86/107
九六 前兆 4/4
遠野の町に芳公馬鹿という、35,6歳の重度の知的障害者が一昨年まで生きていました。
この男の癖は路上で木の皮の切れ端などを拾い、これを捻ってつくづくと見つめ、またはこれを嗅ぐ事でした。
人の家などに行っては柱などをこすってその手を嗅ぎ、何であっても目の先まで取り上げ、にこにことして折々これを嗅ぎました。
この男は往来を歩きながら急に立ち止まり、石などを拾い上げてこれをあたりの民家に投げつけ、けたたましく火事だ火事だと叫ぶことがありました。
そうすればその晩が次の日にものを投げつけられた家は例外無く家事を起こしました。
同じ事が幾度となくありましたが、後にはその家々も注意して対策するようになしたが、ついに家事を免れた家は1軒もありませんでした。




