悪役令嬢
エマは再度矢を弓にセットし、右手を構え、放つ為の力を溜めていた。
「待て待て!!倒したらンコ取れないだろ!!せめてゲルフォースがンコしてからにしてくれよ!!」
「私にはアンタの依頼内容なんて知ったこっちゃないわ。それに帰りが一緒だった場合に荷車がンコ臭で充満するなんてゴメンだわ」
「頼むから!!分かった!アンタとは時間ずらして帰るから!やめてくれ!5000Bell掛かってんだよこのクエストに!!」
「いいじゃん。倒してから腸を切開すれば。私はこの後、森に行く用事があるから待ってられないわ。さっさと済ませて帰りたいのよ」
何てめちゃくちゃな…自己中め!!
お嬢様だからか?言葉に優しさのやの字も無い。
何とか交渉しようと思うのも束の間。
もう時、すでに遅し。
エマは次々に矢を放ち、ゲルフォースを一匹残らず始末してしまった。愕然とするガルダに目もくれず、倒したゲルフォースに近づき、皮を剥ぎ始める。
もう言葉すら出なかった。
この女に何言っても聞く耳を持ってくれない。最低最悪の悪役令嬢。
俺は諦めて、急遽ゲルフォースを切開する方針に切り替え、エマの剥ぎ取りが終わるのをしばし眺めていた。
慣れていないのか手元がおぼつかない様子だ。額には汗が出ており、苦難し手間取っている。
俺は解剖の技術もある程度は知っている為、簡単に剥ぎ取る事ができるが、一ミリもその場から動かないと決めていた。
ガルダなりの小さな仕返しだった。
ざまぁと少し優越しながら、眺める。
「ふぅ…」
一時間くらい立った頃だろうか、ようやく終わったのかエマがゲルフォースから離れ、森の方へ歩いていった。
一言「終わったわよ」とかねぇのかよ…
そうして俺はぶつぶつと文句を言いながら皮が剥がされた素っ裸のゲルフォース達の元に行き下腹部を手際よく捌き、大腸からンコを直接取り除いた。
そのブツを袋に詰めて密閉する。しかし密閉しても尚、少し臭いがする。
「こりゃぁ堪らん…」
手もゲルフォースのンコ塗れ。
この先の湖で洗って今日はもう帰ろう。
湖まで行って戻ってきたら、丁度一回目の荷車の移動時間と重なるくらいだろう。
もしかしたら、エマと一緒になるかもしれないが、そんなの俺の知ったこっちゃない。
身体全体からンコ臭がしている。
早く宿屋の風呂に入りたい…
◇ ◇ ◇
ガルダはあれから湖まで行き、手にべっとり付いたンコを洗い流し、荷車乗り場まで戻って来ていた。
丁度一回目の移動時間に間に合い、荷車に乗ろうとした時ーー
同じく荷車に乗ろうとする、祝賀会でイチャモンをつけてきたあの酔っ払いハンター達がいた。
「ゲッ…」
しかし、此方に気づかずそのまま荷車に乗っていく。
まぁしょうがない後ろの席でバレない様にしよう。エマも居ないみたいだし、これに乗り遅れて次の荷車で一緒になったら何て言われるか…
俺は少し荷車に乗るタイミングをズラし、1番後ろの席にバレない様座った。
バレない様に息を潜め、静かにする。
必然と聴きたくもない、酔っ払いハンターとその仲間の会話が耳に入ってくる。
「それにしても、森で大型モンスター「ベァクドルド」が居るなんてな…」
「あぁビックリした…危うく死ぬ所だったぞまぢで。あの女が居なかったら」
「俺達は運が良かったな。逃げた先に女が居てベァクドルドが俺達から対象変えてくれたから何とか逃げれたもんな」
「アイツ、どうなったんだろな」
「そーいや、アイツってこないだ祝賀会に居た、生意気な女だろ?喰われたんじゃね?」
「まぁソロじゃまず無理だろ」
『ガタッ』
気づいたら、荷車から降りて走り出していた。
自分でも分からない。
ムカつく筈なのに。
その足は森へと向かう。
助ける義理なんてない。
赤の他人。
助けに行った所で自分が死ぬ可能性の方が高い筈なのに。
身体が止まらない。
理由とか意味とかじゃなく。
本能で身体が動いていた。
『あのクソ女…絶対死ぬなよ…』
◇ ◇ ◇
ーーガルダの居なくなった荷車内
「おい…なんか臭くねぇか?」
「何か後の方から匂うな」
「誰だよ!!ンコ詰めた袋こんな所に置いている奴は!!」