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魔王の力をお借りします!  作者: 働く猫の日常
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魔王の魔法をお借りします。(1)

今だかつてないほどの魔力がいま、目の前に集約されていくのを感じる。


全身の皮膚の表面に熱を感じる。


不謹慎だが、この溢れんばかりの魔力に高揚感を隠すことができない。


「お前はいったい何者なんだ。何なんだこの魔力は?人間が扱える領域ではない!ましてや、お前のような小僧なんぞには決して!!」


 ああ、そうだな。これは俺の力ではない。


 人間の手には負えない力だ。


 「自分の行動の愚かさを悔やむんだな。」


 俺は全魔力を解き放った。






◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




「スルト・レイヴァテイン!!」


俺は一瞬の隙をつき、渾身の一撃を全身全霊で敵にぶつけた。


 キースが持っていた木刀は弾かれ、円を描きながら後方へと飛んで行った。勢いあまってキース自身も後方へ倒れこみ苦痛に歪んだ表情を浮かべる。


「痛い、痛すぎる!!これは俺には耐えられない」


「ふ。俺の絶技にやっとお前と俺の間にあるコロナド山脈よりも高く隔たる実力差という壁を実感したようだな。そんなに痛がるとはみっともないぞ。いくら俺の一撃が凄かったとしてもな!」


「いいや、これはすげえぜ。『スルト・レイヴァテイン!!』なんて叫びながら切りかかってくる同い年の友人なんて見てるだけで痛すぎる。まるで自分のことかのように恥ずかしくってたまらない。悪いことは言わない。一度医者に診てもらえ、その空想癖を」


「おやおや、「スルト・レイヴァテイン」という名前が響かないとはお前もまだまだ幼いところがあるんだな」


「やめろ、その技の名を口にするな、笑いがこみあげてくる。ただ剣を下から上に切り上げてるだけだろうが」


「俺が本気になればこんなもんじゃないんだぞ。どんな防壁魔法でも防ぎきれない、町どころか一国一城すら吹き飛ばすほどの神域魔法なんだぞ」


「はいはい、お前の頭の中ではそうなんだろうな。確かにお前は初級とはいえ魔法を使える大したやつだが、上級魔法はおろか中級魔法も使えないだろうが。そんなお前が特級魔法をも超える神域魔法なんて片腹痛いぜ」


と、幼い子供をあしらうような受け答えをしながらキースは立ち上がった。



この村の住民のほとんどは農民で、魔法を使えるものは俺を含めて3人しかいない。そのため裕福な生活とは全く無縁であり、牛や豚など家畜の世話や畑の手入れで一日が終わってしまう。


 キースの父親は村唯一の商人で、この村取れた農作物や工芸品を他の町で売ったり、外の食べ物や衣服などを仕入れてこの村で売ったりしている。村では村長よりも金持ちかもしれない。


そんな家で育てられたキースは身なりこそ立派だが、人間臭さもあり憎めない性格である。金色の髪は短く整えられている。両サイドの髪は刈り上げられていて耳がしっかり見える。その直毛はまっすぐ倒れることなく立って伸びていてまるでキースの性格そのもので、露わになっている額は自信の表れのようだ。


唯一の欠点と言えば、女性となると誰彼だれかれ構わずアプローチをしているため、村中の女性から嫌われていることぐらいだ。黙っていれば普通に恋人もできるのだろうが。女性に対しての執念が表に出過ぎている。



村の広場には、毎日仕事が終わった血気盛んな若者たちが集い、腕の試し合いをする場所がある。この村では時々魔物が作物や家畜を襲うため、村人は自衛の手段として剣の腕を磨く必要がある。まあ、所詮討伐というよりは追い払うことが目的であるため、上等な装備ではない。



そのため、村の中心の広場には修練を目的とした稽古場がある。稽古場とは名ばかりの空き地だが、俺たちは暇さえあればそこで打ち合いに励んでいた。作物や家畜の世話も好きだが、自身の成長を感じられるこの修練の時間は心地良かった。



