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魔王の力をお借りします!  作者: 働く猫の日常
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初めて竜を退治します。(4)


『真理図書館(イデア・ライブラリー)』とマイラはこの図書館のことを呼んでいる。


 この図書館は言うなれば魔王ルシフェルの知識・体験の具現である。


 奴が見たもの、聞いたもの、知ったこと、そして習得したことはここに本という形になり保管される。あの『聖戦』終結の夜に、魔王が俺の体に宿ったあの瞬間からこの図書館は俺の中に存在している。


 「あのお方から言伝を預かっておる。『ここは好きに使え。』ということじゃ。思慮深きあのお方のことじゃ。今回も何か考えがあってのこととは思うが、はっきり言って承服しかねるわい。」


 俺をここに初めて呼んだとき、マイラは明らかに不機嫌そうにそのように漏らしていた。今ほど社交的ではなく、明らかに俺のことを排除しようとしていた。


 マイラは「人工精霊」なのだという。魔王によって産み出されたので人工というのか魔王工というのかはわからないが、第三者の手によって産み出されたのだ。


 「貴様とて仕事で手一杯のときに自分がもう一人いたらと考えたことがあるじゃろう。世界をその手中に収めようとするなら尚のこと。余は魔王様が生み出した人工的な知性という訳じゃ。創作的なアイデアは魔王自らが考えるが、既知の事実をまとめ上げるのは他のものに任したほうが効率が良いとお考えになったのであろう。」


 マイラはこともなげに話していたが、人工精霊の誕生は人類共通の悲願の1つである。そもそも精霊とは神話時代の潤沢なマナが何らかの要因によって集合、終結し突発的に生み出されたエネルギーが、さらに人知を超えた現象によって知性を持ち始めるといったことしかわかっていない。


 うん、つまり何もわかっていないのだ。遥か昔から人工的に精霊を生み出す実験は続いているようだが、成功した試しはない。功を焦った学者が非人道的な実験を行ってしまったこともあったらしい。しかし、そこまでしても得られたものは無い。「理解できない」ということが「理解できた」と皮肉を言う者もいたそうだ。最近では「神の業」ということで諦める学者がほとんどだという。


 それを千年も前に魔王は達成していたということだ。いや、千年も前だからこそ可能だったのか?


 「そんなこと余は気にしたことないがの。『やった。ラッキー!余、この世に爆誕!!』ぐらいにしか感じなかったわい。」


 本人はそのようにあまり自身の重要性に気づいていない。


 うーん。何とかこいつの仕組みを解明してこの世にその恩恵をもたらせないだろうか。今はあまり見ないが現代にも精霊は存在して『聖戦』のときにも勇者に力を貸してくれたそうだし。


 「人工精霊などどいうものがこの世に誕生すれば、世界中の国がこぞってその生産に取り組むじゃろうな。そしてそれらを戦力として投下し、戦争を始めるのが関の山じゃな。クックック、それも悪くないのう。そのためならば協力をすることもやぶさかではないの。我らが憎き敵(かたき)が自滅してくれるというのならな。」


 「むう。」確かに今は『聖戦』の傷跡が世界の至るところに散らばっていてパワーバランスが危ういところもあるというからな。そうならない心配もなくはない。自分好みの美少女精霊(微精霊ならぬ美精霊)を作成して朝起こしてもらうという俺の夢はまだまだ叶いそうにないか。


 「そんなもの仮に作れたとしても、エルザとシルビアの嫉妬の対象になることは明白じゃろうに。3日と持たずにそのどちらかに消されるわい。」


 シルビアはわかるが何故エルザも嫉妬するんだ?あれか、俺の健康を管理するのはエルザの仕事だ、的な意味合いだろうか?戦闘時のアドバイスは的確なのだが、マイラはたまによくわからないこと言う。


 マイラは魔王に生み出されて以来、ずっとここで役割を果たし続けてきた。神話時代のその終結から、『聖戦』のときまで魔王の傍で戦い続けた。


 そんなマイラにとって俺の存在は不愉快極まりなかっただろう。他の誰も立ち入ることもできない主との2人だけの空間にズケズケと侵入してきたのだから。それも主を滅ぼした種族の1人に。


 「今では貴様ごときにムキになるのも馬鹿馬鹿しいと思っておるが、当時の余は許しさえあれば貴様を殺したいと考えておったし、その態度を隠すつもりもなかった。じゃから貴様がここに足を運び続けたことには初めは驚いたものじゃ。」


