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魔王の力をお借りします!  作者: 働く猫の日常
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生まれた場所から旅立ちます。(2)

「エリック、もっと早く走れないの?あなたが遅くて捕まったら私、許さないから」


 「人ひとり背負って走ってんだからこれが限界だよ!」


 エルザが紐でシルビアの体を俺に縛り付けてくれた分、普通に背負うよりは軽い気持ちもするがそれにしても人ひとり背負って走るというのは重労働には違いない。


 「あら、それは暗にシルビアさんが『重い』といっているのかしら?全くデリカシーの欠片もない男ね。男だったら例え100キロ越えの女性であっても笑顔でお姫様だっこできるぐらいの器量は見せて欲しいものだわ」


「そんな器量持ち合わせてるやつがいるなら会ってみたいね!」


 「それはそうとお姫様だっこは『横抱き』というのよ」と機嫌良さそうに雑学を披露する余裕を見せた。こいつは本当に俺たちが逃走中という実感があるのだろうか。


 エルザが俺の自室の壁を破壊し、手際よく俺の脱出の手引きをしたあと俺はシルビアを抱えて村の外へと向かっている。脱出のための算段はついているらしい。


 ちなみに手枷は外れている。エルザが魔法で解除してくれた。


 「ふふふ、逃走経路の確認から手枷や部屋の防壁解除の方法まで準備するのに3日かけた甲斐があったわね。ここまでは全て順調、オールグリーンよ」


 一体どんな方法でそんな情報を得たというのか、こいつは?


 「あら、そんなの普通に騎士団の方から聞いて普通に部屋に入り込んで取って来たに決まっているじゃない。日頃の行いがこういう時に役立つのよ。誰もが私のことを心配して声をかけてくれたわ。少し泣いたふりをしたら何でも教えてくれたもの」


 「お前はそんな人たちの心を裏切って胸は痛まないのか!?お前は今すぐそのシスターの服を脱ぎ捨てて罪を告白しろ。お前にその服を着る資格はない」


 「服を脱げだなんて。幼馴染が裸で逃走する姿を見てえつに入ろうというのかしら。残念だけどそういう犯罪に走るなら、その罪まで一緒に背負ってあげることはできないわ」


 罪。そうだ。エルザは容疑者である俺の逃走を手助けした。それは言うまでもなく、俺と同じかそれ以上の罪に問われることになる。


 「だけどそれ以外のことなら一緒に背負ってあげるわ。私たち友達でしょう?」


 「お前まであの惨劇の責任を取らせるわけにはいかない。これはあくまで俺の問題なんだから」


 「そんな責任取る気はないわよ」


 真面目に友人の将来を憂いた俺だったが当の本人はそんな気はないと一笑に付した。


 「私があなたと一緒に背負う罪は『原因と上手く説明できない』ことと、『友達に心配事を相談しない』ことよ。あなたとシルビアさんは、あの襲撃に直接的な関係はない。だけどそれを証明するすべがないから大人しく拘留されていたのでしょう?いや、違うか。あなただけだったら容疑を晴らすことはできた。けどシルビアさんは無理ね。だって昔はあの吸血鬼の仲間だったというのは本当みたいだもの」


 何か言い返そうと言葉を選んでいる俺をエルザは目で制し、話を続ける。


 「そうなればシルビアさんはきっと一人で罪を背負う。そしてエリックならそんな彼女を一人にはできない。考えたあげく、二人だけでどこか遠くに逃げることを決めるってとこでしょ」


 「お前なんで」


 まるで手に取るとうに俺の考えが見透かされている。悩みを相談する前に解決への協力を始めているだと。これが村のシスター歴=ほぼ年齢の実力だというのか。


 「ええ、そんなの言われなくてもわかるわ。わかるけど」


 あくまでもシリアスな展開な苦手な俺が冗談を交じりながらけむに巻き空気を明るい方向へと持っていこうとしたが、エルザの表情を見てそんな自分が恥ずかしくなった。普段は感情を表に出さない彼女の目には涙が浮かんでいた。


 その意味はいかに鈍い俺でもわかる。


 「言ってほしいじゃない。私たちってそんな関係なの?私はエリックにとってどうでも良い人に過ぎなかったということかしら。そうだとしたら私、寂しいわ」


 「違う、俺はお前たちが心配だから、迷惑かけたくなかっただけだったんだ」


 そんな俺の苦し紛れの言い訳で今のエルザをなだめることなどできない。それはそうだ。俺の言葉は感情の表面をなぞっただけのものに過ぎない。感情のままに話すエルザに届くはずもないのだ。


