あなたの罪を許します(17)
太陽が落ちてきた。そう形容するのが相応わしい。
世界の芯にまで轟く衝撃とともに、視界全てが煌々とした炎で埋め尽くされたかと思うと、その炎は鳥の頭を携えた人型の形に収束した。
「これが太陽の運び手『ホルス・べフデティ』」
かつての聖戦において、魔王軍の精鋭ですら一瞬にて消し炭とした最強の召喚獣ホルス。改めて実感した。冥界の門番アヌビスはこのホルスと同等の存在。
ホルスの炎に照らされるどころか、その光をも飲み込み、漆黒はその深さを増していく。
「エリック君たちは他の人たちの安全を確保してください。ここから先、私は周りを気にかける余裕なんてないですから」
時間はない。アヌビスを消滅させなくては。
瞬間、アヌビスが消える。
私の願いが天に届いたわけではもちろん、ない。
気づいた時にはホルスの左腕は紫電纏うアヌビスの爪に引き裂かれていた。
「っ、、、!雷の速度で移動っ」
当たり前だ。雷を操る神の中には、その性質をも操るものがいたと神話にも書かれていたじゃないか。こんなことは想定しておくべきことだった。
「ベネディクト、ホルスの腕が!」
「大丈夫、このぐらい心配ありません」
炎は絶えず揺らめいている。それはつまり不変。ホルスが纏う炎は切られた腕を包んだ。その炎はホルスの腕を形どる。
再生した左腕でアヌビスの頭を地面へと叩きつけた。
「太陽神ラーから授かりし極炎にその身を焦がせ」
赤、黄、白、そして蒼の炎をも超える神の領域。その炎の色は奇しくもアヌビスが操る雷と同じ紫。
激しい爆発音とともに地面は爆ぜた。
「アヌビスを仕留めたか」
「いえ、逃げられました。あの爆発はアヌビスの紫電とホルスの紫炎の衝突によって起きたものです」
アヌビスを包む闇が揺らいでいる。
くっきりとした輪郭を持つ闇そのものであったアヌビスの影が、僅かではあるが確実に希薄となっている。このままダメージを与えていけば、やつは存在を維持できず消滅するはず。
「このまま畳み掛けます」
ホルスの炎とアヌビスの雷は拮抗しながらも、その僅かな力の差により徐々にアヌビスを追い詰めていく。
このまま、もう少しだけ
「ッッぐ」
ホルスの召喚術式が刻まれた左半身に鋭い痛みが走り、強い圧力に耐えきれず砕け散る岩石のように亀裂が走る。
やはり、私の体はすでにこの魔法に耐えられるものではない。
『君がホルスを使用できるのは一生で多く見積もって3度までだよ。それ以上の使用は君の魔力回路が使いものにならなくなる。運良く生命活動を維持できたとしても足や五感、もしくは全身に障害が残るかもね』
ホルスを授かる時に受けた忠告が脳裏を過ぎる。生涯4度目の召喚。わかってはいたが、こんなに早く限界が来るとは。
ホルスの動きが瞬きの間ではあるが、静止する。
その瞬間を見逃すアヌビスではない。アヌビスの紫雷が狂ったようにホルスの体を引き裂く。消えゆくホルスを維持するために魔力を込めるが、より体を侵食する亀裂が深まる。
神経の束が引きちぎれるような鋭い痛みに、意識が遠のく。




