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魔王の力をお借りします!  作者: 働く猫の日常
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人は見た目で判断しません(12)

「お前は可哀そうな奴だ、メイヴ」


俺は上がっている息を何とか整えながら、言葉を続ける。


「この悲劇の一番の原因はお前が出来てしまったということだ。一族の長を曲がりなりにも務めれてしまった。仲間のために奴隷商の片棒を担ぐことを受け入れられてしまった。そしてジルに協力している間にお前を打ち負かすものも現れなかった。それが何より不幸だった」


「一体、何を言っているのですか」


俺の言っていることがわからない。そうメイヴは言う。ああ、そうだろうさ。俺にだってわからない。言いたいことを言っているだけに過ぎない。お前に届くとは思えない。自己満足さ。しかし、それでも俺は言う。他でもない自分の考えを知るために。言葉にする。


「お前がダメで弱いやつだったら、お前は女王になることも無ければ、ジルに利用されることもなかった」


「それではあなたは私がしてきたことが間違いであったと、無駄だったとそういうのですか!?」


「いいや、違う。お前がいたからお前の一族はいままで生きのこることができた。辿った道は間違いだったかも知れない。お前が仲間を想う気持ちは間違いじゃなかったはずだ。もう十分だ、メイヴお前はもう全てを投げ捨てて楽になれ」


「そんなことできるはずないじゃないですか。私が立ち止まったら、仲間たちはどうなるんですか?もう私は自分じゃ止まれないところまで来ているんですよ。この間違った道を進むしかないんです!」


「だったら俺がお前の前に立ちはだかってやる。これ以上、お前が罪を重ねることはできないと、お前の代わりにお前を否定してやる。仲間はそのあとどうなるかだって?知るか!そんなのそいつらに考えさせろ!」


「知ったような口をきくな!」


メイヴは先ほどと同じように大振りで鎌を振り下ろす。動揺、あるいは怒りで我を忘れているのか、その一撃はいまの俺でも見切れるほどに大振りだ。俺は距離を縮め、懐に入り込みメイヴの鳩尾みぞおちを思いきり左手で殴りこんだ。


カウンターの一撃を喰らったメイヴは後方へ数メートル転がる形で飛ばされたものの、すぐに立ち上がり体勢を整え正面を見据えている。


俺は間髪入れずに右手に剣を持ち変えメイヴに向けて突きを繰り出す。メイヴは刃の腹でそれを受ける。俺は空いた左手で魔法陣を発動し、炎球を繰り出すも間一髪で回避される。


「何をしているんだ、メイヴ。そんな死にぞこないなどさっさと殺してしまいなさい」


いい加減我慢がきかなくなったのか。ジルは声を荒げてメイヴを急かす。


「わかっています!」


いら立ちを隠せない様子でメイヴは詠唱を始める。この魔法はいつだかマイラが図書館で発動していた風上級魔法だ。見覚えがある。ならばこちらも!俺は剣の魔力を開放する。


風精霊の鋭刃シルフ・クシフォス


戦場駆ける英雄の盾アキレウスアイギス


メイヴを中心に風が渦を巻き始め、集約されたエネルギーを大鎌に乗せて、それを全力で振り下ろす。その瞬間、館を真っ二つに切り裂く風の刃が俺に向かって放たれる。


戦場駆ける英雄の盾アキレウスアイギスを展開し俺はその攻撃を正面から受け止める。同じ上級魔法だ。本来であれば相殺可能なのだが、どうやら戦士としての練度が違うらしい。風の刃は盾をジリジリと削っていき、なんとか刃そのものは消滅したものの、余波とも言うべきエネルギーは辺り周辺を無差別に破壊した。そしてもちろん、俺の体も例外ではない。


「はは、こりゃ酷い有様だな」


自嘲気味に笑ってみたが、こりゃきつい。魔力はほとんど使い果たし、先ほどの攻撃で擦傷が数か所、血が止まらないところもあるな。頭を強く打ったのか、額から血が頬を伝っていく。それに全身が打撲でひどく痛む。ジルが余裕ぶって笑みを浮かべているのも苛つくが納得の状態だ。


「はっはっはっは。もう限界のようですな。下手な正義感など示さなければ無事に町を出ることができたでしょうに。こちらから干渉する気などサラサラなかったのですから。愚かですねえ」


「正義感だと?寒気がするね。そんなものお前にはおろか、生まれてこの方誰にも見せたことなどないぜ」


「恥ずかしがらずともいいのですよ。この町を救おうとしたのでしょう?人が人として扱われないことなどあってはならないと世の一般常識を持ち出して気持ちよくなっていたのでしょう!そして悪党であるところの私と、それに加担するメイヴを殺しにきた。しかし、その薄っぺらい倫理観ゆえにあなたは死ぬのです。これは見世物としては上等な演目になりそうですな」


