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タイムリミット

 水によって周囲の音はかすみ、胸の鼓動音が内側から毎秒聴こえてくる。

 まるで死までのカウントダウンをしているかのように。


 俺は何も考えず、ただじっと無の境地に身を預け、1秒でも長く息を止める事に集中した。余計な思考は焦りを生むからだ。


 外のベァクドルドはガルダが水中に飛び込んだ後、すぐに視界を取り戻していた。

 しかし、匂いはライポイルの刺激臭によって掻き消され、視覚を取り戻した時には既にガルダの姿は無かった。

 

 「グルルッーー」

 周囲を見渡し確認した後、ベァクドルドは再び飛翔し、空からも周囲を見渡すがガルダの姿は見当たらず、同じ場所に降り立つ。


 ドシンッーードシンッーー

 

 水の中からでも響き渡る巨体が歩く音。


 その音が遠くなっていくことを願っていた気持ちとは裏腹に足音は段々と大きさを増していき、距離が縮まっていくのが分かる。

 

 頭では無を意識していても、本能というものは無意識に胸の鼓動を速くさせた。

 

 ベァクドルドは僅かな地面に残ったガルダの靴の匂いを嗅ぎ分け辿っていたのだ。


 水の中からでも分かる…

 直ぐそこに来ていることが…


 ベァクドルドは微かに残っている匂いが水辺の手前で消えている事に気づき、水面を舐める様に覗く。


 ガルダも恐る恐る水の底から顔を上げるとベァクドルドのボヤけた顔面が覗かせているのが見え、その光景に心臓が強く血液を送り、ビクッと身体を反射させた。


 その反動で口から少し空気が漏れ出てしまった。


 ゴポッゴポッーー


 空気の泡が水面に上がっていく。

 

 『やばい息が…頼む!気づかずに早くどっかにいってくれ…そろそろ息も持たない…』


 ーーこの時、既に息を止めてから2分を経過していた。


 ポコッーー


 しかし、ベァクドルドは見逃さなかった。

 目の前の水面で空泡が弾けた事を。


 『グギャォッ』

 ベァクドルドは異変を感じ、水面に顔突っ込んだ。すると水面の底に隠れていた獲物と眼が合う。

 途端、見つけたぞと言わんばかりに水中で咆哮。  


 俺の目前を大量の空泡が視界を覆い、水面に上がっていく。

 

 『くっそ!!』


 今、浮き上がれば確実に捉えられる。

 かといって、もう息も限界がきていて意識が朦朧とし始めている。


 こんな所で…


 終わってしまうのか…


 こんな世界なんて消えてしまえと思っていたが、この世界の何一つ俺はまだ見れていない…


 これからだったのに…

 

 親父がこの世界に来た意味を。

 そして俺が産まれた意味を探したかった。

 

 そんで親父の世界をこの目で見てみたかった。


 モンスターの居ない世界。争う事もあるが人々が助け合い、動物と共存する平和な街。

 親父が居た日本という国で住んでみたいといつしか思うようになった。


 それが俺の夢でもあった。

 

 でも…もう叶わないんだ…


 誰にも気付いてもらえず、このままこの世界からも消えて無くなるんだ…


 

 ガルダが諦め掛けていた時ーー


 森の中では水辺の方へ駆け抜ける影が動いていた。

 

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