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魔王の力をお借りします!  作者: 働く猫の日常
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幕間(2)

「お父さん、どうして」


流石のエルザも状況を理解してきれていないのか、驚きを隠せない。


「娘が家出したんだ。追いかけない男は父親失格だよ」


「そういうことじゃねえよ、ジークお前はどうやって、」


ぞっとした。


まるで心臓を直に鷲掴みにされた気分だ。


それぐらいジークから向けられた殺意が濃く、明確だった。


「エリック。お前には失望させられた。魔族の仲間だったばかりか、危険な旅にエルザちゃんを同行させるとはな」


「違うの、お父さん。私は自分の意思で」


「俺はいまエリックと話しているんだ」


普段からは考えられないような剣幕でエルザを制す。


「シルビア。戦場で会う時はお互い騎士装甲や魔道装束に身を包んでいたから、貴様がそんな姿だったとは知らなかったぞ。確かにそんな妖艶な見た目をしていたのであれば、エリックも騙されても仕方がない」


「こんな脅威を感じる魔導士がいれば私(わたくし)が名前を知らない訳がないはず。ジークなんて名前聞いたこともないわ」


「ふん、それについてはお互い様だろう。貴様は戦場で名乗りはしなかったし、俺は戦場では違う名前で通っていたからな。」


興味がないようにジークはエルザから目を離す。


「エリック、一度しか言わないからよく聞け。すぐに武装解除して投降しろ。今なら腕の一本や二本で済むかもしれん」


「はっ。いくら指名手配中だとしてもよ、優しい王国の騎士団がこんな幼気な青年の腕を切り落とすかよ」


「違ぇよ。今なら俺の怒りがそれぐらいで済むかも知れないって話をしてんだ」


「言わせておけば」


我慢の限界だったのか。


放たれた矢のような勢いでシルビアがジークへと剣を向ける。


殺すな。


とっさにシルビアを制止しようとしたが間に合わなかった。


シルビアの腕が切断され、剣と共に宙に舞った。


「っっ!」


シルビアは追撃を避けるように回避行動を取り、切断された腕を回収しながら退避した。


「いきなり突っ込んでくるからよ、狙いがずれちまったじゃねえか。やっぱりブランクは怖いな。首を狙ったのによ」


何が起こった。


腕が切り落とされたシルビア本人も理解できていないようだった。切れ味が良かったのが幸いしたのか、切断面を合わせ回復魔法を唱えれば、とりあえずはくっついたようだ。


「流石の回復力だな、魔族は。まあしばらく、その腕は使い物にならないだろうがな。無駄な抵抗は止めてもらうおうか」


ジークが指を鳴らすと、金属製の厚い幕を突然頭上から覆い被されたように、全身に負荷がかかった。


「重力を弄っている訳じゃない。ちょっと風魔法でそこら一帶の空気の重さを変えただけだ」


まずい。このままで簡単に身柄を拘束されてしまう。


「一撃お見舞いしてやりなさい、キース」


エルザの言葉を合図に「ズンっ」と重低音ともに地面が揺れた。


「エルザの魔力エネルギー源とした、キースの「擬似神速」の解放!その手があったか」


どれだけ、すごい魔力を持っていようと結局は人間。反応できない速度というものがある。これならジークだって。


「馬鹿が」


ジークがそう呟くが早いか


「あがぶっ」。と突然ジークの前に現れたキースが見えない壁に衝突したかのように、その場に頭から沈みこむ。


「無策で俺がこんな開けた場所に出てくると思ったか。俺を囲むように空気のバリアが何層にも渡って張り巡らされている。このバリアは対象の速度や危険度によって硬度を変える。擬似とは言え、神速ともなれば戦車(チャリオット)との正面衝突程度の衝撃では済むまい」


防御面でも穴はないのかよ。


「しかし、ジークよ。用意周到とは言え、さすがのお前も油断が過ぎるんじゃねぇのかよ。ヒントを与えすぎだぜ」


「ああ?姿見の鏡でもくれてやろうか。油断の末、手も足も出ないのはお前だろうが」


「手も足も出ねぇよ、俺は。けどよ、俺には心強い仲間がいるんだ。特に風魔法を専門にする頼り甲斐のあるロリっ娘がよ」


重い風の幕も、変幻自在の風の壁も、メイヴなら切り裂ける。


「ジークさん、お覚悟」


「チッ」


キースの強襲や俺の挑発に注意を奪われていたジークだが、辛うじて反応して避けた。しかし、わずかに攻撃がジークの右腕を擦り、黒い包帯のようなもので覆われた腕が露わになった。


その腕は人間のそれではなく、まるで黒曜石のように漆黒の色をしていた。


『あれは「テュール神の右腕」。ともすれば奴は』


久しぶりにマイラが口を開いたと思えばテュール神の右腕だって?


『神の右腕をその身に宿すことによって神の権能である「外魔力(マナ)の使役」をも自由使いこなすことができる。代償として使い手の体は魔力の出力に耐えられず、廃人になるほどの負荷が全身にかかる。しかし、かの聖戦でテュール神の右腕、その力を使いこなした人間がおった』


『テュール神の右腕』。その存在なら俺だって知っている。そして、それを自在に操った人間なんて一人しかいねぇ。


「ジークフリートさん。未来ある若者の行手を阻むのは野暮っていうものですよ。七大英雄の一人ともあろうかたが大人気ない」


起き上がったばかりで急いで身支度を整えた様子の七大英雄の一人、ベネディクトは同じく七大英雄の一人ジークフリートの名を読んだ。


エルザの父、ジークに向かって。

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