「俺がそんな大層な人間に見えるか?お前も案外と見る目がないんだな。商売人として器が知れるってもんだ」


「ほう、違うとあなたは言うのですか?ではあなたは何のためにここにいると?そんな血まみれになってまで何があなたを突き動かすのですか?」


「お前のことなどどうでも良いし、この町の住民だって、他のエルフたちだって心底どうでも良い」


そんな顔も知らない奴らのことなんて興味ないぜ。俺がここにきた理由、それは


「メイヴを開放してもらうぜ、ジル。そいつはお前が手を出して良いようなロリっ娘じゃねえんだよ」


「これはまた滑稽な。では、あなたはこの少女一人を救うために、この町の暗部を纏め上げるこの私に喧嘩を売ったというのですか?この少女に町一つを敵に回すだけの価値があるとお思いですか?理解できませんな。あなたにとって他人に過ぎないこのメイヴを助ける理由など、価値など皆無でしょう!」


「理解できないって?全くお前らの倫理観はどうなってやがんだ」


俺は言う。自分の信念を俺らしい台詞セリフで。


「少女は世界の共通財産だろうがぁ!」


このシリコンが。とマイラは意地悪そうにつぶやいたが、その声色はどこか愉快そうに響いた。


「だからメイヴ。お前の重荷は俺が取っ払ってやる。お前はもう誰も傷つけなくても良い。自分の心を殺してやりたくないことをやらなくても良いんだ。お前は心の向くままに何かを愛しても良いんだ。俺が許す」


「何を、勝手なことを」


メイヴの全身は震えていた。それは恐怖ではなく怒りだろう。自分の信念が、覚悟が、例え罪深いものであったとしても歩んできた生き様を、こうも無責任に否定されたのだ。無理もない。


「ここからどうやって救うというのですか、適当なことを言わないでください!あなたのように綺麗な言葉だけを並べた詐欺師などもう飽き飽きです!あなただけは絶対に許さない」


ああ、それで良い。この一瞬は、一族や家族、ジル、そして人間への悲哀や憎しみなど全て忘れても良いんだ。ただ目の前の俺に全てをぶつけてみろ!


「ええい!もういい加減、我慢の限界です。これ以上は蛇足です!最大の一撃で葬り去ってやりなさい、メイヴ!!」


ジルの手にある奴隷印は鈍い赤色を放ち、それと同時にメイヴの魔力が再び増加していく。


くっ。奴隷印の痛みが一種の麻薬的な働きをしてんのか。


メイヴは天井を破壊し、全身を風魔法で包み上空へと浮上していく。わずかに灯っていた明かりもその衝撃でほとんどが消えた。空を覆う雲の間からわずかに覗く星々が唯一の明かりである。


「ふむ、これは自分の属性に適した場所へと移動したか。奴が得意とするのは風魔法。であれば屋内よりも屋外、それも上空であれば扱える空気の量も桁違いというもの。奴め、これで勝負を決めるつもりじゃな」


上空に佇むメイヴは持てる全ての魔力を総動員し、ありったけの風を刃に纏わせている。これで決める気なのだろう。目の前の俺を圧倒しねじ伏せる。もはや、今なぜ戦っているのかなど俺たちにとってはどうでも良い。互いの信条をぶつけ合う。それだけだ。


「クックック。あのローブと大鎌も相まってまるで夜空に浮かぶ死神のようじゃな」


「全然違ぇよ。あんな死神がいてたまるか」


「それはあんな可愛い死神がいるはずがないという貴様の性的思考ゆえの判断か?」


見間違いのはずなど無い。俺は見た。飛び上がる瞬間、メイヴの目から零れ落ちる大粒の雫を。


「涙を流す死神なんていてたまるかよ!」


確かにそんな死神など見たことないのう。とマイラは昔を懐かしむようにつぶやく。ああ、そうだろうさ。今だって昔だってメイヴは死神や、ましてや女王なんかじゃなく。ただの幼い女の子だったんだから。


魔力が安定したのか、まるで台風の目にいるかのように風が止んだ。それは津波の前に海面が引いている様子にも似ていた。ここで全ての決着が着くのだ。


「エリックさん、あなたのことが最初から嫌いでした。これで死んでください」


「ああ、俺は初めて会ったときからメイヴのことが好きだった。生きてくれ」


メイヴは風精霊の鋭刃シルフ・クシフォスを放った。その一撃は先ほどとは比較にならないほどの規模であった。属性有利のロケーションということもあるのだろうが、やはり今までは本気ではなかったのだろう。これは見事だ。いままで一族を守ってきただけのことはある。


「そんな悠長なこと考えている場合かの、秘策があるなら早くしないと死んでしまうぞ」


ああ、そうだな。秘策ならある。メイヴが属性有利な状況を味方につけているというのなら俺もそうするまで。


風魔法は周りに空気があればあるほどそれらを味方につけることができる。しかし、俺の得意魔法はその逆だ。周りにソレが無ければないほど、その特性は強固に浮かび上がる、そして今、この場においてその条件は揃っている。


俺の光魔法は闇の中でこそ光輝ひかりかがやく。


キンっ。俺は剣に込められた最後の魔力を解き放つ。


竜穿つ一条の光フェイルノート!!」


剣先から伸びる一筋の光は天上を駆ける彗星のように闇夜を切り裂いていく。メイヴの風精霊の鋭刃シルフ・クシフォスと遂には衝突するも、不思議と押し負ける気はしなかった。風の刃は光の行進を一瞬押しとどめはしたものの、最後には砕け、跡形もなくなった。竜穿つ一条の光フェイルノートは厚い黒雲さえをも退け、現れた満月は優しい光でこの町全体を包んだ。


























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