それぞれの土曜日
鶴啼合衆国に来て3日目。
土曜日となった。
ランドルフ「では皆さん、海に向かいましょう。」
「「「はーい」」」
青葉「海‥‥?」
ジョゼフ「毎月最初の土曜日の午前中に予定がない子は、少し歩いた先にある海に行くのです。神父様がそうお決めになりました。……そうでないとみんな外出しませんからね。」
青葉「はぁ・・・」
実はというと、僕はあまり海が好きではない。
小さいころに砂浜で遊んだときに足を怪我してしまったのだ。それ以来砂浜には近づかないようにしている。
ランドルフ「大丈夫です、泳ぐわけではありませんから。」
神父が微妙にずれたフォローをしてくれた。ちょっと違うのだが・・。
オーガスタ「今日はいい天気だね!大陸がよく見えると思うわ!アオバは海は見たことある?」
青葉「うん、あるよ。最後に見たのは・・・」
フランセス「しまにいるのだからみたことあるのはあたりまえじゃない?」
オーガスタ「あ……そうね!そうよね!ごめんなさい、私ったら変な質問を・・・」
あ、あぶなかった・・・危うく3年前とか答えていたらどうやって島に来たのか疑われてしまうところだった。
話題を変えよう。
青葉「えっと・・・ポール、とジェイコブ?は?」
ランドルフ「ポールは朝からベースボールに、ジェイコブは友人とサッカーで遊んでいます。帰りには応援に寄る予定です。」
青葉「そうなんですか、地元のクラブとかですか?」
ランドルフ「ポールは地元の野球チームに所属しています。サッカークラブはないのでジェイコブは裏路地でしょう。」
青葉「へえ、ないんですか。」
ランドルフ「そのあたりがポールとジェイコブのいがみ合いの一因にもなってましてね‥ああ、頭が痛い・・・」
この話題もだめかあ、と考えているうちに海が見えてきた。
その海は、今まで僕が見てきた海とは違う海だった。
あちこちに島があり、かなり先には雄大な大陸があるのが分かる。
波も穏やかで、小さな貨物船やヨット、クルーザーが航行しているのが見えた。
ジョゼフ「オーガスタの言う通り、今日は大陸までよく見えますな。」
オーガスタ「アオバはここの景色は初めて?どお?」
青葉「すごいな、こんな景色は見たことがないや……。」
ルイス「……み、みぎの方の、あっちの方にあるのが・・ユニオン合衆国。」
聞き覚えがあまりない声がして、僕はそっちを振り向いた。
目線の先にいたルイスはビクッとし、僕から目をそらす。
青葉「・・・ユニオン合衆国?」
ルイスはこちらを見ずにうなずき、ユニオンがある方を見る。
ルイス「むかしの、おおきな戦争で、勝った国。いつか、僕も行ってみたいなって…」
青葉「すごい国なんだね。いいと思うよ。僕もいつか・・・」
あそこに飛ぶことがあるのかな。このよく分からない特性で‥。
オーガスタ「アオバ?どうしたの?」
青葉「あ、いや、何でもないよ……。」
ランドルフ「・・・そろそろ戻りましょう。ポールのところに行ってみましょうか。」
少し離れた場所にあるグラウンドに向かう。
「いったぞ!ポール!」
ポール「任せろ!」バスッ
「いいぞ、スリーアウトだ!」
「チェンジチェンジ~」
いかにも少年野球チーム、といった一団がちょうど試合をしているところだった。
ランドルフ「バンクーバー島にはいくつか少年野球チームがあるのですが、アイガシーキのチームは特に優秀なことで有名なんですよ。」
ジョゼフ「ユニオンのメジャーリーグにも行った選手がいますからねえ。美人の嫁ももらってるそうで羨ましい限りだ・・・」
ジョゼフさんの目の先には掲示板にはポスターが貼ってあり、いかにもメジャーリーガーといった雰囲気のマッチョと、ピンク色の髪をしたアイドルのような女性が映っていた。
女性の方は長い髪をしており、どことは言わないが、かなり大きい。
持っている杖?マイク?にはなぜか軍艦の大砲のような飾りがついていた。
