そんなの馬鹿でもわかります(20)
「喰らいやがれ、邪精霊デュラハン!お前の正体はバレバレだってぇの!!」
バイコーンから飛び降りたエリックは大剣に溜まった魔力を開放し、魔法を発動する。鎧騎士の足元より浮かびあがるその魔法陣はすぐさま鎧騎士を包み込んだ。
「ぐあああああああああ、あり得ない。この魔法は。大気中のマナを吸収することができないだと。貴様、我の正体をどうやって?いや、それよりもこの魔法は!?この魔法を知っているものなどこの世界にただ一人のはずだ!それを貴様ごときがなぜ」
「はっはっは!それはトップシークレットだぜ」
ざまあみやがれ。と意地の悪い笑みを浮かべるエリック。よく見ると服はボロボロ、体も傷だらけだ。
「それに貴様はあの時、谷底に突き落としたはず!なぜ生きている」
そうだ、エリックたちは谷底に突き落としたと、あの鎧騎士が言っていた。この状況は俺にとっても、鎧騎士にとっても予想外の展開なのだ。開いた口がふさがらない。当の本人であるエリックは、その様子に気分を良くしたのか、痛快だと言わんばかりの表情だ。
「愚かなり、デュラハン!谷底に落とすなど、物語における生存フラグだろうが!しっかり騙されやがってアホめ!」
「調子に乗ってるところ悪いけれど、私の幻影魔法のおかげなのだから自分の手柄みたいに言わないで欲しいものだわ」
バイコーンの背にはもう一人、エルザが乗っていた。バイコーンから飛び降りた彼女は勢いそのままに俺たちのほうへ、ネイアのところへ迷いなく駆け寄る。
「どいて頂戴、キース。その子を助けるわ。あら、左足が動かないのね。気休めかもしれないけれど、もうひと踏ん張りできるぐらいなら治してあげられるわ」
そう言うとネイアは俺の足に回復魔法をかけた。溢れる魔力に耐え切れず壊れた足を完治させることはできなくても、あと一回踏み込むぐらいの力は戻ってきた。
「エルザ、さん、」
緊張の糸が切れたのかメイヴはその場で気を失った。エルザは倒れそうになるメイヴを抱きしめ、そのまま回復魔法を施すと地面に優しく寝かせた。
「そう、頑張ったのね。あとは私たちに任せて、少しの間眠りなさい」
メイヴの安心した寝顔を見るとエルザはすぐさまネイアの元へと駆け寄り、大掛かりな回復魔法陣を展開し始めた。
「ネイアは助かるのか!?」
「この子は死なせないわ、大事な証人だもの」
「証人って何の?」
「キースがこの子やメイヴに主に性的な意味で危害を加えていないかのよ。ちなみに証言が得られない場合も問答無用でキースは有罪だからその場合は死刑よ」
無罪推定の原則ならぬ、有罪推定の原則である。
「エルザ頑張ってくれ、お前の頑張り次第で無実の友人が死ぬことになる」
「ええ、だから絶対に救ってみせる」
エルザはすぐに展開した魔法陣を発動させた。その魔力循環速度は凄まじく、素人目に見ても常人には到達することも叶わないものだとわかった。もはや俺の声など聞こえないのだろう。
「これもまた一興か。邪魔が入りはしたが、殺し損ねた者ごと葬れるとすれば、手間が省けるというもの」
「キースいけるな?」
襲い来る影の獣を切り伏せながらエリックはいつにまにかすぐ隣に立っていた。エリックは昼食の買い出しを頼むような気軽さで俺に問う。
「奴は一時的ではあるが、外魔力を吸収して回復することはできない。今なら倒すことができるのだが、俺はもう見ての通り魔力がスッカラカンだ。それに魔力があってもあんなの倒せないしな。あとはもうお前に任せるわ」
そう言うとエリックは上級回復魔法を多重発動させているエルザのほうへと向かう。やれやれ、今にも死にそうな親友を置いて、幼馴染の女の子を優先するなんて。
「信頼されてるってことだよな」
俺が尊敬する何人もの人間が、俺なんかを信頼し、その全てを託してくれる。その事実がたまらなく誇らしい。
魔力の循環は完了した。俺は剣に込められた魔力をこの世界に解き放つ。
「疾く、失せよ」
鎧騎士の八岐大蛇は俺が剣の魔力を開放するのとほぼ同時に放たれた。
地面を全力で踏み砕く。次の瞬間俺は、虚空切り裂く稲妻と化した。
嵐の暴風雨のような魔力に翻弄されながらも俺は、八岐大蛇を切り刻む、その一頭でも残せば俺たちは全滅する。後方で俺を信じる仲間たちはもう、誰一人殺させない。
方向感覚はとうに失せた。索敵魔法で感知した物体をただ切りつける。全ての蛇竜を切り刻み、感知した敵影は残り一つ。
「在り得ぬ、在り得ぬ!貴様なんぞにこの我が負けて良いはずはない」
そうだ。俺がお前に勝てるはずもない。だからお前に勝ったのは俺ではなくネイアだ。1000年の時を越え、どんな絶望に苛まれようとも、希望を送り届けた彼女の意思にこそお前は敗北したのだ。
「消え失せやがれぇええ!」
一閃の雷光が山一帯を取り囲む闇を切り裂いた。




