長くない物語
その物語は長く険しい道のりを経て、ドラゴンを倒したり、国を救ったり、はたまた囚われの姫を救いに行ったり……しない。
どうしてしなくちゃいけない?そりゃ僕が勇者の末裔だとか転生者だとかならやらなきゃならないけど、違うからね?
農村で生まれ、農民として育ち、かつ攻撃力は成人男性並みの筋力のみで武器は扱えない!
どうしようもないな。
「なぁ。どうしてこんな設定にしちまったんだ?」
「いや、そもそもそんなバトルファンタジーな世界じゃなかったからだよ」
僕はそういう設定で生み出されたNPCだったらしい。
だけど、ある日世界がおかしくなって僕に自我が芽生えたらしい。
「で、僕は何を倒せばいいんだ?」
「いや、何も倒さなくていいよ。そろそろバトルファンタジーから、元に戻せそうだからね」
「じゃあサヨナラってことか」
「いや、君はプログラムとしては面白いからそのままにしておく。世界を元に戻しても君は自我のある農民
のままさ」
そうなんだな。まぁ、自我を持ったと言うけど、そんな時間経ってないから消してくれても構わんのだけど。
「じゃあ君以外をリセットするよ。畑とか家畜の数はおかしくなる前と似たような数にしておいたから」
「そりゃ有難い。アンタと話す機会がまたあればまた話そう」
そして世界はリセットされ、僕は日常の農民としての日々に戻っていった。
作物が野菜や穀物ではなく、魔物が育つようになってしまった点以外はね。