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僕と龍と美食譚  作者: のーむ
1章はじまりの街、はじめての仲間
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15話

翌日、俺はイヴとともにダンジョンの入口にてユルゲンを待っていた。彼の律儀な性格からしてすでに到着しているものかと思っていたが、そんなことは無かったらしい。

まあ、彼も忙しい身であるのかもしれないし、何よりまだ待ち合わせの時間には少し早い。待ち合わせは正午の鐘が鳴った時、とされていたので、まだいくらか余裕はある。

この世界では正確な時刻を知る術は少なく、大抵の人間は夜明け、中天、日没を基準として大まかな時刻を把握している。

またこのアベルのように一定の規模の街であれば、街の中心部に教会が経っており、そこで鳴らされた鐘でそれより少し詳しい時刻を知ることも可能だ。


夜明けに一回、夜明けと中天の真ん中に二回、中天に三回、中天と日没の真ん中に四回、日没に五回と、それぞれ遅い時間になるにつれ回数が多くなる。

そのため、冒険者を含む街の人間は、待ち合わせや約束をする際、鐘が何回鳴る頃、といった表現をすることが多いらしい。

小さな農村にいた俺には無縁のものであったし、そもそも時間を気にして行動するということそのものが新鮮な感覚だった。


そんなことを考えながら傍らに立つ少女へ目を向ける。少女―イヴは俺が来た時にはすでにここで待っているようだった。いつからいるのかは不明で、イヴは得に何をするでもなく、ぼーっとダンジョンへと繋がる扉を眺めていたのだ。


ユルゲンが来るまでは二人だけだ。何かと謎多き少女のことを知る貴重な機会だろうと考え、積極的に彼女に話かけることにしたのだが…イヴは、何というか、あまり深く考えてものを話すことがなかった。例えば名前を訪ねれば即座に返答するが、今日行く予定のダンジョンはどのようなところだろうか?目標はあるのか?などと尋ねても、明確な返答が返ってくることは無かった。

良い時で「…わかりません」と短く言葉発するのみで、ほとんどは無表情のまま小首を傾げるのみで程度であった。

いくら彼女が外見通りに幼いとしても、流石にそこまで思考回路すら幼いものだろうかと疑問を覚える。外見はもとより、言葉だって理解しているし、それは人でしかあり得なかったが、僕には少女が人ではない何か別のもののように思えて仕方がなかった。それは、僕が生まれて初めて感じる異様な感覚であった。


そうして次第に口数は少なくなり、やがて沈黙が訪れた。

特にすることもなくなり周囲へ目を向けると、他の冒険者やギルド職員、行商人などが多くおり、自分たちへ視線を向けているものが複数人いることに気づいた。周囲が慌ただしく過ごしている中、黙って突っ立っていれば奇異の目で見られることもあるのかと、そんな風に考えて視線を向けてくる人に目を向けてみたところ、あからさまに目を逸らすもの、笑顔で応じるもの、会釈を返すものなど反応は様々であった。その後より一先ず感じる視線は少なくなっていが、それでもまだいくらかの視線を感じるのは、やはり目立つ容姿をしたイヴが傍らにいるためだろうか。


そんな風に他愛のない時を過ごし、やがて三度の鐘が鳴り響くころ、ユルゲンは大きな大剣を背中に背負い、僕達の元へやってきた。

流石にそこまでの装備は必要ないと考えたのか、服装については普段着のようで、強いて違う点といえば革製の胸当てをつけていることくらいだろうか。それに黒色のマントを羽織っているようだった。


ちなみに僕は白のシャツに茶色のパンツと一般的な服装だ。それにギルドで借りた革製の胸当てと籠手を着けている。腰にはベルトを巻いていて、ベルトに着けたホルスターに短剣と革袋、安物のポーションがつけられている。防具とホルスターについては、ギルド受付で短剣を使うと話したところ貸してくれたのだ。本当は剣と言いたかったのだが、僕の持ち物であるアレでは、精々が短剣というところだろうという妥協もあった。


イヴもまたユルゲンのように黒っぽいマントを身に着けていたが、彼のものよりいくらか青みが掛かった不思議な色合いをしていた。その下に覗くのはマントと同じ色をした服で、全貌は分からないが、胸の辺りで前合わせにしているのが特徴的であった。

見たことのない服装だった。異国のものだろうか?それとも都などでは流行っているのだろうか?

いずれにしても僕の少ない知識ではわからなかった。


それを見たユルゲンが「ああ…それは、東方で好まれる服装によく似ていますね」と話していたので、やはり異国のものなのかもしれない。


「最低限の準備はできているようですね。では行きましょうか。お待ちかねのダンジョンです」

僕達の服装や装備を確認し終わったユルゲンがそういい、遂に俺は初めてダンジョンに踏み入れることになったのだ。


―――


ダンジョンの入り口は、身長の倍ほどの高さと、人が二人ほど並んで入れそうな横幅を持った扉であった。基本は木製で、扉の各所には宝石や貴金属が埋め込まれている。さらに至る所に精緻な彫刻や飾りも付いた非常に豪奢な扉であった。

装飾の宝石の一片だけでも一財産になりそうだと思って手を触れてみると、扉には触れられず、僕の手は扉を通り抜けてしまった。通り抜けた腕は正面からでは見えず、腕をそのままに逆側から扉を見てみると、そこにはきちんと消えた僕の腕があった。

魔法を使って作られた道具…それも現代では再現不可能と言われる古代の魔具に相応しい、それは奇妙な現象であった。さらに不思議なことに、扉は地面から僅かに浮いており、全体から弱い光を放っているようだった。


「いきますよ」


そう話したユルゲンが手のひらを扉へ向け、魔力を込めた途端、体が強く上空に引っ張られるような感覚があり、僕の視界は真っ黒に染まったーーー


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