あなたの罪を許します(11)
「聖戦集結から間もなくして、僕は故郷であるこの街に戻ってきました。何もかもが破壊され、聖戦前の面影などありませんでした。そんな中でも、街のみんなは僕を七大英雄などと褒めたたえてくれました。愚かだった僕はその期待に応えられると勘違いをしてしまったのです
「一族は代々最高裁判長を務めていて、僕はそのあとを継ぎました。秩序が失われていましたから。争いや衝突は絶えなかったです。けどそんな時こそ、法が必要だと考え、一生懸命に頑張りました。罪には罰を与えました。そして罰によってその罪は赦される。そう信じていました
「そんな私をフローラは応援してくれました。
「フローラは私に召喚魔法を授けてくれた師の娘でした。聖戦で師を守れなかった私を責めるどころか私の帰還を誰よりも喜んでくれた心優しい人でした。彼女がいたから僕は頑張れたんです。
「ほどなくして私たちは結婚しました。ケレスは姉を奪われたようで面白くなかったようでした。僕を酷く嫌っていたようでしたが、姉であるフローラの幸せを誰よりも祈っていたのも彼でしたよ。
「僕はそれからより一層法廷での仕事に力を入れました。ケレスも大いに力になってくれました。。彼の洞察力は裁判にて大いに役立ちました。
「罪人は尽きませんでした。あれだけの戦争のあとです。誰もが余裕を失っていました。だからこそ、罪を罰しました。刑に処しました。罪人が己の罪を赦せるように。誰もが彼らを赦せるように。罪人に死など決して与えませんでした。
「極刑の廃止に誰よりも反対したのはケレスでした。悪人は悪人として生まれてくるというのが彼の主張で、一度でも馬脚を現わした人間を生かしておく道理はないと。そのころからケレスと衝突することが増えたと思います。それでも僕には信念がありました。許されない罪など無いのだと。
「その思い上がりこそが僕の罪だったのでしょう。許しがたく、度し難い。神が僕に与えた罰はいまもこの身を焼いています。
「あの時のことを夢に見ない夜など無いのです。
「一人の少女が貴族の男を殺しました。君よりずっと幼く、8歳になるかどうかだったと思います。戦争孤児というやつでして。恨みを買っていた貴族を殺すためだけに拾われ、育てられた。可愛そうな少女でした。
「『殺人には殺人を』と、死罪を求める声もありましたが僕はもちろん、却下しました。その少女に何ができただろうか。善悪の判断もつかず。親同然の者から遣わされた仕事が洗濯ではなく、殺人であったというだけです。
「裁くべきは悪意であって悪事ではない。僕は罰として労働を命じました。しかしそれは建前で実際は養子にして育てようと考えていました。
『誰かが面倒みなくちゃいけないなら、私たちが適任じゃないの』
「フローラがそう言ってくれたからです。僕たちは子宝には恵まれなかったから、フローラは寂しかったのかも知れません。
「ケレスは反対しました。しかしフローラが断じて譲りませんでした。フローラは愛おしそうにその少女の頭を撫でていました。人のやさしさに困惑した表情を浮かべていたその少女を見て私は、きっと大丈夫だと安堵すら覚えていました。
「その日の夜、フローラは息絶えました。胸元にはナイフが突き刺さっており、大きな物音に駆け付けた時には既にフローラはケレスの腕の中で死んでいました。犯人は明らかですよね。
「少女の姿はどこにもなく、少女の持ち物は全て無くなっていました。
「ケレスはいつの間にか僕を睨みつけていました。
『貴様が殺したようなものだ』
「彼は何も言いませんでしたが、僕にはそう聞こえました。
「ああ、そうでしょうとも。僕の思い上がりが妻を、彼の姉を殺したのです。殺人鬼はやっぱり殺人鬼でしかなかったのでしょう。
「そんな僕が今さらケレスの何を非難できるって言うんでしょうか?」




