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魔王の力をお借りします!  作者: 働く猫の日常
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そんなの馬鹿でもわかります(1)


「お前のことが心配なんだ、キース。大事を取ってここに残ってくれ」


「キースさんも同行したら、死ぬかも知れませんよ」


「確実に死ぬわ」


「というか死んでくれないかしら?」


「順を追うごとにセリフが辛辣しんらつになっていってるんですけど!?」


「まあ、落ち着いてくれキース。言葉は悪いがみんなお前のことを心配して言っているんだから」


エリックは我がままを言う子供を説き伏せるように優しい笑顔を浮かべながら俺の肩に手を置いた。旅支度を済ませて出かけようとするエリックたちに最後の説得にいったが無駄に終わったようだ。


勘違いして欲しくないのだが、これは俺がシルビアの胸部を注視していることがバレたり、メイヴの鎖骨の感触を楽しんだりしたことで遂に彼女らが俺に愛想を尽かせて置いていこうとしているわけではない。そもそも愛想など、うの昔に尽かされている。


だから今回俺が置いて行かれるのは日頃の行いなどが原因ではなく。単純に実力不足が理由だ。むしろそっちのほうが悲しい。だってどうしようもないじゃないか。俺はただの村人なんだから。


話は昨日にまでさかのぼる。


あの商業都市ヘルメスの事件から、つまりはメイヴが俺たちの仲間として同行を開始してから1週間がたった。馬車に揺られ、自分たちの足で渓谷を越えてやっとの思いで、キーテジ村に到着した。ヘルメスに比べればかなり見劣りするが、それでも俺たちがいたチェスタ村に比べれば遥かに栄えていた。


湖に面している一方で、広大な野原にも恵まれた土地でもあり、耕作に適していることが分かる。建物は平均的な一軒家が多く、高い建物は風車小屋が3棟があるくらいである。


つまりは旅の疲れを癒すには持ってこいの休息地という訳だ。皆がすっかり固くなったその体を数日ぶりにベッドの海に投げ出せることができると安堵の表情を浮かべる中、エルザだけが顔をしかめていた。


「宿に泊まるだけのお金がないわ」


「おいおい、マジかよ。俺たちってそんなに貧乏だったのか!?ヘルメスのときは宿代も無料タダだったんだし、ここまで馬車代ぐらいしかかかってないはずだろ?」


普段は多少のことでは不平不満を漏らすエリックではないのだが、余程この旅で疲れがたまっていたのだろう。その場に座りこんで自分の疲れをエルザにアピールする。


「全く、だからこの狂信者に財布を預けておくことなど、初めからわたくしは反対だったのです。どうせ、後先を考えずに浪費したのでしょう」


俺にはわかった。二人の反応を受けて、エルザの雰囲気が変わった。寝ていた猫の尻尾をうっかり踏んでしまった、あの感覚を思い出す。そしてその怒りの矛先は俺にも向けられる危険をエルザの視線から感じ取った。


ええ、思い当たることはありますとも。


「そうね。後先考えずに夜の店に行く幼馴染や、化粧品なんていう無駄なものに残っていたお金の9割を持っていかれなければこんなことにはならなかったのにね」


「よし、今夜も野宿だな!満点の夜空を天幕に眠ることができるなんて贅沢だなあ!野宿サイコー!」


そう、散財したの他でもない俺だから。そしてもう一人、


わたくしにとってはエリック様がいるならどこだろうと楽園ですから屋内か屋外かなんて些細な問題ですわ」


シルビアも美容品などで散財したのだ。しかし、俺と違って本当に忘れている様子だったし、思い出した今となっても全く気にした様子もない。いっそ羨ましい神経の図太さである。


エルザは悪びれないシルビアの態度にいら立ちを隠せないようである。固く握られた拳の爪は手に食い込み今にも血が流れそうなほどである。


怒りの表し方も人それぞれではあるが、感情を押し殺すタイプの人間のほうが激情型の人間よりもずっと恐ろしい。内にため込んでいるいる間に怒りが殺意に熟成されている感じがする。


「まあまあ落ち着いてください、エルザさん。怒りももっともですが、今はこの状況をどうするかを考えたほうが建設的だと思います」


メイヴちゃんナイス!幼い見た目のメイヴの言葉はエルザにとって受け入れやすいものである。それに彼女は見た目とはかけ離れた実力の持ち主というのもこの集団での発言力を高めている。ここまで俺が生存できているのもメイヴがエルザとシルビアの攻撃から守ってくれていたからに他ならない。


「待ってください、二人とも!一寸の虫にも五分の魂というじゃないですか!下着を見られたぐらい我慢しましょう!確かにキースさんの視線は生理的に無理なのは承知していますが!」


などど、言ってよく俺のことをも守ってくれていた。その一方でメイヴの言葉(虫扱い)に傷つく自分も確かにいたが問題はない。あんな可愛い女の子たちに軽蔑される自分というのもまんざらでも無くなってきたからね!


