あなたの罪を許します(16)
対峙しただけで死を感じさせる存在は今までにもいました。
竜種、魔王軍幹部、上位精霊。
彼らによって自分の体がどのように八つ裂きになるか用意に想像でき、身が震えましたが、その恐怖によって勇気もまた、呼び起こされました。
けれど「これ」はそういった恐怖とは違う。
「死」そのものが形を成し、それに触れただけで自分の「生」が終わってしまう。そのような根源的な恐怖。
そこだけ世界からくり抜かれたような漆黒の体は、かろうじて人型のようにも見える。
「神域召喚魔法「アヌビス」。まさかこの目で見れるなんてな」
「驚きました。エリック君はあれの存在を知っていたんですね」
「ああ、魔王が知っているぐらいのことは大抵知っているつもりだ」
ふざけたことを言うエリック君だが、その表情は真剣そのもので、この絶望的な瞬間にも、僅かな勝機を探っている。
「奴はトリッキーなタイプの召喚獣じゃない。地獄の紫電を操る典型的なパワーファイター、簡単に言えば脳筋野郎だ。ただ唯一特筆すべき点があるとすれば、奴の攻撃は特級魔法程度では回避、防御ともに不可能だけだ。奴がその腕を一振りするだけで俺たちは一瞬で黒コゲのパンになること間違いなしだ」
私はアヌビスの足元に倒れているケレスを見る。
「ケレスのことは諦めた方が良い。アヌビスは多大な魔力のほかに召喚者の命を対価に呼び出す召喚獣だ。こういう情報は釈迦に説法というものかも知れないが」
「確かにアヌビスは契約者の命を対価に、その願いを叶える召喚獣です。つまりは契約の履行者です。契約にクーリングオフは付きものでしょう」
私の意図が伝わったのか、エリック君の口からは笑みが溢れた。
「なるほどね。そういうの俺は好きだ」
「私を滅ぼすと言う契約が不履行になれば、対価も払い戻しになるのは必然ですからね」
「言うは易し。何か案でもあんのかよ」
「時にエリック君は私たちが、なぜ七大英雄と呼ばれているのか知っていますか」
「こんな時に自慢話か、余裕だな。聖戦で大きな功績を残したからだろ」
「それもあります。しかし、歴史に名を残す働きをしたものは他にも大勢います。明確な違いは私たちはそれぞれが固有の神域魔法を所有していることです」
そしてもちろん、この私にも。
「エリック君、シルビアさん。他の人たちの安全を確保してください」
「わかった。シルビア、動けるか。エルザたちを守るよう氷壁を展開してくれ」
「かしこまりました」
聖戦以来、決して発動することはなかった神域召喚魔法、その術式を展開する。
私が呼び起こすは太陽の運び手、その化身。
神域召喚魔法「ホルス・べフデティ」




