チャプター7.ある一日・Ⅱ(32:50~)(1)
シーン2-5:花苗の日常(2)(32:50~)
(32:51~)
「当番スタンド」とは、日曜日に営業することが割り当てられたガソリンスタンドのことを言う。種子島のガソリンスタンドは、たいてい日曜日が定休日なので、全てのガソリンスタンドが休業してしまわないように、このような「当番スタンド」が存在するのである(本作で描かれる中種子町以外の地域でも同じらしい)。
なお、この場面の情景は、中種子町にある「グリーンホテルさかえ」の特定の一室の窓から、同じものを見ることができる。最近では、そのホテルのウェブサイトでもそういった点がアピールされている。また、その部屋には訪問者用のノートが置かれており、多数のコメントが書かれているほか、本作の漫画版や小説版などいったものまである(訪問者が寄贈したらしい)。
画面右奥方向、方角で言えば北東方面に高校が位置する。距離がある上に建物に遮られており、この画面内には写っていない。
(32:59~)
架空の人工衛星「ELISH」の打ち上げに関するポスターが掲示されており、細かい部分まで読み取れる(上映中に全て把握して記憶するのは無理であろう)。これが後に貴樹と花苗が見ることになるロケットに搭載されていたのだと思われるが、打ち上げ日時として「1999年9月16日」と書かれている。作中で実際に打ち上げられたのは十月半ばのはずで、また、このシーンはそこから二週間ほど前のはずである。下に「打ち上げ予備期間」として九月から十二月の日付が示されているので、打ち上げはこの時点ですでに延期されていたようだ。現実のロケット打ち上げにおいては、このような日程の変更はよくあることである(調整や不具合への対処、天候などの理由で)。
また、「H-IIロケット4号機」とあるが、これは現実では注釈32:11で述べた一九九六年に打ち上げられたものである。やはり、二つの人工衛星の対比は意図的なものと考えるべきなのだろう。
なお、最下段にある「宇宙航空研究開発機構 種子島宇宙センター」の表記は、制作上のミスであろう。宇宙航空研究開発機構(JAXA)が発足したのは二〇〇三年で、宇宙開発事業団(NASDA)を含む三つの組織が統合されて成立した。作品の舞台となっている時期(一九九九年)との整合性に加えて、同じポスターの上部に「NASDA」(前身の組織名)と表記されているために、明確に矛盾が生じているように思われる。あるいは、この二つの組織名が併記されることが、JAXA発足の数年前という時期に、実際にあったのであろうか。
(33:20~)
窓の外に海の景色が広がっているようだが、実際に種子島中央高校(当時は中種子高校。建物は同じ)からこのように見えるのかは不明。校舎が海に面しているわけではないのは確かだが、海岸までは二キロメートルもないようだし、種子島は平坦で、高校はその中ではやや高いところに位置するので、上階ならばあり得なくはないだろう。
(33:30~)
花苗の同級生は進路について「熊本の短大かな」と言っていたが、ここで花苗は「県内(鹿児島県)の短大」を勧められている。なぜであろうか(同級生は熊本に親戚でもいて、そこに住んで通学する、といった理由でもあったのだろうか)。なお、漫画版では花苗と同級生のその後が描かれ、実際の進路も詳しく言及される。
また、小説版および漫画版では、ここでの教師の口調が方言丸出しになっている。映画版では、「南種子」「島」といった言い方はされるが、「種子島」というセリフが発されることはない。何度か触れているが、新宿や世田谷も含めて、あえて多少なりとも舞台の具体性をぼやかしたように思え、上記の方言を使わないという改変も、その一環であるように思う。小説版では、第一話で「世田谷」と言及されているし、その他種子島、池袋といった地名もごく普通に使われる。視覚的な情報量の差も、そういった言葉遣いの違いの原因の一つであろう。また、そもそも単純に、方言(鹿児島弁?)を実際にセリフとして声に出すのは、印象が強くなりすぎてしまうからとも思われる。
なお筆者個人の感想というか経験から思うことで完全に蛇足なのだが、高校卒業後の進路を三年生の秋(九月~十月)に決める(学校に伝える)というのは、時期が遅いように思う。平均的にはこのくらいなのであろうか(そもそも「第3回 進路希望調査」とあるので、これが最初の機会ではなかったのは明らかなのだから、筆者の疑問自体が的外れなのかもしれない)。
(34:02~)
左手奥に見えている建物(?)は、現存しないように思われる。あるいは筆者が、この場面でどのように視点が置かれているのか、その位置関係を勘違いしている。