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何もない僕が国際連合を旅する話  作者: ヨン・ルイ
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図書館

スヴェトラーナさんに図書館まで案内してもらい、そこで一度分かれた。

昼ごはんとしてお弁当を作ってもらった。

青葉「あ、ありがとうございます…でも、どうして見ず知らずの僕にこんなにも親切にしてくれるんですか?」

スヴェータ「うちの旦那がそういうのが好きな人だったんでね。ほら、持ってお行き。図書館は17時に閉館だから、そしたらまたうちに来なさい。」

青葉「ですが」

スヴェータ「どうせ独り身だし、うちには盗むもんなんてなんもありゃしない。記憶が戻っていく場所が分かるまでここにいるといいよ。」


見ず知らずの人の優しさをかみしめながら、僕は図書館に入った。

司書はこれまたおじいさんで、大あくびをしながら退屈そうにしている。

青葉「あの、すみません」

司書「ん~…?見ない顔だなあ 何かお探しで?」

青葉「歴史の棚と地理の棚を…」

司書「んああ、2階の208番書棚と213番書棚だよ。」

青葉「ありがとうございます。」

司書「ああ、それとあんた、この町の住民じゃないな?悪いがそういう人には貸し出しはできねえ。閲覧だけだ。」

青葉「わかりました。」


階段を上がり、208番の棚まで向かった。

「大祖国の歴史」「世界とソビエト」「帝国ヘルナヴァルの興亡」「労働者たちははいかに帝政を打倒したか」

なかなか濃ゆいタイトルのものが並んでいる。適当なものを手に取ろうとして、ふと手が止まる。

僕はどうして、この世界の文字が読めるのだろうか。

僕は単なる高校2年生で、ロシア語なんてならうどころかキリル文字のABCすらわからないレベルだ。

それなのに、なぜ新聞の文字が読め、であった人と会話でき、目の前の本のタイトルの意味が分かるのだろうか。

そんなことも考えながら、適当に世界史のタイトルがある本を取った。


それ以外にも2-3冊とり、地理の棚からも2冊を取って並べ、読み始めた。

文字が普通に読めること、自分が本が嫌いな人間ではないことにほっとしながら、情報を集め始めた。



最初の本…「ヨーロッパ各国の興亡」に書かれた歴史はおもにこうだった。


17世紀くらいまではほとんど元の世界とは同様の歴史だった。

アメリカに相当するサラトガ合衆国が独立するとともにカナダに相当するエルジア王国も亡命した王の落胤を擁立して独立運動を展開し、

さらにそこに貿易会社の支援が加わったことにより英仏は破滅しかかった。

日本はユニオンから技術を手に入れ、多くの植民地を失い弱った共和政フランスとスペインを滅ぼしてその土地に入植を始めたが、

なぜか日本本土からの連絡と交易が途絶えてしまい、独立を余儀なくされた。

ライバルが減ったドイツは勢力を拡大し、オーストラリアなども飲み込んだ。

陽波と呼ばれる小国家をめぐり世界が二つに割れ、「大西洋戦争」と呼ばれる大規模な戦争が起き、

貿易会社「CCC」の軍艦と日本が入植したフランス・スペインを主とする国「幻想政府」の艦隊決戦で戦争が終わった。

ベークルナットと呼ばれる大国の北部で謎の組織が勢力を増し、今に至るまで全面戦争を行っている。

そして、帝政ロシアにあたる聖ヘルナヴァル王国が、共産主義運動により本国を放逐され、王侯貴族は多くの技術者や国民を「拉致」し、国の東部に「逃げ込んだ」。


途中まで読んだとき、僕は思わず頭を抱えた。ここはどれだけ狂った妄想神が考えた世界なんだ?


次の本は「太平洋島と大陸」というタイトルだった。

ここで僕が目をむいたのは、「出雲皇国」という国についての解説だった。

本によれば、この国は1943年に突如異世界から国ごと「転移」してきた国らしい。

CCCとサラトガの公式文書にはっきり残されているらしい。


2冊目の本を大体読み終わったときには17時になっており、司書のおじいさんににらまれながら片づけをすることになった

集められた情報は中途半端だったが、すこしこの世界について理解することができた。


この世界は、一見元の世界に似ているけれど、その実は と ん で も な い 世 界 だ。


スヴェトラーナさんの家に帰ると、温かく迎えてくれた。

スヴェータ「どう?思い出せた?」

青葉「いいえ、まだ…」

スヴェータ「そう、気が済むまで調べるといいわ。アオバは本は好きなの?」

青葉「あ……うーん、嫌いではない、かな……」

スヴェータ「それは良いことよ。調べ足りないなら、明日もいきなさい。図書館は9時から空いているわ。」

青葉「はい。」

スヴェータ「そうそう、使っていない部屋をアオバのために片づけておいたわ。好きなだけ使ってね。」

青葉「えっ…」

スヴェータ「まくらが合わないかもしれないけど、そしたら明日買いに行きましょう。」

青葉「本当に、なにからなにまで……どうしてこんなにも?」

スヴェータ「……そうね、昼に行ったことも本当だけど。」

スヴェトラーナさんはニコニコしながら言った。

「こうしていると、また家族と暮らせているようでとても幸せなのよ」

青葉「……」

スヴェータ「さあ、晩御飯できているから、おあがりなさい。」


僕はまたご馳走になり…晩御飯も高カロリーだったがまた手が込んでいておいしかった…風呂と着替えまで貸してもらい、あてがってもらった

部屋で休んだ。

やや埃臭いベッドに転がりながら、僕は元の世界の両親のことを考えた。

今は何をしているのだろう。

もし僕が本当に転移したのなら、朝からこの時間までどこにもいないということになる。

父も母も特段優しいわけじゃないが、ひどい親ではなかった。今頃心配をかけてしまっているのだろうか。

だとしたら申し訳ないなあ…実際に転移してみるまで、そんなことを考えたことは一度もなかった。


ひょっとしたら、ここで眠れば、すべて夢だったことになって元の世界に戻れるのかもしれない。

そんなことを考えながら、僕は見知らぬ町の見知らぬ人の見知らぬ部屋で眠りについた。



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