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最悪のファーストキス

 また私のせいで、一人の人生を犠牲にしてしまう…。

 あの時から何も変わっていない…。


 過去にも経験した後悔が込み上げ身体を震い立たせた。


  「戻らなくちゃ…」


 水辺から結構な距離を逃げて来てしまっている為、すぐに引き返そうとしたがハンターの死骸にふと疑問を抱く。

 何故、この骸骨は防具を着たままなのか。襲われて死亡したなら防具は剥がされている筈。


 不思議に思い、近くを見渡してみると少し離れた所に花が咲いているのが目に入った。

 鮮やかな紫色の花。「ドクツメソウ」


 ドクツメソウーー猛毒の花。

 花びらから滲み出る液体は甘い香りを放つ。その蜜を吸いに近寄った大型の昆虫は花びらに一度止まったら最後。猛毒の蜜により触れた箇所からドロドロに溶け全身に毒が回り動けなくなり養分として吸収される。

 昔から矢に蜜を塗り毒矢等に使用されている植物だ。


 ドクツメソウを見た瞬間、抱いた疑問が解ける。このハンターはきっとドクツメソウの蜜に触れて亡くなったんだと。

 それと同時に一つの淡い期待を抱いた。


 しゃがみ込み一帯の土を払う。

 するとさっき躓いた所に錆びた双剣が落ちていた。


 「あった…」


 私は双剣を拾い、次にドクツメソウ目掛けて叩きつけた。それは、彼を助ける為に思いついた故意的な行動。ドクツメソウの蜜を双剣の刃に大量に付着させる為。


 この時ーー

 試験後にガルダが見せていた、希望に満ち溢れた瞳で未来に夢物語を見る表情が思い浮び、双剣の柄を握る手に力が疾る。


 彼が兜亀に勝ったように。

 あの、勇気に満ち溢れた表情と行動が本当に不可能を可能にする事はできると周りの人間にさえも思わせた。

 少なくともエマは振り動かされていたのだ。


 「あんたのせいでっーー」

 エマの発したその言葉には感謝の様な複雑な気持ちが混ざっていたーー


 それからすぐに、不思議と震えが無くなっていた足で、逃げてきた道をとにかくがむしゃらに走った。


 厭な姿がやがて見えて来る。


 ベァクドルドが水辺に顔を突っ込んでいた。だが、そこにはガルダの姿はない。


 既に喰べられてしまったのかと思ったが明らかにベァクドルドの様子がおかしい事に気づく。水を飲むのに顔まで突っ込まない。


 まさかっ!水中に潜ったの!?


 「何やってんのよ!?逃げ道無いじゃない!!」

 

 何故水中に身を潜めたか経緯は分からなかったが、最悪の予感が過ぎる。

 

 彼はいつ潜ったのか…。

 「もう限界超えてるんじゃ!?」


 

 急いでベァクドルド首元に飛び乗る。

 

 ベァクドルドは背中に異変を感じ、水中から顔を上げ取り付いた何かを振り払おうと左右に大きく首を振った。

 

 エマは股に力を入れ落ちない様踏ん張り、錆びた双剣を取り出す。

 ベァクドルドが大きく首を反った瞬間、エマは渾身の一撃を左右の眼球に振るった。

 

 錆びた刃は柔らかい眼球に潰すように突き刺さり、刃に付着したドクツメソウの猛毒蜜が細胞を溶かした。


 ベァクドルドは激しい痛みから先程とは比べ物にならないくらいの力で暴れ、エマは耐え切れず吹き飛ばされが、すぐに体制を取り直し、視力を失いのたうち回るベァクドルドを無視して水辺に飛び込んだ。


 水底には、手を伸ばし意識を失っているガルダの姿が見える。

 

 急いで腰を掴み、水面に上がる。


 「重っーー」

 水辺の際に身体を引き揚げるが、意識が無く脈を確認する。弱くなっていたが微かに波打っている。息が止まって数秒って所で駆けつけたのだ。


 良かった間に合った…。


 「カッコつけておいて!あんたが諦めてどうすんのよ!!」


 しかし問い掛けても反応が無い…。

 

 この状況ーーやるべき事は決まっている。

 

 今すぐ人工呼吸しないと…。

 分かっているんだけど…。

 

 エマの頬が赤裸目ていく。

 まだ1度も誰ともした事が無かったのだ。


 しかし迷っている暇なんてない…。


 意を決してライポイル玉をその場で破裂させ、顔を近づけた。


 右手でそっと顎を上げる。


 軌道を確保させた後、自分の唇でガルダの唇を覆い、息を吹き込む。

 

 それはーー

 思い浮かべていた甘酸っぱい青春の味ではなく。

 ライポイルの激臭が鼻から通り、味覚さえも錯覚を起こしニンニクの様な苦味のある最悪のファーストキスだった。


 「責任取りなさいよ…」


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