あなたの罪を許します(4)
「メイヴもしよかったら俺の飴も食べるか?」
「良いんですか!いただきます、飴もエリックさんの厚意も」
自分の飴を食べ終わるやいなや、メイヴの話に夢中で食べていなかった俺の飴を恨めしそうに見つめていたのであげることにした。さきほどの七大英雄やらベネディクトやらの情報の対価だと思えば安いものだ。それに飴は別に好物ではない。強いて好物を挙げろというなら純粋無垢な子供がそれだ。
「むむ、こっちは確かメロン味なんですよね。これもまた良きです!」などど、言いながら大きい飴を口の中に突っ込み幸せそうにモゴモゴとしている。
こうしてみるとやっぱり普通の子供だよな、メイヴは。この体躯で大人でも太刀打ちできない魔物を瞬殺してしまうんだから。ヘルメスで俺が勝つことができたのはメイヴ自身が本気ではなかったからだと思っている。
心の奥底では負けることを望んでいたんだと思うしな。そういえば最初にあったときはフード被っていてエルフだってこと隠していたんだよな。今では堂々とその尖った耳を、耳を。
えい。
「ひゃああん!?」
俺が耳の先端を掴んだ瞬間、雷にでも打たれたかのように全身を痙攣させた。危うく飴を落としそうになったメイヴでったが、地面に触れる直前戦闘でも見るころができないほどの速度で拾い上げた。見事。
「いきなり何をするんですか、エリックさん!」
「いや、何かこう猫がねこじゃらしに反応するように俺もエルフの耳に反応してしまって」
コリコリしていた。
「やめてください。エルフの耳は敏感なんですよ。猫というならこれはヒゲのようなものでわずかな風の流れや温度の変化を感じ取れるデリケートな部分なんですよ」
ツツーっと指で撫でてみた。
「んんぅっ!」
ほうほう、これはなかなか。
「いい加減にしてください!そろそろ本気で殴りますよ」
涙目になりながらもキッと睨みつける。普段であれば悪ふざけもここまでなのだが、あまりに良いリアクションをするので変なスイッチが入ってしまった。
「ふっふっふ。できるものならやってみるが良い。自ら弱点をさらけ出すとはエルフの精鋭とは言え、まだまだ子供だな」
コチョコチョとメイヴの耳をこれでもかとくすぐり始めた。抵抗するメイヴであったが最初の余韻が残っているのか十分に力が入っていないようだった。
「や、やめてください。あっ、そこは耳じゃないっ。ひゃあ!誰かぁ!シルビアさん、エルザさん!」
「はっはっは。シルビアもエルザも来ないさ、観念しろ」
ついに実力でメイヴを倒せる日が来た。女性メンバーのほうが強く、男性メンバーが肩身の狭い想いするのもこれまでだ。失われた尊厳を取り戻せる日がついに。
「衛兵さん、コッチです!ここに幼女を性的虐待している奴がいるんです!」
「なにい、もしかして幼女を背負ってニヤニヤしていたという変質者と同一犯か!」
俺はメイヴとの戯れをやめた。こんなことをしている場合ではない。
「悪いな、メイヴ。見知らぬ街だろうとそんな性犯罪者を放っておくことなどできない。この続きはまた後ほどだな」
振り返ると武器を構える衛兵と、恐らくは通報したであろう気の強そうな女性がいた。
「安心してくれ、この俺が偶然この町に来たことが貴方たちにとっての幸運だと言うのなら、それがそのまま変態野郎の不幸ということだ」
幼女を背負ってニヤニヤしているような性犯罪者は俺が許さない。