「まあ、確かにお前が剣の腕を上げたことは確かだよな。最初は俺たちの中で一番弱かったのに。ここで毎日打ち合っているうちに、まるで騎士様に教えを受けているかのようにメキメキと力をつけていったからな。おまけに魔法なんて習得しやがった」



「当たり前だ。なんといっても俺は選ばれしものだからな」


「そしてその痛々しい発言も比例して増えていった」


全くこのカッコよさが分からないなんて、本当に困ったものだ。もう少しすれば俺の言葉の真の意味もわかるだろうに。



「まあ、こんな平和な村でいくら強くなろうが関係ないんだけどな。襲ってくる魔物は弱いし、騎士になれるような身分でもないし」



そうなのだ。自衛のためと言っているが、この村の畑などを荒らしていく魔物に強いものはいない。強い魔物でも、せいぜい2、3人かかりで剣を振り回せば逃げていくものばかりである。



なので、これはほとんど訓練というよりかは交流を兼ねたスポーツのようなものだ。少々、実戦的ではあるけどな。


「エリックは良いよな。剣技もある程度身につ行けた上に、初級とはいえ魔法も習得したんだから。おまけに恋人もいて、将来も安泰だ。」


「いや、待てあいつは恋人では、」


「エリック様!!」


「ぐは!?」


 視界の外から全く気配を感じさせずにシルビアが俺の体に体当たりをしてきやがった。不意を突かれた俺はそのまま地面に仰向けに倒れこむ。


俺に覆いかぶさるようにシルビアは体を密着させ、俺の体を抱きしめている。


「先ほどの剣技お見事でしたわ。このシルビア、草場の陰からずっと見守っておりましたが、思わず飛び出してしまいました、エリック様!」


ぐっ。シルビアの力が強すぎて身動きがとれない。それにコイツ、草葉の陰という言葉を誤った意味で使ってやがる。草場の陰ってあの世のことだぞ。


「シルビア、いつも言っているが『様』はつけるな!そして離してくれ!いま汗もかいていて、その何というか、、、察してくれ!」


「これは申し訳ありません!気が利きませんでした。お任せください、今すぐその汗にまみれた服を着替えさせますわ。そして体を清めましょう!」


「待て、待て!服は脱ぐが、ここでは勘弁してくれ!それに替えの服もないじゃないか!」


「替えの服なんていりません!恥ずかしがることなどありません!わたくしはエリック様のことを愛してるいるのですから」


「訳わからんこと言うな!うわ、やめろ!なんでお前まで服脱いでんだ!」


「それはもちろんエリック様との距離を縮めるためですわ。心理的にも、物理的にも!」


「どういう意味だ!」


「シルビアちゃん、俺ならいつでもウェルカムだよ!縮めよう、君と俺との距離を!」


キースはすっかりシルビアに心を奪われており、会うたびに求愛をしている。しかし、会って間もないシルビアであるが既にキースのことを全力で嫌悪している。


「黙りなさい、あなたみたいな害虫は八つに裂いてそれぞれのパーツを物理的に離してやろうかしら?」


 相変わらず、キースに厳しい。というか俺以外の人間にはこういう感じなのだが。


「安心してくれ、シルビアちゃん。君の美しさに俺の心は既に引き裂かれているさ!」


キースは相変わらず鋼の精神で、そこらへんの刃物よりもよっぽど鋭利なシルビアの言葉を受け止めて楽しんでいる。罵倒されても相手が女性となれば喜びになるのだから、キースを反省させることは難しいな。


シルビアが本気で青ざめた顔している。そしてあまりの気持ち悪さからか俺を押さえつける力がわずかに弱まった。今がチャンス!!


