0日魔女の状況把握と3つの願い
ちょっと改行の仕方を変えてみました。
「というわけで、お前はまだ生きている。放火の罪は冤罪で無罪。4日間の拘留中、身分を明かすこともなく積極的に調査に協力しなかったことを考慮し、ごく稀な状況のみに下される”迷惑罪”のみ執行した。まぁこれも気を失っているうちに刑期が終わったため、実質刑期0日だな。冤罪も含め、大変申し訳ないことをしたと陛下も我々も思っている。本当に申し訳なかった。この通りだ」
「ここは天国ではない…、刑期は0日…無罪、放免…。天国には行けない…」
「そうだ。お前は生きている。だが冤罪に変わりなく、女性に対する行いではなかったとして迷惑料を請求できるようにする。何か願いがないか?あれば私から陛下に進言しよう。」
「願い…。願い…ですか…。そうですか。魔女の私に願いなど、軽々しく言ってはいけないのでは」
私はまだ、目覚めたときの部屋と状況のままでいる。
大勢の人間に囲まれながら、私から器を奪った〈人間の天使様〉から現実を突きつけれているところである。ここは天国でなく、現実。やっと嫌な世界から離れられると思っていたのに、そうとはいかない。一気に夢見心地な状況から突き落とされた。
「その件に関しても申し訳なかった。だが、牢屋で意識を失ったときのことを覚えているか?あのとき、お前は何らかの魔法を使った。その自覚はあるか?」
「魔法…?私が?…そんなものがあれば、あんな扱いは受けてこなかったし、家出なんて…」
「そうか…。余計なことを言ったな。でも、あれは何らかな魔法で間違いない。加減を知らず、魔力量限界まで放出した結果、お前は気を失った。あの時何を考えたか知らないが、我々のせいで身体が防衛しようとしたした結果だと推察している。…もし、希望があれば魔法関連の願いでも構わない。すべて叶うかはわからないが、善処すると誓おう」
ここにはいない陛下をはじめ、この人たちは自分たちの非を謝罪したいらしい。意見を押し通すのではなく、ご丁寧に直接聞くべきと判断してくれたのは誰だろう。正直ありがたい、それが素直な感想だった。
状況的にはこの小娘の周りを囲って話す内容でもないこともわかっているが、目の前の天使様は他の者にも状況を教えた方がよいだろうと判断したに違いない。よく見たら、石の牢屋でいた騎士や見覚えのある警邏隊もいる。食事を運んでくれた人もいることから、誤解を解くには絶好の機会ということなのだろう。こちらとしては、証拠になるからありがたいが。
(ぐすっ…あの子、聞いてはいたけど、ぐすっ、泣きもせずに)
(ああ、我々はなんてことを彼女にしてしまったんだ、冤罪なんて…)
(そうよ、花も花瓶の水も飲むぐらい貧困して、そりゃ…)
(うう…かわいそうに…うううっ…)
(あの状況で体が防衛本能で魔法を放出したのだとしたら、団長は言葉を濁したがきっと…死を感じたからだろうな…)
(おれ、牢屋でひどいこと言ってしまった…)
天使様の言葉は、思ったよりも効力があるのか周りの人間たちに突き刺さっている。小さな声で話しているつもりだろうがしっかりこちらまで響いている。目頭をハンカチで抑えている者、天を仰ぎ見ている者と様々だったが、こちらに対し良好的な感情であるのは間違いなかった。
「どうだ、お前はどうしたい?プレリー・ウオレット嬢」
あくまで、私のことを尊重する気の天使様は、うつむく視線を攫うように目を合わせてくる。乱れていたグレー髪がフヨフヨ動き、まるで意思を持っているかのようだった。
(チリン…)
(あ、また聞こえた…。)
願いはある。この人たちが本当に信用できる人間なのか判断がついていないが、何となく鐘の音が背中を押してくれる。この音がなってから最悪な状況にはなってないからだ。それに、もらえるものは貰っておかないと損した気分にはなる。
「では天使様、言葉に甘えて、いいでしょうか。小さな願いが3つございます。」
「よい。申してみよ」
「1つは、火事のあった家のことです。私の存在の処理がどうなったかわかりませんが、〈死んだ〉ならそのままに。行方不明であれば、〈死んだことに〉。存在しない存在になっているのあれば、〈そういうこと〉にしておいてください。私を抹消してほしいのです」
「それは書類上で何とかなるからたやすいが。いいのか、実家だろう?」
「いいえ、だたの親戚なので思い入れはありません。2つ目にもなりますが、あの家とは関わりたくないのです。お願いできませんでしょうか。」
「わかった。良いだろう。最後はなんだ?」
「ありがとうございます、天使様。最後は…牢屋に行きたいです。この前の石の牢獄が難しければ、この屋敷の牢屋でかまいません。見たいのです。お願いできませんでしょうか」
「な、なぜにそのような…。本当にその願いが3つ目でいいのか。良く考え直した方が…」
またざわつく周囲。同情的な目を見せる彼らは本来性根のいい者ばかりで、仕事柄ああいった対応もしなければいけないのだろうなと。今では少し彼らに同情さえもしてしまう。あったばかりの私に、心を砕く必要なないのだ。
「お願いします、天使様。これでいいのです。見学は可能でしょうか」
「わかった。今から案内しよう。ついてくるがいい。他の者も立ち合い感謝する。このプレリー・ウオレット嬢の3つ目の願いを叶えたあと、彼女に食事を与えたいので対応を頼む。他の者には護衛を頼むこともあるかと思うが、彼女が不便に感じないよう心を配ってやってくれ。では第一隊から、数名を残し、解散!」
「「「「「はっ!!」」」」」
「「「「「かしこまりました」」」」」
天使様の一声で止まっていた時間が動き出す。この人、他の人間のことを忘れていたのかと思っていた。さすが団長と呼ばれていただけある。
ぼんやり、他の人間を見送っていたら最初に悲鳴を上げた使用人が、こちらを気遣わし気にこちらを見て通る。声はかけたいがかけられない、そんな印象だった。
(あっ、そういえば)
私は目覚めてから、初めてベッドを降りた。少しふらついたが、気にせず彼女に近づいてお礼を言った。そして転がっていた、ほんのすこし暖かいパンを拾って食べた。立ち去ろうとしていた人たちの視線がとまり、足もとまった。天使様からはため息が聞こえた。だが、先ほどのように取り上げたりはしなかった。
「あっ…その、お嬢さま、そんな落ちたパンを食べないでくださいませ。お気持ちは伝わりましたから」
「いいえ、あくまでパンがかわいそうでしたので。天寿を全うさせてあげなくては」
「…お嬢さま、なんと慈悲深い…ううっ、ありがとうございます。ううっ」
(なんて心の広い方なんだ…)
(使用人にお礼をいうなんて…素敵だ)
(…先に戻ったやつにも、この話を伝えなければ)
一通り、ざわついたところで「ええい、解散っ!!」と状況をぶった切った天使様はもう何も言わなかった。ここの人たち、いい人すぎて不安になるのは私だけなのだろうか。
そして、残った者たちで牢屋見学に向かうことにした。
ここからが、私の本番なのだ。
すでに、天使様=苦労人の予感がしてたまりません。