あなたの罪を許します(14)
「シルビア!!」
激しい音とともに魔族の女が地面に叩きつけられる。エリックなどという足手纏いのガキを庇いながらもよくぞここまで戦ったものだ。
「ふん、くだらない。所詮はこんなものか」
オー・ランタン、召喚獣が一体やられたのは正直、実力を過小評価していたが、どうでもいい。
「ベネディクトが来ないなら公開処刑にする意味もなかったな。いつの間にか民衆も集まってきた。さっさと処刑を済ませるとしよう」
「はっ。そんなにベネディクトが許せないかよ」
「三体の召喚獣に取り囲まれてなお、その不遜な態度は怒りを通り越して呆れたものだな」
許せないか。ああ、許せないとも。しかし、俺の怒りはベネディクトなんかには、ベネディクトなぞには向かうことはない。あのクズになど最初から裏切られる期待など持ち合わせてなどいない。
俺の気持ちを裏切り、信頼を踏みじったものは
「俺が許せないのはベネディクトではなく、我が姉であるフローラだ」
「ああ?お前の姉だと」
「ああ、我が姉フローラは美しく、聡明なお方だった」
合理的で論理的、私の理想とする人物像を体現する、まさしく聖女。
「それがあのベネディクトなどという愚者と関わったばかりに変わってしまった。貴族と平民が等しく扱われるべきだなどど妄想に取り憑かれるようになった」
「へっ。大好きなお姉ちゃんが結婚を機に変わってしまって嬉しいかよ」
「黙れ」
地響きとともにエリックは召喚獣アモンに地面に叩きつけられる。
「しかし、それでも私は信じていた。今はまだ、一時の感情に流され正常な判断を失っているだけだと。現実と直面すれば私が正しかったのだと、いずれわかる時が来ると。私の理想の姉として戻ってきてくれると疑わなかった」
しかし、フローラはもう戻って来ない。
「貴様は我が姉フローラの最後の言葉がどんなものだったか想像がつくか?」
咄嗟に魔法で防御をしたのか、まだ立ち上がる余力を見せるエリックに私は問う。
「知るかよ。自分を殺した子どもへの恨み辛みかよ?」
ああ。そうだったら幾分か納得することもできただろう。フローラが信じていたことが誤りだったことの証左となるのだから。
今でも忘れない。あの夜。命を引き取る間際にフローラのそばに駆けつけたのは私だった。医療の心得を多少なりとも持ち合わせていたが、できることはほとんどなかった。ただ茫然と私は徐々に冷たくなるフローラの体を抱き寄せていた。
そんなフローラが何かを必死に言葉にしていることに気づいた。俺は咄嗟に耳をフローラの口に当てた。
『ごめん、、ね。ケレス。あの娘を、、お願いね。ベネディクト、、を私、の、代わりに』
フローラの言葉はそこまでだったが、続きなど容易に予想できる。
「馬鹿な女だったよ。罪人に温情をかけた結果、命を落としておいて、最後に言うセリフがそれか。信頼していたベネディクトは自身が招いた結果を背負うことができずに逃げ出したと言うのに。本当に馬鹿な女だよ」
フローラは間違っている。人は生まれついて善性で、心優しいものばかりだと?罪は償えば何度でもやり直せる?ふざけるな。こんな馬鹿げた話があるか。人は生まれた瞬間から優劣が決まっていて、劣っているものはその境遇から悪を為さねば生きてはいけない。そしてその性分は死ぬまで変わらない。
そうに決まっている。そうでなければならない。世界はそうできている。そう考えなければ。
フローラが死ぬなんて間違っている。
間違いは正さなければならない。
「私が自身の正しさを死ぬまで証明すれば、フローラもきっと過ちを認め、私を褒めてくれるさ。そのためにもお前らは、死ね」
アモンの最大火力で磔にされている罪人もろともエリックを焼き払う。
そのはずだった。
アモンの炎を巻き上げるように風が俺と罪人どもの間を隔てる。パチンっ。と指が鳴る音とともに風は姿を消した。代わりに現れたその男は私が最も殺したいと願っていた相手だった。
「とっくに国外へ逃げ出している頃かと思ったがな、ベネディクト」