 「勝手にしなさいよ。私も勝手にするから。覚悟しておきなさい。あなたが心配かけないようにどれだけ秘密を作って隠し事をしようとも、その全てを看過して協力してあげるわ。この先、一人になれるなんて考えないことね」


 ああ、俺なりにエルザに心配をかけまいと思い行動してきたつもりだったが、逆だった。本当に大事な人を悲しませたくなかったら頼るべきだったのだ。頼るべきときに頼ってもらえない。そのことがどれだけ相手を傷つけるか。そのことに俺は全く気付かなかった。


 そのことに胸が苦しくなる。しかし、それ以上に不謹慎極まりないのだが。俺のことを心から想って泣いてくれる人がいる。その事実がたまらなく嬉しいとも俺は感じている。


 「ああ、覚悟しておくよ。頼りにしてるよ、エルザ」


 「任せなさい、まずは手始めにこの村から安全に脱出させてあげるんだから」


 エルザは袖をまくりその細い腕に力こぶを作る仕草をしてみせた。その姿は頼もしくはなかったが、微笑ましく。俺の体を良い意味でほぐしてくれた。


 「いたぞ!早く捕まえろ!」


 後ろを見ると早くも状況を把握した騎士団が追ってきている。そりゃあれだけ派手に魔法で壁を壊したら流石にバレるか。


「砲撃魔法用意!多少の怪我なら目をつむる。奴らの捕縛を最優先にせよ!」


 追手の騎士は走りながらも魔法陣を展開させる。あの形状から見るに中級魔法だろう。直撃すれば動きを封じられるどころか意識を持っていかれる。


 放出された炎弾はわずかに軌道が逸れ、近くにあった小屋に直撃する。小屋は跡形もなく消し飛び、木の破片の身があたりに飛び散る。


 前言撤回。こんなの直撃したら命を持っていかれる。なんて攻撃をただの村人に向かって放ちやがる。


 「やつらをただの村人と考えるな。エルザはともかく、あの小僧も飛王竜と交戦して生き残った者。生半可な攻撃は通らないと思え!」


 なんてこった!あの戦いで凄まじいほどの過大評価をされてやがる!そんな一撃受けたら骨も残りませんよ、俺は!


 「この手枷を外しなさい」


 その声はいつも聞いているものよりも弱々しく誰の声か一瞬分からなかったが、俺が背負っているシルビアだとわかった。


 「シルビア、意識が戻ったのか」


 「エリック様の危機ともあれば、このシルビア例え息の根が止まっていようと目を開けますわ」


 口調こそはいつも通りの様子を取り繕ってはいるが、表情は蒼白いままだ。それに苦しそうだ。当然だ、つい昨日まで生きるか死ぬかの瀬戸際だったのだ。それをこの短時間で回復するわけがない。


 「シルビア無理をするな、意識を取り戻しただけでも奇跡的なのに、魔法なんて使えば体に障るぞ」


 「ご忠告痛み入ります、エリック様。しかしご理解ください。ここでお役に立てなければ、わたくしがここにいる意味など無いのです。大丈夫です、傷口が開くような無理はしないつもりですわ」


 無理に浮かべた笑顔に不安は余計に掻き立てられたが、俺がどれだけ静止しようとシルビアは止まらない。それが彼女の言葉から伝わってくる。ならば俺にできることはシルビアを信じることだけだ。


 「エルザ、この手枷の解除魔法は知っているのでしょう?」


 「あなたのことを怪しむ人も多いけど、あなたが私たちのために戦ってくれたこと、そしてエリックを慕うその気持ちは本物だと信じるわ」


 キンっ。という音と共にシルビアの手枷が外れる。それと同時に抑えられていたシルビアの魔力も開放される。


 シルビアが手をかざし、呪文を唱えるとそれに応えるように騎士たちの足元に水が生じ始める。それらの水は瞬く間に蛇のように彼らの手足をからめとる。それに伴い、展開された炎弾用の魔法陣が収縮していく。


 「くそ、なんだこれは?動きがっ」


 「あの戦いでの消耗が激しく中級魔法でさえ放てないとは情けない限りですが、この程度の魔法でも時間稼ぎくらいにはなりましょう」


 初級魔法とは言え、やはり無理があったのか。せき込むシルビアに心配になり顔を覗きこむ。「大丈夫ですわ」と返事があったが、これ以上の魔法の使用は厳しいのだろう。


 「意外ね、シルビアさん。あなたって氷魔法が得意だと思っていたのだけれど、こんな魔法も使えるのね」

 

