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何もない僕が国際連合を旅する話  作者: ヨン・ルイ
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偽りの勇気

スヴェトラーナさんに僕の本当の話をしてから3日。

僕は相変わらず図書館とスヴェトラーナさんの家を往復する生活を続けていた。

スヴェトラーナさんはあれからあちこちに電話をかけたり、誰かに会いに行くことが増えた。

僕もそれについていくことがあり、写真まで取られた。

スヴェトラーナさんが何をしてくれているのか、察しの良くない僕でもうすうす気がついてはいたが、

一体どこでそんなコネを駆使しているのかは見当もつかなかった。


2020年5月31日。この世界に来てからちょうど1月が立とうとしていた日。

スヴェトラーナさんがの家に封筒が届いた。

スヴェトラーナさんが僕を呼び出し、封筒を開ける。

スヴェータ「これは旅券。これは臨時の身分証。記載事項は名前と年齢以外は虚偽だけどね。

これは1度限りのパスポート。複数回使えるものは流石に手に入らなかった。

…明日、スモレンスクまで送ってあげる。そこから鉄道と飛行機を乗り継いで、日本に行けるはずよ。」

青葉「じゃあ、明日でスヴェトラーナさんとは」

スヴェータ「そうだね、お別れだよ。アオバ、1か月の間ありがとうね。一緒に入れて、楽しかったわ。」

僕はスヴェトラーナさんの思わぬ言葉に耳を疑った。

青葉「そんな、お礼なんて、お礼を言うのは僕の方です。見ず知らずの誰かもわからない僕を、しかも嘘をついていた僕を、

1か月住まわせてくれた上にこんなことまでしてもらって」

思わず声が震える。

スヴェータ「アオバ。」

スヴェトラーナさんが優しく声をかけてくる。

スヴェータ「アオバはあたしのことを優しいと思うかもしれないけれど、それは違うわ。あたしは非情な女だよ。」

スヴェトラーナさんは何度もまばたきをし、こちらを見つめる。

スヴェータ「あたしは、戦場において勇敢な行動をした、として勲章をもらったわ。おかげで子供を立派な学校に入れられて、いろいろな人との繋がりもできた。

でも、本当はそんなことないわ。本当に勇敢な人なら…なによりも愛する人を真っ先に救うはずだものね。」

スヴェトラーナさんの目が泳ぎ、声が震える。

スヴェータ「あたしが将軍を助けた理由は戦争に勝ちたかったからでも、勲章が欲しかったからでもない。

あたしは、怖かったの。もしここで夫を将軍より優先して治療したら、その場にいた将校たちはどう思うかしら?

あたしも、セルゲイも、子供たちまでもが反革命主義者として殺されてしまうんじゃないかと思ったわ。

あの時泣いていたのは、夫を助けられないことにたいしての涙じゃない。将軍が助からなかった時に自分と子供たちにかかる罰。それが

怖くて、怖くて」

スヴェトラーナさんがすすり泣く。

スヴェータ「あなただけじゃなく、あたしもあなたに嘘をついていた。あなたを助けたのは、セルゲイがそういうことが好きだったからとかじゃない。

ひと月前、あなたを初めて見た時。アオバはひどくおびえた表情をこちらに見せていたわ。

あのままあなたを放置したら、あるいはそのまま警察に渡していたら、あの時のように、周りを気にして人を見捨てることになると思ったの。」

スヴェトラーナさんは顔をくしゃくしゃにしながら笑い、僕を抱きしめた。

スヴェータ「良かった……今回は、見捨てずに助けられた……!」

僕も思わず嗚咽を漏らす。

二人はしばらく、抱き合ったまま泣いていた。



数分後、スヴェトラーナさんは涙を拭いて鼻をかみ、いつものような明るい顔に戻った。

スヴェータ「さ、今日はご馳走を作るよ。せっかくだからニコライも呼ぼう。せっかくだから家族も紹介しておきたかったけど時間もないしね。」

青葉「はい、手伝います!」


その晩は、僕とスヴェトラーナさんとニコラーエフさんで楽しく食事をした。

ニコラーエフさんはしこたまウォッカをあおり、僕がいなくなることについておいおい泣いていた。

まったく、最初の塩対応とは大違いだ。

僕は選別として図書館でダブっていた本をもらい(本当はいけないんだぞ、と言われた)ニコラーエフさんは帰っていった。

その晩、僕は持っていく荷物をまとめ、自分の部屋に引き上げた。

スヴェータ「明日は早いからね、しっかりおやすみなさい。」

青葉「おやすみなさい。」

ふう、とため息をつき、ベッドに横たわる。


青葉「明日で連邦ともお別れか」

スモレンスクから列車でモスクワまで向かい、乗り換えてシェレメーチエヴォ国際空港に向かう。

そこから2回の乗り継ぎをして、羽田につく予定だ。

僕はここがそもそも異世界で、日本に戻ったところでそこは異世界の日本だということをわかっていたが、

なぜか日本に行けば何かわかるという漠然とした考えがあった。

基本的に悲観的な考えの僕にしては、とても珍しい楽観論だ。

青葉「1か月、楽しかったな。」

思わず独り言を漏らす。これまでの人生のうちでここまで楽しく生活できたことはほとんどなかったかもしれない。

基本的に図書館と家を往復しただけにもかかわらず、だ。

さっきの楽観論も、この楽しい経験からくるものなのかもしれない。

青葉「ちょっと帰りたくもないかもな……なんてな」

少し後ろ髪引かれる思いだが、やっぱり一月あっていないと親にもクラスメイトにも会いたくなる。

みんなこの不思議な経験を信じてはくれないだろうが、まあそれは仕方のないことだ。

そんなことを考えながら、僕はいつもより深い眠りについていた。




夜中に、ふと目が覚めた。どうも年を取るとトイレが近くなって仕方ない。

よいしょとベッドから起き上がり、トイレに向かった。

あたしがトイレを済ませ、部屋に戻ろうとした時、アオバに貸した部屋の方からかすかに光が見えた。

スヴェータ「まったく、まだ起きてるのかい?」

少し呆れつつ、アオバの部屋に向かう。間違いなく、アオバの部屋から光が漏れていた。

ため息をつきつつ、部屋のドアを開ける。

スヴェータ「アオバ、明日は早いんだから……?!」

あたしはそこで思わず驚愕の声を上げてしまった。

アオバの部屋は明るかったにもかかわらず、アオバはベッドで寝ており、部屋の明かりは消えていた。

その明かりは、なんとアオバの体そのものから発せられていた。

あたしがアオバの名前を叫び、アオバそばに駆け寄ろうとしたとき、アオバの体はさらに強い光を発し、

あまりのまぶしさにあたしは思わず目を閉じ、顔を手で覆った。

そして、唐突にあたりが暗くなった。

「……アオバ?」

あたしは目を開け、手探り状態で部屋の明かりをつけた時。


アオバの姿はどこにも見当たらなかった。

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