七 山男 3/8
上郷(遠野の町の南東です)のある家の娘が栗を拾いに山に入ったまま帰ってきませんでした。
その家の者は死んだのかと思い、娘の枕を形代(遺体の代わり)にして葬儀を執り行い、そして2,3年が経ちました。
その村の者が猟をしに五葉山(釜石市の山、遠野の町より東南東に20キロ足らず)の腰(山の中でも麓に近い場所)に入った時の事。
大きな岩が山に覆い掛かって洞窟のようになっている場所で、その女に会いました。
互いに驚き、
「どうしてこんな所にいるんだ」
と村の者が問うと
「山に入ると恐ろしい人に攫われ、こんな所に来たのです。
逃げたいと思いますが一分の隙もありません」
と言いました。
さらに
「その人はどんな人だ」
と問うと
「普通の人間に見えますが、背は極めて高く、眼の色は少し気味が悪いのです。
子供も何人か産みましたが…『俺に似ていないのだから俺の子供ではない』と言って…食うなど殺すなど、みなどこかへ持ち去ってしまうのです」
と答えました。
「そいつは本当に我々と同じ人間なのか」
といきり立つと
「衣類なども一般的です。ただ眼の色が少し違うだけなのです。
一市間に1度、同じような目をした人が4,5人程集まって何事かを話し、やがてどこかへ行ってしまします。
食料などを持ってくるのでおそらく定期市にも出ているのでしょう。
そう言う内にも帰ってくるかもしれません」
と言ったので、村の者も恐ろしくなって帰ったそうです。
20年ばかり前(明治から見て)の話かと思われます。
一市間は遠野の町の市と市の間のことで、月6回開かれるので一市間はすなわち5日間です。
このような月6回開かれる市を六斎市と言い15-16世紀に生まれました




