二〇〇八年時点で「三年間付き合った」という台詞があった)、関係が深まりながら、同時に仲が怪しくなり始めた頃ということか。
(58:14~)
背景に高島屋(ロゴは「Takashimayama」と改変されている)が見えるが、これは新宿の高島屋であろう。明里がいたのは新宿駅南口付近にある遊歩道の新宿サザンテラスである。
(58:21~)
(二〇二二年十月一日 追加)
明里の服装については、注釈56:27参照。これもあくまで貴樹の想像した明里の姿であって、現実とは異なるのであろう。
明里の髪が長いが、二通目の手紙(2:35)で髪を切ったことが書かれているので、それ以前の出来事なのであろう。岩舟で会って以降であれば、身近な制服姿を投影することはないだろう。この場面で貴樹が目撃した人物の服装は、2:10あたりで貴樹と話している中学校の先輩と同じであるようだ。ただし2:10の時点では既に貴樹は二通目の手紙を読んでいるはずなので、この目撃の場面はそれよりも以前なのであろう。
また、貴樹の思い描く明里ということで付言すれば、5:25や18:06での明里の髪は短い。特に5:25は、実際に岩舟で会った日にかなり近い時期だったと思われるため、そこには明確に現実の明里との解離がある。このようにして、貴樹と明里の間の超えがたい距離が示されているようである。
なお、明里(のような人物)がいるのは、小田急線の経堂駅のようである(駅名の表示から)。中学校時代に貴樹が普段使っていたらしい豪徳寺駅よりも、小田原側(新宿側の反対)の駅である。中学校からの帰宅途中の場面ということであろうか。ただ、小学校時代(第一話での回想)の舞台が参宮橋や代々木八幡といった、豪徳寺より新宿側の駅の周辺であったので、そのあたりに住んでいたらしく見え、矛盾が生じているようにも思われる。
なお、台本では「経堂駅に立つアカリ」と明記されている。
※上述した駅の位置関係は以下の通り。
(小田原)
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経堂(明里らしき人物がいた)
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豪徳寺(貴樹の中学校の最寄り駅?)
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代々木八幡、参宮橋(貴樹の小学校の近くの駅?住居?)
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(新宿)
(58:25~)
(二〇二二年十月一日 追加)
種子島で貴樹が見かけた明里らしき姿は、セーラー服の襟のラインが二本である。明里の高校の制服と一致するが、貴樹はそれをどうやって知っていたのであろうか。
種子島における貴樹の夢の場面などでも、貴樹が見る明里の姿は現実の(当時だけでなく、その後の場合もある)明里と一致するようになっている。
これを意味のあるものだとすると、もはや決して直接会うこともなくなって、かえって空想が現実に一致し始めたということになるが、それは二人の間の距離が決定的となったと示しているということになるだろう。従って、貴樹の思い描いた姿が現実に一致するというのは、空虚な領域でしか起こっていないわけである。これについては、岩舟で会うまでは貴樹の身近な女生徒の姿をベースにした服装を思い描いていたという点と対照的であり、指摘するに足るだろう。




