0日魔女は出会う
悲鳴が聞こえた後は、怒涛のようだった。
天国には似つかわしくない、天使でもない男たちが慌てて部屋に乗り込んできた。悲鳴を上げたのも天使ではなく若い使用人のようで、私のお世話をしに来たようだった。手に持っていたのは、お盆にスープとカトラリー、見たことのない色のパンだった。
それを落とした音と、悲鳴が重なり、他の使用人だけでなく騎士やらドレスを着た婦人やらたくさんの人がどんどんやってくる。盾を持ってきた人もいるし、杖のようなものを持った人もいる。たくさんの人が来たにも関わらず、誰一人としてこぼしたスープを踏んだり、滑って転んだりもしない方が面白くて、ただジッと状況を見ていた。
私を見ると、険しい顔から驚き口が開いていく。そして言葉を発さなくなるので、部屋の中は比較的静かだった。
(…チリン)
(あ…あの鐘の音がする)
どうやら扉の外から聞こえてくるあの鐘の音。それに合わせて新しい足音が近づいてくる。次第に大きくなるそれは比較的近くで止まり、そして部屋に入ってきた。
(チリリリン…リリン…)
「ど、ど、どうした!!!」
たいそう慌ててやってきたのか、グレー髪の大男のヘアセットは乱れ額には汗が光っていた。たくさんの人がいる中で一人だけ服装やまとう雰囲気が違う。
(ああそうか、この存在が)
「あなたが、天使さまですか?」
「騎士団長が、て、天使…」
「てんし…?ふっ…」
「くふふふっ、って、てんし…天使…ふふ」
「ファイナン様が、天使…ふふっ」
「ははは、っふふ、くふふふてん、天使、にても、似使わない、てん…」
誰が最初かわからないが、1人笑うともう1人また1人…。抑え目だった声もだんだんと大きくなり、部屋中で笑いの大合唱が行われた。
天使さまはそんなことは気にせず、私を注視している。当の本人は、それどころではないらしい。私が持っているもの、食べているものの方が一大事らしく、手から無理やり奪おうとする。
「天使さま、なんてことを!やめてください!私の花です!!」
「それは私のセリフだ!3週間も意識が失ってたやつが、目覚めて花を食らうとは何事だ!おい、お前らも笑ってないで手伝え!!」
「天使さまやめてください!まだ食べ終わってません!天国なのに厳しすぎやしませんかっ!」
「なに訳の分からないことを言っている!それは食べ物ではない!離せ!こ、こいつ過酷な状況に身を置いていたにも関わらず、力が、強い…。いいから離せ!そっちの花瓶も!」
「っ…あっ…!!」
攻防むなしく、手から器が離れてしまった。
花は絶対に渡すもんかと胸に抱え隠す。この隙に食べてしまおうかとも考えたが、その一瞬の隙に奪われることもあり得る。この花は絶対に渡すわけにはいかない。力もみなぎり、空腹など感じない不思議な花。
「お前…この花瓶…、水はどうした。まさか…」
「はい、天使さま。おいしくいただきました!」
「…」
すると、笑っていたはずの周りの人間たちは急に静かになった。そして目の前の天使さまも、唖然とし、固まった。これ幸いと残りの花も食べてしまうことにする。
こうして、私の天国ライフが始まったのである。
次回:天国から地獄へ…(´;ω;`)