 「元々、わたくしたち水魔ルサールカが得意とするのは水魔法。わたくしたちは水のあらゆる側面を操る。氷魔法はその一部に過ぎないわ」


 「何はともあれ助かった。早くここから離れるぞ!」


 シルビアの魔法のおかげで危うく追いつかれそうだった騎士を上手くまくことができた。ようやく一息つけると速度を緩めた俺をしかしエルザは許さなかった。


 「こっちよ、急いでこのままではいづれ追いつかれるわ!あちらには馬がいるんだもの。こちらも馬を使うのよ」


 「馬って言ったって都合よく落ちてる訳ないだろうが」


 「落ちてるわよ、そこに」


 素知らぬ顔で指を指すその先を見ると確かに馬が2頭、木に手綱がかけられていた。


 「何でこんなところに馬がいるんだよ!?まさか偶然ってことはないよな!」


 「ええ、もちろん。あなたを助けたいって思ってるのは私だけじゃないのよ。こんな時に全てを投げうってあなたを助けてくれるやつなんて他にあいつぐらいしかいないでしょ」


 ほら、噂をすれば。とエルザの視線を追いかけるとその先には馬に乗り猛スピードで駆けてくるキースの姿があった。それに、背負っているのは俺の剣か。


 「キースには馬2頭の調達とあなたの武器の奪還をお願いしていたのよ。あの武器、ここで捨てておくにはもったいないものでしょう?」


 まったくこいつらは。準備が周到過ぎる。俺が捕まってすぐに準備を始めないとここまで手際よく事は進まないだろう。


 俺の開放のために防壁と手枷の解除魔法を調べ、証拠品として厳重に保管されていた俺の武器まで奪取しているとは。


 俺は目じりが熱くなり、涙が零れそうなのを必死に堪えてキースの到着を待つ。手放しで喜んではいけないことだとはわかってる。俺のせいで二人を巻き込んでしまったということも。ただ、俺のことを想って動いてくれる人がいるというのはこんなにも嬉しいことなのだと知らなかったのだ。


 「あれ、なんだか様子がおかしいわね」


 おかしい?それはキースがあんなに一生懸命に俺を助けてくれようとするのがおかしいという意味だろうか?確かにあいつは普段はどうしようもない奴だが、これまでも少なからず助けてもらった。人一倍通人想いの男なのだ。


 ほら、今もあんなに懸命な表情で、、、。懸命?いや、さすがに必死過ぎないか?顔面蒼白だし、何かに追い立てられているのかのような恐怖を感じるのだが。


 「おい、キース一体どうしたんだ」


 近づいてくるキースに声をかけようとしたが、恐らくその声は届かなかったのだろう。先ほどよりも速度を上げキースは俺たちの間を通り抜けた。


 なぜキースがそんなに焦っていたのか彼の後方を見ることで気付いた。まあ、そりゃ何となく察しはついていたのだがやっぱりそうか。


 後ろを見ると砂埃を巻き上げ、馬にまたがり猛スピードで追いかけくる恐らくは村に駐留ちゅうりゅうしている騎士の中でも屈指の実力を誇る者たちがいた。


 「全く、やっぱりキースね。渡した見取り図の通りに動けば気づかれずに目当ての物を手に入れることができたのに、どこかで失敗したのね。全く仕方ない」


 呆れながらもどこか愉快気に颯爽と馬にエルザは乗った。


 「さあ、エリック。シルビアさんを貸して頂戴。あなた馬に不慣れでしょう?いきなり怪我人を抱えて二人乗りなんて自殺行為だわ」


 俺は背負っているシルビアの様子を伺うように顔を覗いた。


 「ご安心をエリック様。エリック様の荷物になるくらいなら、この小娘の言いなりになることもいといません。情けない話ですが一人で騎乗できないのも事実ですので」


 言葉ではそのようなことを言っているが。心底嫌そうな表情を浮かべている。唇を噛みながらも、渋々エルザに身を預ける。


 元々人間嫌いなシルビアだが、なぜかエルザのことは特に毛嫌いしてるんだよな。シスターだからか?まあ、今回は私情を優先しないでくれたので助かった。


 俺もすぐに馬に乗りキースの後を追いかける。そうこうしている間に彼らは刻一刻と距離を縮めている。


 

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