オーガスタ「ポール~!」
オーガスタが大きく手を振っている。ポールはこちらを見ると、かなり面倒そう顔をしながら手を上げて答えた。
ランドルフ「ポールはエースでこそありませんが、そこそこ優秀でしてね。野球チームではそれなりに重宝されているようです。」
僕は野球はあまりよく分からないが、ポールは守備の間もきびきびと動き、攻撃の際には2番目の打者として打席に立ち、一塁打を打って塁に出ていった。
その後、4番打者が見事にホームランをかまし、ポールはゆっくり走りながらホームベースに戻っていった。
ランドルフ「行きましょうか。」
青葉「あれ、あいさつとかは…?」
ランドルフ「本人が嫌がるのですよ。見に来るのだけは許してくれましたが、声をかけるのはやめてくれ、と言われましてね。」
フランセス「……はんこうき」
ランドルフ「かも、しれませんね。」
僕たちはジェイコブのいる方に向かい始めた。
立派に整備されたグラウンドとは違い、向かったのは裏路地だった。
日本じゃ間違いなく見ない巨大なゴミ回収コンテナや、風化したポスターなんかが貼ってある。
裏路地を抜けた先に舗装された空き地があり、ジェイコブはそこで3-4人の少年たちと一緒にリフティングに興じていた。
ジェイコブは中心で何度もリフティングを続けており、周りの少年はみな年上のように見えるにも関わらず、喝さいを上げていた。
「いいぞー、ジェイク。」
「あと4回でおめーの新記録だぜ!」
「いけいけ~」
ジェイコブはそこからさらに8回のリフティングを続け、最後は落としてしまったが、上機嫌で周りの少年たちとハイタッチをした後、こちらに気が付いた。
ジェイコブ「神父様!みんな!見てたか?俺、49回も続けられたぜ!」
ランドルフ「おお、それは素晴らしい!お見事でした。」
ルイス「(コクコク)」
ジョゼフ「あと一回で50回か。来週はそれだな!」
ジェイコブ「うっへー、相変わらずジョゼフじーさんは俺には厳しいなー」
ジョゼフ「サッカー観戦以来、私をしつこく誘ったのは誰だと思っとる、まったく・・・」
ジェイコブ「アオバ!アオバもやってみなよ!」
青葉「ええ、僕はできないよ…」
ジェイコブ「ええ、いいじゃんか!やってみるだけタダだし!」
「空気は抜けちまうがなー」
「ガンバレヨー見たことないにーちゃん。」
仕方なくリフティングに挑戦した僕だが、見事に2回目で吹っ飛ばしてしまった。
「あ~」
「まあそうだよなあ」
ジェイコブ「アオバ!そうじゃなくて、こう蹴ってみてくれ!」
青葉「続けるんだ・・・」
そのあと、僕は2時間くらいその場でリフティングをさせられ、ランドルフ神父が「そろそろ帰りましょうか」と言い出すまでに
11回リフティングを続けられるようになるまで成長した。
「じゃあな!ジェイク!また明日!」
ジェイコブ「またな!」
ジェイコブと合流し、教会に戻ることになった。
教会に戻って数十分後、得意満面のポールが帰ってきた。
ランドルフ「ポール。どうでしたか?」
ポール「ふふん、5-2だ!」
オーガスタ「やったじゃない!島で2番目に強いチームだったんでしょ?」
ポール「僕と僕のチームならこんなものさ。チームすら作れない誰かさんたちとは違うのさ。」
ジェイコブ「僕は自分自身の成果があるけどね。」
ジョゼフ「へいへい、そこまでそこまで。洗濯物は明日のミサの後に泥落としてから洗ってもらいますからな」
ポール「ええぇ……」
……次の日、僕は久々の筋肉痛に悩まされることとなった。
ツーツーツー
「……ランドルフです。博士をお願いします。」
「私だ。久しぶりだな、神父殿。連絡してきたということは、何か進展があったのだな?」
「ええ、まさかいきなり教会の子たちが連れてきてくれるとは思いませんでしたが。」
「そうか、詳細を頼む。」
「はい。3日前のことになります。」
遅くなりました。。。。誰もみとらんからいいか!