そんなの馬鹿でもわかります(10)
「トロッコ」
「コップ」
「プリン」
「あ!プリンって言ったね。またメイヴちゃんの負けだ」
「はあ?一体何を言っているんですか?プリンではありません。プディングです。私は正しい発音では聞き取り難いと思ってキースさんに合わせて発音しただけです。私はまだ負けてません。戦いはここからですよ」
「あのキャラメルソースを絡めた洋菓子のことをプディングなんて呼んでる子供なんて見たことないぞ!戦いはもう終わったんだよ。宣言されるべきは戦闘継続ではなく終了のはずだ」
「嫌です。キースさんに敗北するなんて世間が許してもこの私が許しません」
世間が許すものを許せないのはただの我がままでは?セリフ自体はカッコイイはずなのに使用場面が悪すぎてこれ以上ないほど最低なセリフと化していた。
「いいじゃないですか、キース様。では次は私の番ですね。えーっと、『プディング』ですから、グですね。グ、グ、グ、、、グレムリン。ああ、これでは私が負けになってしまいましたね」
見た目相応の我がままっぷりを見せるメイヴに対してネイアがわざとらしく自滅し、この不毛な戦いに終止符を打った。
「ふふん、ネイアさんもまだまだですね。グレムリンなるマイナーな魔族の名前を知っていることが仇になるとは。博識であるが故の敗北なんて皮肉なものですね。キースさんには無縁の敗因です」
よほどこれまでのしりとりで全敗を喫していることに耐えかねているのか、普段ならばもう少し寛容な態度を見せるメイヴであるが、そのような姿は見る影もない。
気晴らしで始めた遊びで、気分が害されているのであれば本末転倒である。
昨晩、無事に夕食を作り終え森で一晩過ごしたあと、俺たちはやっとパルナ山の登山を開始した。登山を開始してすぐは普段は見ることない景色に心躍ったものだが、それも長くは続かなかった。
木、木、木。やっとのことで森を抜ければ今度は岩肌むき出しの斜面。岩、岩、岩である。同じ景色に飽き飽きしてきたところで、何かゲームをすることで気を紛らわそうとしたのだ。
「しりとりをしましょう!歩く百科事典と言われたこの私に勝てるものなら勝って見せてください」
そう意気揚々と提案したのがメイヴだった。そこからこれで10戦10敗。自ら提案したゲームでボコボコに敗北し続けるその心象(いや心傷と言うべきか)は形容するのを差し控えたいほどにボロボロなのだろう。
「そもそも、語彙力を試すこの遊びが私と相性が悪いだけなのです。そう、数学!数を使ったものであれば得意です。何なりと出題してください。さあ、どうぞネイアさん!」
歩く百科事典と宣った先ほどの自分などはさっさと無かったことにして次のステージに進むこの姿勢は見習うべきかも知れない。それに違いはよく分からないが言葉を調べるなら事典よりは辞典のほうが適切であると聞いたことがある。そのことを踏まえれば、歩く百科事典がしりとりに向いていないという考察は幾分か有効かもしれないし、ここで子細を述べることは友好的でないことも確かだ。
ネイアはコホンとわざとらしく咳払いをしたとに次の質問を俺たちに問うた。
「それでは、『ある魔法でトムが時速100kmで地球を一周しようとしたらどのくらいの時間がかかる答えなさい。ただし地球の外周は40,000kmだとする』というのではどうでしょう?」
「全くこれは侮られたものですね、私の力、そしてトムの力が」
メイヴのような見た目の女の子が解けるような問題では恐らくはないのだが、流石はエルフ族の精鋭、というか実年齢43歳。簡単に解いてしまうか。まあ、数字が複雑に羅列されていないし、そもそも約分さえできれば複雑でもない。ここは大人の対応で見事正解したメイヴを称賛できるよう拍手の準備をして待つとしよう。
「トムが本気を出せば一秒もかかりません、ずばり答えは0.1秒です!」
だとすればトムは1秒あれば、地球を7周以上できることになるが?光の速さである。毎時100kmの設定はいずこにいったのだ?地球の裏側だろうか、7周半して?正しい答えは400時間だ。
「トムが時速100kmしか出せなかったのは、はるか昔の話です。コロッセオでの戦い以降、仲間の死を乗り越えた彼は限界を超え、光の速度を手に入れたのは記憶に新しいですね」
「いやトムがそんなに凄いやつな訳がないでしょう」
「あなたにトムの何が分かるっていうんですか!?男だったら仲間の危機に光の速度くらい簡単に超えてくださいよ。そのくらいできなくてどうするんですか!」
もしかしたら、メイヴちゃんはアホなのかもしれない。




