九〇 天狗 3/3
松崎に天狗森(遠野の街から北北東、現在は宮古市小国に属しています)という山があります。
その麓の桑畑で村のある若者がはたらいていたときに、若者は頻に眠くなったので、しばらく桑の畔(小高くなった所です。あぜという意味もあります)に腰掛けて居眠りしようとすると、きわめて大きく顔は真っ赤な男が出てきました。
若者は気軽で普段から相撲などが好きな男なので、この見慣れぬ大男が立ちはだかって上から見下すのを憎たらしく思い、
「お前はどこから来たのか」
と問うと大男は何も答えなかったので、若者はここは1つ突き飛ばしてやろうと思い、力自慢な彼が飛びかかって手をかけたと思うや否や、かえって若者のほうが飛ばされて気を失ってしまいました。
若者が夕方に起き上がるともちろんその大男はいませんでした。
家に帰ってから若者は家の人にこのことを話しました。
その秋の事です。
若者は早池峰の下層ヘ大勢の村人とともに馬を曳いて萩を苅りにいき、さて帰ろうとするときにこの男だけいませんでした。
一同が驚いて捜索すると、若者は深い谷の奥で手足を1本ずつ抜き取られて死んでいたと言います。
今(明治)から2,30年前の事なので、この時の事をよく知っている老人が今(明治)も存在します。
天狗森には天狗が多くいるということは昔から人々に知られていました。




