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魔王の魔法をお借りします。(1.5)
エルザが地面に仰向けに倒れている。その額からは血が流れており、目は閉じられ意識を失っている。
これは現実ではない、夢なのだと。そう理解するのに時間は要らなかった。
何故ならエルザは今年で18歳になるのだが、目の前で倒れている彼女は10歳になって間もないほどの姿であるからだ。
そしてエルザの5メートル横には牙をむき出しにした全長2メートルほどのハウンドドックがいる。そのハウンドドックは今にもエルザに向けて襲いかかりそうである。
俺はエルザを助けようと体を動かそうとするが失敗する。そこで初めて自分自身もそのハウンドドックにやられ、傷だらけで地面に伏していたことを思い出した。
そう、思い出した。聖戦が終結した8年前のあの夜、俺とエルザはその生を終えるはずだった。
しかし、ハウンドドックがエルザに向かって飛び掛かったその瞬間、俺は大海に突然投げ込まれた感覚に捕らわれた。
そして
「世界を敵に回してもその少女を救いたいか」
そう問われた。
俺は迷わず答えた。