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秒速5センチメートル 全シーン注釈  作者: 入江晶
「第二話 コスモナウト」
14/25

チャプター7.ある一日・Ⅱ(32:50~)(2)

(34:24~)

 言うまでもないが、すでに花苗の原付の調子が悪いことが描写されている。


(34:32~)

 この場面で流れているのは、みずさわゆうきの「あなたのための世界」(2007)である。みずさわゆうきは「ほしのこえ」でも新海誠と関わっている。ただし発表年で分かるように、舞台として設定されている時期(一九九九年)とは明らかにアナクロニズムがある。


(34:36~)

 この坂道については注釈30:51および第三話の注釈(57:22)を参照。


(34:47~)

 このあたりの雰囲気は、高校あるいはアイショップ石堂店と海岸の間で見られる風景に近いように思われる。また、貴樹の原付に「NASDA」のステッカーが貼られている。

 漫画版では、小学生時代の貴樹が、将来の夢が宇宙飛行士であると明里に打ち明ける場面があるが、個人的には、やり過ぎだと思ってしまう。もっと漠然とした、宇宙や科学への憧れとでも考えた方がよいのではないだろうか。もちろん、それが本作の当初からの設定だった可能性もあるのだが。


(35:01~)

 二人が見下ろす景色は印象的であるが、このような草原そのものは実際には存在しないと思われる。ただし、風景についてはよく似たものを見ることができる。アイショップの付近から東もしくは西に道路を曲がって南側を向くと、風車(中種子中央運動公園、通称太陽の里にある)を含めて中種子を一望できる。見通しがいい場所は限られるが、撮影地点を探してみるのも面白そうだ。


(35:52~)

 東京は貴樹にとって「遠く」なのであろうか。花苗にとっては間違いなく遠いが、貴樹にとっては、むしろ親しんだ場所だったのではないだろうか。この二人の認識には、乗り越えがたいギャップがあるように思われる。


(36:36~)

 中種子町上空をから南を向いている。風車については既述(注釈35:01)。実際には、日が落ちればもっと暗いだろう。種子島は本当に街灯などの明かりが少なく、夜は暗く、静かである。

 また、紙飛行機と第一話の鳥の対比に注意すべきかもしれない。


(36:40~)

 天の川が見える。ここまではっきり見られるものかどうかは分からないが、晴れてさえいれば、明るいところから少しでも離れてしまうと、種子島ではだいたいのところで満天の星空を目にすることができるのは事実である。


(36:46~)

 この場面は遅くとも夜七時か八時ごろだと思われるが、そんな時間にロケットを運搬するかどうかは疑問である(小説版では、花苗が貴樹を見つける前にアイショップにいた時点で七時四十五分となっている。しかしそうすると花苗の帰宅が九時前後となると思われ、本作ではこの後、帰宅後と思われる38:00~のシーンで花苗の母と姉が夕食を調理しているので、小説版よりもある程度早い時間帯だと考えた方が良さそうである)。

 ロケットが種子島を宇宙センターに向けて移動する際、必要に応じて、実際にこのように普通の生活道路を通る。このため、基本的に深夜に移動が行われ、この場面のような時間に運搬することは、平常は避けると思われる。ただ、種子島は七時や八時にもなれば、車の通りはほとんどなくなってしまうだろう。

 いずれにしても、繰り返している通り、本作は描写は写実的であっても、あるいはだからこそ、現実との対応については、厳密な一致を求めるべきではなく、むしろそのズレにこそ作者の意図を積極的に見いだすべきだろう。


(36:51~)

 この場面の交差点もモデルがありそうだが、筆者は見つけられていない。


(37:07~)

 大きく「NASDA」と書かれている。注釈32:59参照。


(37:21~)

 花苗が口にするロケット運搬のスピードについては、筆者が種子島宇宙センターに見学に行った際には「時速四キロ」と説明があった。時期や運ぶものによっても違うかもしれないし、本作のタイトルに合わせるために、意図的に改変した可能性もある。

 なお、ロケットは種子島の中種子町の港に船で着き、南種子町の種子島宇宙センターに運ばれる。

 また、この運搬中のロケットが本話終盤で打ち上げられるロケットなのかどうかは定かではない。この場面は打ち上げが行われた「十月の半ば」の二週間ほど前だと思われる(注釈40:21参照)が、宇宙センターに運搬してから二週間で組み立てて打ち上げる、というのは、現実的にはスケジュールに無理があるだろう(しかも本来の打ち上げ予定は9月16日であった。注釈32:59参照)。

 この後の場面で打ち上げられたものではないとしても、打ち上げを間近に控えるロケットがある状態で別のロケットを搬入するということが現実的にあり得るのかどうか、疑わしく思われる。

 とはいえこのあたりは、あまり現実性にこだわらず、やはりこれが後に貴樹と花苗が目にしたロケットだと考えるべきなのだろう。それが作者の意図だと思われるからである。


(37:27~)

 「久しぶりに打ち上げる」らしいが、前回のロケットの打ち上げからどのくらいの期間が経っているのかは不明である。注釈28:47で触れた高校に飾られている打ち上げの写真では、一九九七年十一月に打ち上げがあったことが示されている。従って、最大で二年ほどの間隔ということになる。後に描かれる打ち上げの現実との対応や、作中での位置づけについては後述。


(38:00~)

 作品の解釈とは直接関係がないが、種子島の高校生は大部分が卒業後島を出るようだ。種子島の年齢別の人口構成を見ると、十八歳あたりで一気に減少し、その後二十二、三歳で大きく増える(つまりUターンしたり赴任してくる)という、かなり明瞭な傾向が見られる。漫画版で描かれる花苗の高校卒業後の進路も、上記の傾向を概ね踏襲している。


(38:21~)

 貴樹は高校時代頃まで科学雑誌を熱心に読んでいたらしい。注釈2:40も参照。

 また、ここで架空の人工衛星「ELISH」について、貴樹の感じ方を通して説明される。それはまさに、花苗曰く「遠くに行きたそう」という貴樹の生き方に重なるのであろう。同時に、作中でELISHの打ち上げに使われたロケット(注釈32:59参照)が現実において地球を観察するための衛星を打ち上げたものと同名であるということには、第二話における貴樹と花苗の存在が象徴的に対比されているように思われる。


(39:01~)

 ここでは貴樹は夢の内容についてメールを打ち、保存せずに消している。それによれば、貴樹は似たような夢を繰り返し見ていたらしい。

 小説版では、貴樹が誰にメールを送ろうとしているのか(誰でもないのだが)ということが多少なりとも花苗の視点で触れられるが、このシーンの文面を見る限りは、存在しないかもしれないとはいえ誰かに伝えようとしていると言うよりは、単なる自分のためのメモとしてメールの機能を使っているように見える。

 また、漫画版では、この場面の貴樹のモノローグも、消されたメールの文面ということになっている。

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