3分間の激闘・場外乱闘編
カップ麺にまつわる悲劇。
今回の事態はあまり無いでしょうが、無いわけでは無い。
大切な大切な休日。
その日の彼は、体調そのものが良くなかった。
いつも3分のカップ麺で失敗する、おっちょこちょいな様子も控えめだ。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛………………風邪かなぁ。 折角の休日に、ついてねーわ」
これと言って異変らしい異変は感じられないのだが、どことなく調子が悪いのだ。
「しかもごはんはポロポロこぼすし、なぜか取りこぼして物を落とすし。 今日は最悪だぁ」
彼がなにか忘れ物をしたり、慌てて注意を怠ってなにかに蹴躓くのはいつもの事だが、それとは違うミスが目立つ。
「ああっ!? パンの袋を開けようとしたら、引き寄せていたゴミ箱へ、袋から飛び出したパンが直接ダイブしたっ!!?」
ほら。 この通り。
~~~~~~
そんな彼のお昼は、今日もカップ麺 (しょうゆラーメン)だ。
「くそぅ……ハラの足しにと買ったパンは、さっきゴミ箱に逃げられちまった。 もしこのカップ麺でも何かあったら、厄日確定だわ」
彼は独り暮らし。
話し相手が居ない独り暮らし。
そんな環境でつぶやいていると、ついつい声が大きくなって行く。
「おっ。 お湯が沸いたな?」
ふと聞こえた、少し離れた所にある電気ケトルの音でそれを知った彼は、いそいそと準備を始める。
「あーー。 いつもは、もうお湯を注ぐだけまで準備を済ませているはずなのに、忘れてるって本当にヤバいだろ」
気落ちする様はいっそ哀れと思う程、彼の背中は煤けている。
お昼のカップ麺のフィルムをはがす姿も弱々しく、フタを開けるのすら時間がかかっている。
「あ、今日のカップ麺に入っている小袋は、ひとつだけなんか」
そう、ひとつだけ。
そのひとつの小袋は、お湯入れ前に入れておくものだ。
「想定よりちょっと物足りないお昼だけど、夕飯までのがまんだな。 よし、夕飯は少し良いものにするか」
器に小袋の中身をあけながら、小さなご褒美でテンションを上げようと頑張る、健気な彼であった。
小袋の中身をカップへ入れ終わり、電気ケトルが置かれている場所へカップ麺ごと向かっていたその時、彼は今日一番の不運に見舞われた。
「っ!? あ、ちょっと! おい!!」
どうやら今日の不調は伊達では無かったらしい。
「おいおいおいマジかよ? …………うわぁ」
その悲劇に、彼は思わず嘆いた。
その日の彼は不調で、思った通りに体は動くが、細かい感覚は麻痺していてどこか鈍い感じだった。
そんな彼の足下には、ひっくり返ったカップ麺。
そこからこぼれる、粉。
そう。 手の力が不調から上手く制御できず、カップ麺を保持する力が瞬間的に抜けて、その瞬間にポロリと取り落としてしまったのだ。
「なんだよ、なんなんだよ。 今日はどうかしてるよ、ホント。 これは本気でヤベーぞ、おい」
台無しになってしまったお昼。
まるで己が夢の欠片がこぼれ落ちたような、己が半身の命を理不尽に奪われたような、そんな絶望も混じる。
この惨状に茫然としない者は、そうそう居ないだろう。
「………………あ。 粉の大半はこぼれたけど、麺は床に落ちてないから何とか食えるわ。 うわー、不幸中の幸いってやつだなコレ」
あんまりにもあんまりな惨状から何とか立ち直り、片付けようとしていたカップ麺を検分していた彼だが、光明を見出だした。
「これなら焼肉のたれとか出汁つゆとかを入れれば、食える味になるかな? ……そう言やゴマ油をしょうゆと合わせると、何でも中華風味になるって聞くな?
……入れたら、しょうゆラーメンっぽくなってくれるかな?」
自身の失敗は失敗として、その失敗をカバーしようと考える彼の背中は、少しだけ逞しく見える………………かもしれない。
「あ……沸いてから時間がだいぶ過ぎて、お湯が冷めてる」
逞しく見えるかもしれないっ!!
半実話。
コレを書く少し前に、やらかしました。
なんか腕に力が入らなくて、感覚が鈍くなっていて、本当にポロッと……(´;ω;`)
んで立ち直って、恐ろしく薄くなった醤油ラーメンの味をどうするかと工夫した訳です。
結果は成功。
ごま油が良い味を出してくれて、ちゃんと醤油ラーメンとして食べられました。
いやあ、マジであの時ゃ焦りましたわ。