「ああっ」


俺は一瞬の隙をつき、絡みつくシルビアの手足から抜け出した。シルビアは口惜しそうに俺を見たあと、「忌々しい害虫が」とも言わんばかりに瞳孔全開の瞳でキースを睨みつける。


キースは見つめられているとでも解釈したのだろう。鼻の下を伸ばして笑みを浮かべている。


シルビアはこの地域では珍しく髪の色は黒だが、容姿が整っておりスタイルも良く、貴族の娘と言っても疑うものはいないだろう。


その容姿に加え、精錬された立ち振る舞いから、村中の男がシルビアの魅力にくぎ付けだという。(キースから聞いた話である。) 


「本当にエリックが羨しい!悔やまれるのは、シルビアちゃんが魔物に襲われたときに助けたのが俺じゃなかったということだな」



シルビアが俺にここまで敬意を示し、村に住むことになった理由は「俺がシルビアを助け、村の雰囲気が気に入ったから」となっている。



すべてを説明すると面倒なことになる。



「何をしているのかしら」


その一瞬、一気に全身の血と言う血が、引いていくのを感じた。声がしたほうを恐る恐る見てみると、うっすらと笑みを浮かべたエルザがそこに立っていた。


エルザはこの村ただ一人のシスターである。幼いころは決して似合うと言えなかった教会での正装を今では着こなしている。頭にかぶっているベール(正式にはウィンブルというんだったか?)から覗く髪も胸の高さまで伸びているが、しっかり手入れされているのが俺でもわかるくらいに綺麗である。


しかし、まずい。いまこの状況を彼女がどうとらえているのか読めない。あの笑顔は余裕の表れか、はたまた嵐の前の静けさか。



「見たらわかるだろうが」


エルザは知っているはずだ、シルビアの日頃の挙動と俺への執着。それに幼馴染として昔から築き上げてきた俺とエルザとの信頼関係を持ってすれば、説明などせずとも俺が無実だとわかってくれることだろう!


「半裸のエリックと、そこに横になっているのは衣服が乱れ、何故か顔が上気している様子のシルビアさん。見てわかることだけを列挙したら問答無用で万死に値する。よくわかったわ、死になさい」



「説明させてください」


エルザの目がマジである。殺される。神に仕えるシスターとは思えない。こいつの教会では死神でも信仰してんのか。


「エルザちゃん!聞いてくれよ!エリックの野郎が俺を剣で打ちのめすだけでは飽き足らず。シルビアちゃんとの幸せそうな姿を見せて心まで折りにきているんだ!町のシスター兼、魔導士として、成敗してくれよ」



「エリック、いくらシルビアさんが美人だからと言ってわざわざ、みんなの前でいちゃつく必要はないんじゃない?趣味が悪いわよ」



「いちゃついていないし、俺とシルビアはそんな仲でもない」



「ええ、そうですとも。私とエリック様は恋人関係なぞとは比にならないそれ以上の!」



「それ以上の?」


ピキ。という音が聞こえてきそうなぐらいはっきりと目じりのあたりに血管が浮かびあがりやがった。



「シルビアは少し黙っててくれ!そしてエルザも信じるな!小さいころから俺を知ってるお前なら俺がそういったことに疎いことぐらいは知ってるだろう」



「ええ、そうね。さすが村中の娘たちに『どんな男が魅力的か』聞いて回っていたことがある男だわ」


「なんで知っている!?」


「それだけ何人にも聞いていれば噂にもなるわよ。一時はキースを超える悪評だったのよ。」



「俺の悪評って何!?」



「エリック様は今のままで十分魅力的ですのに!自信をお持ちになってください」



「シルビアちゃん、俺も魅力的かな!?」



「あなたは少し、劣等感をお持ちになられるべきでは?」


「お手厳しい!!」



「それだけ、色んな人に聞いて回ってるのに私にだけ聞きに来ないというのも私的には業腹だったわ。シスター兼、恋愛マスターとは私のことなのよ」



「そんな職業があったとは!?」



「この村の恋愛事情は全て私の耳に入ると知りなさい」



「王都諜報部もびっくりの情報網だぜ」



いや、しかし村教会のシスターという肩書きのせいか全くの嘘ではないような気もする。「懺悔」ということで協会に足を運ぶものも少なくはなく、その延長で様々な相談事に乗ることもあるだろう。



