魔王の魔法をお借りします。(5)
もうすぐ、例の教会が見える。あたりは静まり返り、俺たちの馬のひづめが地面を蹴る音のみが響いている。空に浮かぶ満月を除き、俺たちが持つ松明の灯の明かりだけがあたりを照らしていた。この村の住人はすでに寝静まっている頃だ。
これから襲い来る悲劇など、夢にも思わず眠りについたのだろう。その平和ボケした面が悲痛と苦しみ、そして恐怖に歪む顔を思い浮かべると自然と口角が上がった。俺の興奮が伝わったのか、乗っているこの馬も心なしかその足を速めたように感じる。
村の正面から侵攻する部隊は一足先に村人を蹂躙して回るだろう。ああ、私もそちらのほうに混ざりたかった。放った魔法が人間の皮膚を焼くあの匂いを早く感じたい。なぜ私がこんな貧乏くじを。
「あの『宝玉』の結界を破るためには少なくとも上級以上の魔法が必要になる。」
あいつがそう言ったからだ。フードを深くかぶったあのローブを着た男だ。俺たちに指図するあの物言いには腹が立ったが、多額の報酬金と、そして仕事さえ果たせばこの村を自由にして良いという好条件をふいにする訳にはいかなかった。
偵察に行った奴らは戻ってこなかった。大方、魔物に襲われたのだと気にも留めていなかったが、まさか先に村に潜み、楽しみを独占しているのではないだろうか。そんなことは許さない。そんな考えが頭に浮かび、手綱に自然と力が入る。
教会が見えてきた。早く、あの教会に置かれているという『宝玉』を手に入れ、村へと向かうのだ。そうすれば十分に間に合うだろう。そういえば、教会には年頃の娘が一人いるらしい。まずはその娘で楽しむとしよう。
着いたぞ。私は急ぎ、馬から飛び降りた。そして急ぎ聖堂と思われる建物への中へと向かった。開ける手間も惜しい。私は詠唱破棄の魔法で入り口を破壊し、足を踏み入れる。どれが『宝玉』なのかは一目でわかった。
「あれさえ手に入れれば!」聖堂の最奥部に設置されているあの像に飾り付けられているあの紅く煌々と輝く石に手を伸ばした。
しかし、空間がねじ曲がり私の手がその『宝玉』に届くことは無い。「これが結界か。」
「こんなものに時間を取られている時間など私には無いのだ!」この間にも私の仲間によって私の楽しみが奪われているはずだ。
「エクスプロージョン」
私の放った魔法は目の目の石像を確かに消し飛ばした。事実、聖堂の半分は形を失い、室内と室外の境目を無くしていた。しかし、石像の周りはまるでそこだけ、この世界から切り取られているかのように形を保っていた。
こうなれば、何度でもぶち込んでやる。私は詠唱を行い、魔力を最大限まで練り込みそして威力を最高まで高めた上級炎魔法を放つ、、、、、、、、、、、、ことに失敗した。
私は後方より繰り出される斬撃をかわし、勢いそのままに相手を蹴り飛ばした。
「うがっ!!」
蹴り飛ばされたその人影はギリギリ形を保っていた聖堂の壁に背中を打ちながらも気を失わずに立ちあがり、あてがは外れたと言わんばかりに強い目で私を睨みつける。
まさか騎士団が情報を嗅ぎ付け先回りをしていたのか。いや違う。立ち上がったその男、いや少年は騎士団というにはあまりに装備が不十分だ。へこみが目立つ胸当てに、使い古された小手と膝当て。手に握る剣は大方村の自営のために作られた粗悪品だろう。
村人か。まったくこんな奴の相手をしている暇はないというのに。
「魔導士が接近戦も強いなんてズルいだろ」その少年はそんなことをつぶやき、しかし一向に弱まることのない闘志を秘めた目で私を見据えている。
そしてその剣を構えた。




