学園4
「サミュエル様、本当にそれだけで大丈夫なのでしょうか? 調理場の者達が、心配しておりました。
野菜だけのスープにボイルした野菜と野菜サラダと、少しの果物以外この数日間召し上がっておりません。
お好きなソーセージやお肉等もお食べになりませんと、倒れてしまいます。バターたっぷりのクッキーだけでも食べて貰えませんか」
「いらん! 私はこの今のメニューで満足しておる。絶対に出すな! この後、庭をいつものように走るから外に水の用意をしといてくれれば良い。余計なものは要らないからな! 絶対に水以外は置くなよ!」
詳しく言わないと、この屋敷の者達は水と一緒に軽食も並べたり、部屋にお菓子を勝手に置いて行くのだ。
私も連日の身体への酷使と、野菜だけの食事に嫌気もさしてきているのだ、目の前に差し出されると、つい出来心で摘んでしまうから、最初っから無いならないで見たくは無い。
せっかく少しづつだが効果が出てきだしたのだから、今が頑張りどころなのだと思うんだよな。
「さあ! 今日も走って剣を振るか!
少しだけだが、筋肉も付いたかな? 剣を振りかぶって止める時にビシッと止められるようにはなってきたんだよ。
もう少ししたら、騎士に頼んで相手になって貰ったほうが肉の燃焼には良いかもな。うんうん、なかなか良い調子だな」
「おはようサミュエル。頑張ってるね……って、凄! 何それちょっと別人みたいよ。顔の肉がスッキリしたし、身体も一回り細くなったわよ」
「おう! キャサリンか、そんなに私は変わったか? 自分では変化がよく判らんし、屋敷の者は嘘か本当か判別できん!
家族達も心配ばかりで鬱陶しいしな。キャサリン実際どうだ? 今現在の状態をハッキリ言ってくれ」
「ハッキリ言ったわよ。さっき、別人並みに細くなったって。あれからも、毎日頑張っていた事は聞いてたけど、これ程効果がでるのね。ビックリしたわ」
「でも、未だ普通ではあるまい」
「うーん……ぽっちゃりよりも太め?」
「ありがとう。まだまだって事だな。私は今とてもヤル気に満ち満ちている。痩せて恋愛するんだからな」
私が片手を振り上げて決意を固めていると、横からけたたましい叫びが……
「うっそー サミュエルって、恋愛したくて痩せてるの? 好きな子できたの? 貴方って食べる事と寝ること以外興味無いのかと思ってたわ。
サミュエルがこのまま痩せたら……凄い美少年になるわね。小柄で、綺麗な青空の様なブルーの髪に、ミステリアスなパープルの瞳。女の子が寄ってくるわよ。それよりも好きな子って誰よ」
「今は居ない。これから見つけるんだよ。何処かにきっと私の運命の相手が居るはずなのだから! 」
「ふぅ~ん。運命の相手ね。見つかれば良いわね……」
なんだがキャサリンの声が暗く落ち込んだ感じになっている。今迄の、第二王子に対するツンツン高飛車な物言いや、サミュエルに対する気軽な弟みたいな接し方とは少し違った雰囲気だ。
「どうしたんだ? お前の恋愛はどうなんだ? 好きな奴など居ないのか?」
「私……私はね……5歳で初めてのお茶会に出た時にね、緊張しちゃってカップを落としちゃったのよ。
そしたらね、第二王子様がにっこり笑って大丈夫だからって頭を優しく撫でてくれたの……
私ね両親に厳しく育てられてたから、頭なんて撫でて貰ったことなくて、すっごく嬉しかったの。
それで、帰ってお父様に第二王子様と一緒にいたいって言ったら、次の日から家庭教師を増やされて、何故か剣の練習もやらされたのよ。
やるしか無くて頑張ってたら、ある日王様に呼ばれて婚約者にって言われたの、断れないし第二王子様も嫌な印象無かったからそのままお受けして、第二王子様に会ったんだけど……
なんだがイメージと違ってた……ついつい私も意地貼っちゃってね。素直になれなくなっちゃった。好きって感情も良く判らないの……
学園でもね、第二王子様男爵令嬢のメアリーを好きみたいで。いつも一緒に居て楽しそうに笑ってるの。
メアリーからは、ごめんなさい。好きになってしまいました。お許しくださいって言われちゃってね……私……私は第二王子様の事を好きなのかどうなのか判らなくて……
好き合っている二人を私が引き裂いているのかもしれないと思ったら……サミュエル、私はどうしたらいいの? お父様に婚約破棄お願いしたら、了承してくれるかな?」
キャサリンが思いもかけないことばかりを話し始めてびっくりした。私はそんなに彼女にきつく当たっていたのだろうか? キャサリンがうざったく感じてはいたが、強気の彼女だから大丈夫だと思っていた……
男爵令嬢のメアリーとは、友人達が仲良かったから自然と居ただけであって、個別にどうこうとは思ったことも無い。本人にもそんな心あるような事など伝えた事も無いぞ。
今、私の目の前でポロポロ涙を流し泣いているキャサリンが、とても可愛く見えた。自然と手が動き、目の前にある頭を撫でていた。