教会といっても牧師である父とエルザの2人で切り盛りしている。



「私がその気になれば、説法と称してあなたの悪評をこの村に広めることも可能なのよ」



「俺が一体どれほどの罪を犯したというんだ!もし、そんなことをしたのならお前がその行いを神前で懺悔しろ」


全くこいつは相変わらずシスターっぽさを感じない。



「エリックのあまりに節操のない様子に話が横道に逸れてしまったわ。冗談はこのくらいにして、実はエリックに用事があって来たのよ。そろそろ今年の収穫祭の打ち合わせをする必要があるということで、お父さんが呼んでいたわ」



「もうそんな時期か。村長も毎年恒例の大事な祭りを俺に押し付けてて良いのかよ。いやいや、この重圧からもそろそろ開放されたいぜ」



この村では秋に収穫祭を行っている。規模がそんなに大きくはないが、近くの山から採れる鉱石を加工した工芸品や村の作物はそれなりに人気であり、それらを目当てに村に来る人も少なくはない。



「押し付けられたって? 何言ってんだよ。お前が教会に行く口実にぜひともと村長に無理やり、、」


「ファイア」



俺の手のひら前方から生じた火の玉は反射的に後方へのけ反ったキースの髪を数本焼いた後、空中で消滅した。



「危ねぇ!!」



「おっとすまん。毎日この時間に『ファイア』が出るようにセットしていたのを忘れていた。」



「そんな時計の鐘みたいな設定がある訳ないだろうが!!」



「あら、そうなのエリック。あなたが教会前に足を運ぶ理由作りに仕事を引き受けていただなんて。そんなに信心深いなんて知らなかったわ。さっきの行いの10億分の1くらいは勘弁しても良いくらいには関心したわ」


全然関心していないのか、それともシルビアとの疑いが遥かに重罪なのかわからない。聞くのはやめておこう。地雷を踏むかもしれん。


「収穫が実りありますようにってお祈りだけをしに行くのも何となく億劫だからな。無理やりにでも教会に行く口実を作ったほうが良いって思っただけだ。」



「祈りを捧げるついでに私と話にくれば良いじゃない。そして今回、シルビアさんに対して自身がやましいと思うことを告白しなさい。やったんでしょう?」


「俺は何もしてないし、それは自白強要だ」


やってもいない人間を精神的に追い積めて自白させるなんて恐ろしいことが現実にもあるらしいが、俺は絶対に口を割らない。


「行けばいいじゃないか、エリック?だってお前はエルザちゃんと話をするために、、、」


「ファイア」×2


キースは空中で体を回転させ2発放った火球を避けた。ほう、回避の技術だけで言えば俺をはるかに凌ぐかも知れない。



「ああ、すまん。さっきの『ファイア』で起きれなかった用に2発の『ファイア』を仕込んでいたのをすっかり忘れてしまっていた。」



「お前は時計の鐘代わりに火事を起こすリスクを毎回を負っているのか!?」



キースは悪くないやつなのだが、考えたこと感じたことがすぐ口から出るのでこれからは伝える情報については気を付けなければいけないな。



「普通の人では一生習得することもできない魔法をそんなおふざけに使うものではありません。じゃ、要件を伝えたから明日教会に来て頂戴ね。シルビアさんも今はエリックと住んでいるのよね。それだったら一緒に来てくれても良いわよ」


「生憎、信じているものが違うもので。何より教会は嫌いですわ」


まあ、シルビアはそうだろうな。


「明日は俺一人で大丈夫だよ。まだ祭りまで相当期間があるし、昨年から変更点があるかどうかの簡単な打ち合わせだろうから」


「そう、じゃまた明日ね。もしお父様との打ち合わせが終わったあと時間があれば会いに来てくれても良いわ。明日は偶々(たまたま)、奇跡的に時間的余裕があるから、相手になってあげる」



そう言ってエルザは教会へと戻っていった。



俺たちも家に戻り、明朝の仕事の準備を整え床についた。



この毎年行われる収穫祭に自分はいったい残り何回参加できるのだろうか。いつか来る別れのときを思えば、そう考えずにはいられなかった。



そんなことを考えている間に俺はいつのまにか眠りに落ちていた。




 

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