プロローグ
風に舞う砂ぼこり。
そこら中にゴミのように切り捨てられたりつぶされたりしている兵士たち。
その光景はー地獄であった。
いまだやまぬ悲鳴や命乞いの声、または冷酷な殺戮者の死を告げる声。
切られるものと切る者。
奪われるものと奪うもの。
勝ったものはまだいない。
そんな地獄。
もう、慣れてしまった。
こんな世界の形に。
若かりし頃はまだ見ぬ世界にあこがれて戦争を終結させると息巻いていた。
だが、王になってもこのままだ。
これまでの王と同じく、戦争の中に死者として名を連ねるそんなどこにでもいて忘れ去られる王になることは見えていた。
「大将とお見受けする。一騎打ちを申し込みたい。」
目の前に立ちはだかる脅威。
目の前に立つのは敵国側の”英雄”。
我が国の兵士を幾人も幾人も殺して回った英雄《人殺し》だ。
私も一応は剣の腕もまあまああるほうなのだがね。
この剣士の剣気はすさまじい。
ここが、死地か。
ならば、最後まで誇らしく。
「そうだ。私が大将だ。私が死んだとしても名を覚えておくがいい。わが名はアレクサンドロス。ただのアレクサンドロスだ。」
そして国など忘れて、戦う。
「そうか。私はレテガナラ。ただのレテガナラだ。」
お互いかすかに笑う。
ああ、こんないい奴なら戦争なんてなかったらわだかまりなく過ごせたかもしれないのに。ああ、私はやっぱり戦争が嫌いだ。
剣がまじりあう。
互いの心が透けているかのようにわかる。
ああ、お前も戦争が嫌いか。
そうだよな。
誰だって戦争は嫌いだ。
戦いたい奴はいるが決して戦争をしたい奴はいない。
戦いと戦争は似て非なる者。
ああ、お前もわかるか。その考えが。
だがそんな語り合いも終わる。
「ガッキィィィン。」
私の剣がおれる。
業物だったのだがな。
やはりここが死地だったか。
昔から、私の感は悪いものだけ当たる。
こんなものだったのか。私の人生は。
悔しい。だが、これでいいのだろう。
「見事だった。アレクサンドロス。」
短い言葉だった。
だが、満たされた。
こんな強者に見事といわせたぞと。
でも、後悔はする。
こんな負け方をしたことに。こんな戦争の終結のさせ方しかできなかった私に。
願わくば、もし生まれ変わるならもう、王にはなりたくはない。
だが、こんな人生満足だった。
これだけは確かだ。
この時、英雄の手にした王の首はまるで安楽死したもののように安らかに眠っていたという。それを手にした英雄の目からは水が流れたそうだ。