チャプター11.秒速5センチメートル(54:46~)(2)
シーン3-6:歌と記憶(55:43~)
(56:11~)
二羽の鳥。本作で繰り返し現れており、以前の場面における解釈については既述。ここでは、互いに知らずに東京で交差する貴樹と明里でもあるだろうし、同じ夢を見たように、今でも、当人たちも気づかないまま重なっている二人の心を表しているなどとも考えられるし、あるいは、かつてあった心のつながりを象徴しているとも思われる。
なお、以降のスタッフロールまでのシーンについては台本に描写の内容が詳しく書かれているが、実際の映画版とは一致しない箇所がかなり多い。いずれも細かい部分であって全体的な流れは変わっていないが、詳しく検討してみると、何か面白い結論が得られるかもしれない。
(56:27~)
次のカットからすれば、貴樹と同じ高校生時代の明里ということか。さすがにこの場面のモデル特定は無理というか、おそらくモデルとなった場所は無いのだろう。
以降のシーンを含めて時期を特定するために、明里の制服について考えてみる。
高校時代と思われる卒業式のシーン(57:16)でセーラー服となっているため、高校の制服はセーラー服だったようである。
これに対して、中学時代については今ひとつ判然としない。5:25や18:06のシーンでは、ネクタイを締めたブレザー姿の明里が描写される。第一話終盤の岩舟では、コートとマフラーを着込んでいるため、制服(制服を着ているとすればだが)がスカート含めてほとんど確認できない。唯一、24:32でコートの前側が若干開いており、その下に、白い線が三本入ったセーラーの襟らしきものが見えている。一方、卒業式のシーンの他、55:43以降の一連のシーンで明里が着ているセーラー服については、全て襟のラインが二本である。
従って、明里の中学時代の制服として描写されているものはブレザーとセーラー服で、かつ、そのセーラー服は高校とは異なる。中学時代の制服に関して描写が矛盾しているようにも見えるが、おそらくこれは意図的なものなのであろう。
微妙にしか見られないが(6:19など)、貴樹の中学校の女子の制服は、ネクタイとブレザーだったようである。そして、ブレザー姿の明里については、いずれも貴樹の夢や想像の中の姿と考えられる(注釈4:41、18:08参照)。従って、現在の明里として、貴樹は自分の身近な制服を着た姿を思い描いていたのである。だがそれは、少なくとも制服のデザインという点で、現実とは異なっていた。
この現実と貴樹の認識のズレについて、単なる貴樹のちょっとした思い違いとも考えられるし、決定的な乗り越えがたい距離、というものを表す一つの兆候とも考えられる。
(56:29~)
おそらくは高校時代の貴樹と花苗。このシーンの場所は、モデルがあるのかもしれない。
むしろここで気になるのは、貴樹や花苗をはじめとして、高校時代と思われる場面にも関わらず徒歩で通学していることか。原付の免許を取得できるのは十六歳からなので、入学当初はまだ原付通学をしていなかった、ということかもしれない。少なくとも、そう考えれば自然なものだと解釈できる。
なお、制服という観点で考えると、中学時代の4月の花苗の制服(31:04)がブレザーであったため、このシーンは明らかに高校時代だと言えそうである(高校時代の貴樹の学ラン姿はこの場面のみである。花苗のセーター姿は、第二話終盤で見られる)。
また、種子島は温暖であるため本土、特に関東などと比べると桜の開花がかなり早い(品種自体、ソメイヨシノとは違うらしい)。このため、桜の盛りは3月であるようだが、4月の入学式の頃に咲くものもあるという。
(参考:https://www.city.nishinoomote.lg.jp/admin/soshiki/soumuka/hishokouhou/kouhou/shisei_mado/sityoudokugenbacknumber/5622.html)
(56:32~)
(二〇二二年十月一日 追加)
明里の机に高校数学の参考書が置かれているため、文通は高校に入ってから、つまり第一話の出来事以降も、少なくとも二年以上続いていたらしい。56:41の、期待に満ちた表情で郵便受けに向かうシーンは高校の制服姿となっていることからも、高校時代まで文通が続いていたことは読み取れる。
(56:40~)
明里から貴樹宛の手紙には、宛先が「鹿児島県熊毛郡中種子町大字増田」とある。また、その下に「あずさ銀行種子島支店」なる銀行名の入った大きな封筒が置かれており、これが貴樹の父親の勤務先ということなのであろう。
この「増田」という住所は中種子町に実在する(ただし、封筒に書いてある番地は存在しないようである)。「増田」のどこなのかという問題はあるが、高校からは五キロほど離れているようだ。
なお、「増田」には既述(注釈44:48)の通り、増田宇宙通信所というJAXA(設置時はNASDA)関係施設があり、見学も可能。これが貴樹の住所として「増田」を選んだ理由かもしれない。衛生の制御などを行う通信所は、貴樹の立場や思考を象徴しているように見え、興味深い。
なお、注釈43:40で述べた位置関係について補足すると、貴樹が47:11で歩いていった方向とは、完全に逆である(高校を基準にすると、増田は東、澄田家は西に位置する。貴樹は澄田家から西に歩いていった)。ただ、本作に登場したアイショップ(のモデル)は高校から増田への通り道と言ってよい地点にはある。このあたりの情報からは、むしろ取材時の経路や事情が想像できそうである。
もっともここで地理的な意味で指摘するべきなのは、野間に在住しているはずの花苗と「増田」の貴樹が同じ中学校に在籍することができたのか、という点だろう。そして、そもそもこのような点の厳密性を求めるべきでもないだろう。
むしろ作品解釈において気になるのは、貴樹がいつこの住所を明里に伝えたかということであろう。東京でのやりとりの時点ですでに伝えていたかもしれないし、貴樹が引っ越してから、まず最初に手紙を送ったのかもしれない。判断する材料はないが、想像の余地はある。
(56:50~)
この場面の、貴樹が郵便受けに何も入っていないことに落胆している描写からすると、明里の方が手紙(返事)を出すのをやめたように思える(56:43では、郵便受けから手紙を取り出した明里がうつむき、浮かない様子であった)。後の展開からすれば、この時点で明里は、すでに貴樹とのつながりを必要とするような孤独から抜け出していた、ということであろう。
なお、どちらの家でも郵便受けが母屋から離れすぎているように見えるが、この点については野暮な突っ込みは控える。
漫画版では、手紙のやりとりがやがてなくなっていったことについて、花苗との会話で多少述べられている。
(56:52~)
いかにもモデルとなった場所がありそうだが、詳細不明。
(56:53~)
注釈56:52と同様。
明里の隣にいる男子生徒については、漫画版において、相当すると思われる人物に関するエピソードが少しだけ描かれている。漫画版では、彼が結婚相手となったと想定されているのかもしれない(映画版でははっきりしないが、そうだと考えても問題はないだろう)。
(56:55~)
注釈56:52と同様。
(57:04~)
この場面前後の歌詞からすると、二人とも互いの姿を知らず知らず探していたということか。貴樹や明里がここで振り返るような様子を見せているのも、そういう理由かもしれない。
(~57:08)
ここまでの細かいカットは、様々な風景(おそらくは東京)から構成されているが、描写されているもの自体に、作品の筋書きとしての他の箇所との関わりなどはないように思う。例えば座り込んでいる女性が最後に見えるが、これは別に、水野などの作中の特定の人物というわけではないだろう。
全体的には、貴樹の生きた東京という場所を視覚的に表すためのもの、という程度であろう。もちろん、それはそれで貴樹の心境に関する描写として意味を持つ。




