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魔王の力をお借りします!  作者: 働く猫の日常
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あなたの罪を許します(5)

なんでこうなってしまった?


石造りの建物に温度を感じさせない濃い色の木で作られた椅子や机が規則正しく並べられている。そしてそのうちの一つに俺は座らせられている。


そう、ここは法廷である。



「これより少女に猥褻な行為を働いた被告人エリックの裁判を執り行う」


恰幅の良い、ふくよかな体の上に岩石を思わせる固い表情の顔が乗っかっている裁判長ともおぼしき男はよく通る声でそう言った。


その正面には噂に聞く証言台らしきものが設置されており、俺とメイヴは証言台を挟んで向かい合うように座っていた。


そして俺たちを取り囲むように傍聴席には多くの人間が座って開演待つ観客よろしく息を殺してその時を待っている。


「それでは代官は今回の事件の概要を述べよ」


スッと迷いのない足取りでメイヴの隣に座っていた女性は立ち上がり証言台へと進む。


メイヴは何か言おうとしていたが、その代官の女性はメイヴを静かに手で制した。メイヴはここに連れて来られてから終始困惑した様子である。


「この被告人エリックは白昼堂々とこの見目麗しい少女であるメイヴにわいせつ行為を働いたのです。証言者も多数おり、反論の余地はございません。即刻禁固刑、いや終身刑といたしましょう」


「いやちょっと待てって。俺には別にやましいことなんて無い。あんなのいつもやっている遊びだ」


「聞きましたか、裁判長。あのような行為を普段から行っていると被告自ら告白いたしました」


「なっ。お前、人の話を聞けよ」


俺が席から身を乗り出して抗議しようとする隣に座っている小太りちょび髭の男が「大丈夫」と言わんばかりの表情で微笑みかけてくる。


正直清潔感がかける服装とそのちょび髭にちょっと引いていたくらいだが、俺の弁護人としてこの場に座っているこの男はもしかしてやり手なのかもしれない。ていうか前の村にもちょび髭がいた気がするんだけど流行ってんのか、あの髭?


「被告人はその少女メイヴと親しい間柄であり、正しく兄弟のような信頼関係を築いています。おんぶや軽いスキンシップなど軽いじゃれ合いに過ぎないでしょう」


おお。なんて落ち着いているんだ。それだよ、それ。俺が言いたかったことは。


「親しいというのは主観に過ぎません。男はいつだって勘違いしがちですよね。好かれているとか勘違いしてないでいただきたいですね」


しかしそれでも怯まない様子で女代官は言葉を続ける。


「だいたいおんぶをするだけならまだしも、耳をつつーっと触ったり、そのあともドサクサに紛れてあんなところやこんなところを触っていたという目撃情報をあるんですから。そんなものは性暴力に相違ありません」


「被告人、心あたりはあるかね。耳以外に他にどこに触ったのかね」


裁判官が訝しみながら訪ねる。


おやおや、まさか俺を疑っているのか。あんなところやこんなところなんて触った覚えはないぜ。俺は証言する。己の身の潔白を証明するために。


「胸部と臀部でんぶだ」


「確かかね?」


「ええ」


「うっかり触れてしまったということかね」


「いいえ。もうガッツリと。成長を確かめるために」


兄のような存在として俺には妹の成長を記録する義務がある。


「死刑」


「ちょっと待ってください、裁判長」


君は黙っていてくれないか。と冷静さを欠いた様子の弁護人は俺の耳元で囁いた。いったい何がいけなかったのだろう。


「先ほど申した通り、2人はまるで兄妹のような間柄。であればある程度スキンシップが過ぎることも有りましょう。それに心許さぬ相手の背中で眠るなんてことができましょうか」


「薬か何かで眠らせたのではありませんか?そして寝ている間に良からぬことを働いこうとしたとか。想像に難くないですね」


「ち、違います。訳も分からずここまで連れてこられましたが、エリックさんと私は仲間です。さっきのも本当にじゃれていただけです」


状況がつかめず言われるがままに席につけられていたメイヴは我慢できない様子で声を上げた。原告側からのまさかの容疑否認である。しかし、この状況においても女代官は怯まないどころか、むしろメイヴに同情するような表情を浮かべた。


「裁判官、聞きましたか?もはや原告は正当な判断もできない状態なのです。これはもはや洗脳と言って良いでしょう。一刻もこの性欲の獣に断罪を」


「おいおい、勝手なこというなよ。メイヴ本人も容疑を否定してるじゃねえか」


「被告人、今回の騒動で本当にやましいことはない言いきれるか」


裁判長が諭すような声色で念を押してくる。


「だからやましいことなんて無いって。耳を触ったり、胸部や臀部を触ったのだって悪気はなかったし。おんぶしている時だって精々、メイヴの平坦な胴体から伝わる肋骨ろっこつの感触を背中越しに楽しんでいただけだ」


しーん。と法廷が気味悪い静寂に包まれる。


「エリックさん、聞き間違いかもしれませんが。おんぶしているときに何と?」


唖然とした様子でメイヴが聞き返してくる。聞き取れなかったのか?法廷では少しの誤解が命取りだからな。ここははっきりとさせておこう。


「メイヴの洗濯板のような胴の感触を背中で感じていただけだが」


メイヴは自分の胸に手を当て、何度か胸からへその辺りを撫でるように上下させた。ふう、と息を吐き出したかと思うと何故だか満面の笑みを浮かべていた。


「裁判長、エリックさんに死刑を求めます」


『貴様の性癖はマニアックだと、いい加減気づかないと命取りになりかねんぞ』


そんなマイラの忠告が深いため息とともに聞こえた。だとしたらマイラ、もう少し早く言ってくれないかな。


自分の価値基準がアブノーマルだったなんて。俺は足元が揺らぐのを感じた。

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