そんなの馬鹿でもわかります(18)
「なんで、、、、。こんなことを」
ネイアの手には、いつの間にか二振りの剣が握られていた。俺は見た。蛇竜がネイアを襲い来る瞬間、陽の光よりも眩しい光が蛇竜を消し去り、その光はやがて二筋の光に収束していき、いつの間にか双剣の形を取っていた。それは一目で神の手によって作り出された神器であるとわかった。これが恐らくネイアの体に封じられていた神域創成魔法で創り出されたものなのだろう。
「キースさんには死んでほしくありませんでしたから」
ネイアの腹部は深くえぐられており、体は糸の切れた人形のように動く気配はない。
「待ってろ、いますぐに治療するから」
「いいえ、きっともう間に合いません」
「間に合う、間に合うさ!もし、間に合わなかったら、俺は一体、なんのために」
最後のほうは言葉になることもなく、喉の奥から出てこようとしない。
「キースさんは私に希望をくれました。この二日間本当に楽しかったのです」
ネイアは息をするのも苦しそうだ。息を吐くたびに生気も一緒に吐き出しているかのようだ。しかし、だからと言って息を一度でも止めれば、そのまま止まってしまうようにも思えた。
どうにかしなくちゃいけないのに、どうすることもできない不甲斐なさに打ちのめされながら俺はネイアの言葉に必死に耳を傾けることしかできない。
「最後に一つお願いがあります」
「何だ、俺は何をすれば良い?」
「私のことを想って泣いてくれるなら、私の生に意味があったと思うなら」
今にも消え入りそうな淡い光を瞳に灯すネイアの表情は、しかし迷いなく透き通って見えた。その様子は朝霧を拓く陽光を思わせた。
「雷霆の短剣符。天の雷を封じ込めた神剣です」
ネイアはその手に握られた双剣に視線を落とす。その青白く光るその剣からはとてつもない魔力の波動が感じられ、一つの剣に留まっているのが不思議な魔力量が秘められていると、魔術に疎い俺でもわかるほどである。
「この剣で証明してください。キースさんに託します」
再び、俺を見るネイアの目は覚悟を決めた人間のそれだった。
「私はあのとき託された希望を後世に確かに繋いだのだということをあなたが証明してください」
約束ですよ。
持ち得る最後の力を全て使い切ったように、ネイアは目を瞑って動かなくなった。
「人間よ。その双剣を我に渡せ。さすれば命までは取るまい」
「ふざけんなよ」
「ジュウっ」と。その神器を握った瞬間、皮膚が焼け爛れるような熱を感じた。これはきっと俺が、俺如きが扱って良いものではないのだ。剣が人を選ぶなんて物語にはよくある展開であるが、子ども心に「武器に意思なんてあるはずない」と思っていた。
子どもに斧が振れないように、老人が弓矢を引けないように。ただその武器に相応しくない人物がいるというだけなのだ。そして、分不相応なものがその力を使えば、大けがをすることになる。ただの武具でもそうなのだ。
それが神器ともなれば。
この剣の魔力は触れただけでもわかる。俺なんかが使用すれば命が持たないということが分かる。それでも俺はこの剣を握られなければならない。証明しなくてはならない。
ネイアはこの世界に必要な人間であったということを。
「お前だけはどれだけ命乞いしても許してやらねぇからな!」