「そうは言っても、いつものように冒険者への依頼報酬を当てにできれば良いけど。こんな平和そうな村に魔物討伐なんて依頼が発注されているわけないじゃない。そんな旨い話は普通ないわよ」


『緊急:腕の立つ冒険者求む。報酬:宿泊無料及び10万イェン』


そんな旨い話があった。こういった依頼は普通、冒険者組合ギルドのクエスト発注用の掲示板に張り出されているものだが、やはりここには冒険者組合そのものが無かった。代わりに少し歩くと周りの民家に比べれば一回り立派な家を見つけた。どうやらそれが村長の家らしく門前には『キーテジ村掲示板』と何の捻りもない文字が彫られた2メートル四方の掲示板が立てられていた。そこに最近張り出されたと見える依頼が中央にあった。


「おお、よく来てくれた。さあ中に入って具体的な話をしようじゃないか」


家を尋ねると村長と共に現れたのはこの村の管理を任されている都から派遣されてきたという兵士だった。良い人だ、と一目でわかる人相をしていた。機能性を重視してか、頭は丸く刈られており、無駄が一切そぎ落とされた引き締まった体をしている。身のこなしから言葉遣いまで全てが相手に対する思いやりに溢れていた。


「この村の近くで強い魔力の波動が観測されたということで私たちは派遣されてきたのだが、三日前に出発した私の仲間がまだ戻ってきていないのだ。もしも、ということもある。私自ら確認しに行ければ良いのだが、この通り足を魔物にやられてしまってな」


兵士は包帯でぐるぐる巻きにされた足を見せる。添え木をされているところを見るとどうやら骨折しているらしい。ここまでの道のりで魔物に襲われたのだとか。


「宿泊はもともと私たちの仲間が使用する予定だった宿を使ってもらって構わない。10万イェンは今回の遠征の予備費だったが、背に腹は代えられない」


俺たちはその依頼を受けることにした。10万イェンがあれば俺とシルビアが散財した分を考えてもお釣りが出る。


そして今に至る。


「聞いたところによると、魔獣に騎乗した邪王軍とおぼしき小隊がそこに向かっていたという情報もあるんだ。もしかしたら、ルガトクラスの幹部がいるかもしれない。そうしたら守りながら戦うことは難しい」


エリックは荷物の最終確認のため革袋の中身を手で感触を確かめるようにしながら、俺と目を合わせることはしない。エルザは宿の店主と何か打ち合わせをしているし、シルビアは氷魔法で作った鏡を使って身だしなみを整えている。メイヴは何か言いたそうな顔つきで俺とエリックの会話を眺めていた。


うーん。ルガトってあの吸血鬼か。化け物じみた美しさ、もとい強さを持つシルビアをも圧倒したサイコパス野郎。確かにあんな奴がいたら命がいくつあっても足りない。いや、いくつあっても困る。その数だけ苦痛がエンドレスに続くと思うとやはり命はひとつで十分である。


仮に次にまた遭遇したとしてもエリック達なら同じ結果にはならないかも知れない。メイヴは見た目は幼いが屋敷一つを吹っ飛ばす力の持ち主。エルザも何だかんだ言って上級魔法を使いこなす。シルビアは言わずもがな。というか実戦経験を積むたびに勘を取り戻してきたかのようにキレが増している気がする。彼女たちの刃が俺に届く日もそう遠くないかもしれない。


畜生、許せないのはエリックだ。いつの間に、上級魔法をほいほい使えるようになったんだ。遠い。いままで隣にいたエリックが遥か遠くに行ってしまった。


「俺の隣で村の女子たちの水浴びを覗いていたエリックはどこに行ってしまったんだ!」


「そ、そんなことしたことないだろうが!?」


悲しい。俺との思い出まで消し去ってしまったというのか。これが力に溺れた人間の末路か。


「安心してください。キースさん、駿馬しゅんばも貸していただけるそうなので出来る限り早く帰ってきますから」


「ありがとう、メイヴちゃん!!俺に優しくしてくれるのは君だけだよう!」


「あっ、すいません。あんまり近づかれると嫌悪感が」


「正直ものだな、君は!」


「それじゃ、留守番お願いね、キース。ああ、お金は最低限しか置いていないから大事に使うのよ。え?私たちの帰りが遅れたらどうすれば良いって?そんなの湖で水を飲んで凌げば良いじゃない」


そんなことを言ってエルザたちは宿をあとにした。うん、本当に置いていきやがった。メイヴだけは去り際に一礼を残してくれた。あの心配そうな顔が少し嬉しかった。まあ俺のことというか、俺のような不安要素をこの村に残していって良いだろうかとでも言いたげな顔をしていた気もするが、都合の良いように考えよう。


希望的観測。


そうして俺は一緒に旅してきた仲間から頼りにされるどころか、お荷物扱いされて一人この村に残ることになった。






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