 「確かに子供ながらお前の尋常じゃない殺意に感じるところはあったが、俺に危害を加えないことはわかっていたからな。それにこの場所は俺にとって魅力的だった。その恐怖より好奇心が勝ったのさ。」


 「うむ、うむ。これは感心じゃ。やはり貴様は多少なりとも見どころがあるわい。あのような子供のころからこの場所の偉大さがわかるとは。この世界の深淵に触れられる誉(ほまれ)を理解しておったか。」


 「お、おう。」言えない、まさか子供のころにここを訪れていた理由が「カッコイイ」からだったなんて。


 「エクスカリバーって本当にあったんだ!?うわ、ヘラクレス様が試練を乗り越えるこの展開はアツい!!それにこの挿絵ってまさか、ヴィーナス様!?神話に違わず、美しい!うわあ、この続きってどこに置いてあるんだろう。えっ、何この技!?『スルト・レイヴァテイン』?超カッコイイんですけど!絶対習得する、神域魔法とか関係ないもんね。魔眼とか、封印されし右腕とかもあるの!?なに、なに?呪われし半神の存在とか絶対仲間にしたい!!『神命戦争(ラグナロク)物語』だって!?めちゃくちゃ気になる!全108巻だって?余裕、むしろそれくらいあって欲しい!時間がいくらあっても足りないよ!!」


 当時の俺、大はしゃぎだった。


 仕方ないだろう。この村の娯楽は限られたものだったし、俺が知っている英雄譚や神話は本になっているものも多少はあったが、そのほとんどは村にたまにくる吟遊詩人や村の老人が戯れに話してくれるものぐらいだったのだから。


 憧れた英雄のその先や詳細を知れるというのは願ってもないことであった。その物語に熱中した。技に、魔法に憧れた。その習得方法や論理式、術式がまとめられている本を読み漁った。理解したあとは実践した、もちろん「知っている」と「理解している」には大きな違いがあった。すぐにうまくはできなかった。


 「とても大きくて重い岩を想像するのじゃ。」


 そのだだ広い閲覧室の中央部で地べたに座り込みながらなんとか、それらの魔法が発動できないか模索し、見様見真似(みようみまね)で失敗し続ける俺に、ある日マイラがアドバイスをくれた。


 「できる限り巨大で重いほうが良いの。次にその岩の横にいる自分を想像すると良い。できたならば、その岩を片手で軽々と持ち上げてみせろ。」


 俺は頭のなかで村の教会ほどの岩を思い描き、それを持ち上げる姿を想像した。当たり前だが、その岩を軽々と持ち上げることができた。


「できたであろう。力が本当にあるかどうかは関係ない。全ては貴様の頭の中での出来事に過ぎんのじゃからな。要は貴様が正しく想像できているかが重要なのじゃ。ここはそういう場所。この図書館は貴様のイメージの中にある。すなわちここであれば貴様が正しく論理式を理解し、その術式をイメージできたのであれば魔法を発現させることができるという訳じゃ。魔力が足らずともな。」


 イメージトレーニングということになるのう。


 それから俺が本で読んだことを実践するたびに何かとアドバイスをくれるようになった。魔法はもちろんのこと、剣技や身のこなしに至るまで俺が実践するときは必要とあらば、相手になってくれた。


 数年かかってついに理解した神域魔法をぶっ放してしまったときに、ここにある本棚の相当数を破壊、焼失させてしまったときは本気で怒られてしまったけれど。(それから俺が何かするときには結界が張られるようになった。)


 幸いにもここはイメージ、概念で出来上がっている空間であったために、その守護者であるマイラがいる限り修復は可能ということだった。


 それだったらあんなにも怒る必要はないのではと思う。


 正座である。自分よりだいぶ幼い少女の前に正座し、罵詈雑言の限りを一身に受け続けた。自分の情けなさに心底ダメージを受けてやばかった。いや、そのダメージよりも、なんか別の扉を開いてしまいそうでそっちのほうがやばかった。まだプラトニックでいたい年頃である。


 まあ、そんなこんなで俺は魔王の腹心ともいうべきこの年齢不詳のロリ精霊とある程度友好的な関係を築いてきたのである。


 


 


 


 


 


 


 

 


 

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