新しい路〈アン・フレア〉
アンのその後を想像する機会があり、アンにも嬉しい事が起こればと、番外編を作りました。
色々な脇役さんの嬉しいお話あれば、更新していきます。
爽やかな風が強く吹く日、離宮に懐かしい人物が訪ねて来ました。
「フレア様。お久しぶりで御座います」
「アン、貴方の殿方での姿は久々ね。相変わらず色遣いもお洒落で、知性や品格を想像させる装いね。
お店から離宮迄の間、何人の罪なき女性を虜にしたのかしら?」
フレアからのからかう様な言い方に、アンが席についてすぐ、ほんのり頬を染めたメイドが二人にお茶を入れていたのだが、フレアから後はやるからと告げられ退室した事がアンの頭に浮かんだ。
「フレア様ぁぁからかわないでくださいぃ~今はキリッとした男姿なんですからぁぁレアなんですからねぇ。アタシの男姿はぁ~」
「そうね、その姿でのその喋り方は違和感を感じてしまうわね。今日はアンソニーと、貴方の本来の名前で呼ぶ事に致しますわね」
「ありがとうございます。フレア様」
先程はクネクネ身体を捩り、テンション高く話したアンが、素早く切り替えて紳士的に応えた。
「それで、アンソニー今日はどうしたのかしら。貴方のお店の噂はこの離宮にも聞こえてくるわよ。忙しいのではなくて」
「フレア様が、初回お連れ下さった方々から徐々に広がって、今は安定した成果を出せています。ありがとうございました」
「それは全て貴方の才能の成せる技よ。けれども、まさか貴方にこの様な才能があったなんてね。あの人が知ったら驚くかしらね? いえ、あの人は驚かず微笑むだけで何も言わないわね」
「そうですね。宰相の補佐だった私の父がある秘密を知ってしまった事が原因で、あらぬ疑いを掛けられ家族全てが惨殺されたあの日。ただ一人生き残った私をあの方は助け匿ってくれました。命の恩人です」
「あの時の貴方は重傷を負い。心と身体を癒すのに一年間療養してたわね」
「はい。フレア様専属の医師の方々のおかげです。けど、一年間の間髪を切らずに伸ばせと意味の分からないことを言うあの方の事は不思議でしたが、まさか私をフィクサーから匿う為に、女装させ多数居るフレア様のメイドの中に隠す等、あの方にしか考えつかない事です。
おかげで自由に王宮内をメイドとして動けて、父の……家族を殺す命令を下した人間達の証拠を掴む事ができました」
フレアは、お手製のお茶をアンに注ぎながら深い深い溜息をつきました。
「あの人は、アンソニーに復讐させようとしてた訳では無いのよ。只あの頃の王宮は、悪事や陰謀……様々な事があったから……辞めましょう。
今話しても、楽しい話では無いでしょうからね。殆どの悪事を働いた人間は今は居ませんし。それで良いわ」
アンはフレアの入れてくれたお茶を飲み一息つき明るい声で話し出した。
「今日離宮にお伺いしたのは、これをフレア様にお渡しする為に来たのです」
アンはフレアに封筒を一枚差し出した。フレアは、封筒を手に取り。
「綺麗なお手紙ね。誰からかしら? 」
「私からです」
「アンソニーからなの? 開けても良いかしら?」
「はい」
フレアは、封筒を開けて中から手紙を取り出した。それを読み進めていき全て読んだ後、笑顔になり。
「アンソニーなんという事なの! 貴方サラと結婚するのね! あなた達はメイドの頃から仲が良くて、アンソニーがドレスの仕立て屋を始めたいと言い出した時も、サラはアンソニーの手助けがしたいとついて行ったのよね。
まさか、結婚するなんて! なんて素晴らしい事なのでしょう。わたくしにとってもあなた達は子供の様な存在なのよ。こんな嬉しい事ないわよ。
おめでとう。アンソニー良かったわね。わたくし本当に嬉しいわ」
「その手紙にある日時で、親しい人間だけ呼びお披露目会を開くのですが、フレア様にも来ていただきたく思っていますが、あの方にもお手紙を書いて送っています。
来られるか来られないかは、私にもわかりません。そもそも手紙があの方に届くかどうかも判らないのですが……」
「そう……そうなのね」
フレアは暫く考えた後、アンに微笑みを向け。
「わたくしは、二人の結婚の御祝いに行かせていただくわ。あの人が来ても来なくても、わたくしは行きますわ」
「フレア様」
「アンソニーわたくしね。もし、妖精達の悪戯でもなんでも良いから、あの人ともう一度逢えたなら……あの人がわたくしを求めてくれるのなら……ついて行きたいと思っているのよ」
言葉の後。フレアは、アンにゆったり微笑み自作のお茶を美味しそうに飲んでいた。
半年後。皇帝に離宮にて、皇后フレア病死との報告が……皇帝は何も言わずに頷いた。
happy end