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僕と龍と美食譚  作者: のーむ
1章はじまりの街、はじめての仲間
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13話

ギルドに着いた僕は、早足で受付へと向かった。

早い時間であったためか実際にはギルドの中に冒険者の数は少なく、ほとんど奇異の目を向けられることは無かったのだが、それでも全く無い、という訳ではなかった。やはり少し神経が過敏になっているのだろう。慣れなければと思うが、やはりすぐには難しい。


受付には昨日の同じ職員がいた。小柄で愛嬌のある、若い女性職員だ。何か書き物をしているようだったが、僕が声を掛けるとすぐに顔を上げ、にこやかに対応してくれた。


「おはようございます。フリートさん。早速ですが、昨日お話していた初心者向けの講習を受けていただきます。多少時間がかかるかと思いますが、予定は大丈夫ですか?」

「はい。大丈夫です。何しろ今の僕はまだ冒険に出られない冒険者…言ってしまえば無職ですので、時間だけはありあまっています」


「ふふっ、相変わらず冗談がお上手ですね。わかりました。こちらへどうぞ」


僕の軽口にクスリと笑みをこぼしながら、職員がギルドの奥の方にある小さな部屋へと案内してくれた。

というか、昨日のアレも冗談だと思われていたらしい。微妙にショックだ。


「もうお一人、フリートさんと同じ講習に参加される方が来られますので中でお待ちください。講師の方も間もなく来られると思います」


そう言って彼女は出て行った。彼女の言う通り、今この部屋には僕一人だけだ。退屈なので、部屋の中を観察することにした。


左手側の壁には黒い塗料が塗られた板が貼られており、板の向かいには横長のテーブルが前後に2つ、各テーブルに三脚の椅子が備え付けられていた。

使用方法は分からないが、部屋の構造からすると、あの板を活用して講習とやらが行われるのだろうか。

他には何もなく、まさしくこのような用途のためだけに作られた部屋のようだ。


狭い部屋なので見るべきところも少なく、もう見終わってしまった。強いて気になるところと言えば、yはり壁に貼られた黒い板だろうか。近くで目を凝らしてみると、木材そのものか塗料からかは分からないが非常に淡い魔力が感じられた。

触れてみるが、変化はない。いや、良く見ると触れていた箇所の色が僅かに白っぽくなっていた。

しかしすぐに元の色に戻ってしまい、他の部分との差異は分からなくなった。


おそらく魔法によって何らかの細工が施されたものだと思うのだが、使い方が分からないものは仕方がない。下手に触って壊してしまったりしたら大変だ。諦めて椅子に座り、黒塗りの板の使い方を考えてみることにした。

もちろん答えは分からなかったのだが、そうして何か考えているといくらか退屈も紛れた。

やがて、退屈で殺風景な部屋にも変化が訪れた。

扉が開き、一人の少女が入ってきたのだ。

僕の胸ほどの高さしか背丈のない、幼い少女であった。


しかし、その背丈より俺の目を引いたのは、彼女の容姿であった。腰辺りまで伸ばした、この辺りは珍しい美しい黒髪、そして黒い瞳をしていた。わずかに幼さは残るものの、顔立ちはハッキリとして整っていた。将来はさぞ美しくなるだろうと、一目見ただけでそのように感じた。

そうして彼女を観察していると、彼女は一度も足を止めることなく、淀みない動きで入り口近くの椅子へ腰を下ろした。


彼女は一片の声さえ漏らすことが無かったし、視線すら向けることは無かった。

あるいは、俺のことなど一人の人間として認識すらしていなかったのかも知れない。

そう思わせるほど、どこか彼女は超然とした雰囲気を漂わせていて、話しかけることは躊躇われた。若干10歳程度と思われる少女の持つ雰囲気とはあまりにもかけ離れていて、結局僕は茫然とその少女を見つめていることしか出来なかった。

―――

それから四半刻ばかりして、ようやく最後の一人が部屋に入ってきた。ドアを開けて入ってきたその姿をみて、僕と、そしてもう一人の少女は同時に顔を強ばらせて固まることとなった。


それは、僕より頭一つ分以上は大きく、筋骨粒々たる体躯をもつ禿頭の偉丈夫だった。さらに、その男の額には大きな十字傷があった。講師というより、山賊と言われた方がしっくりきそうな、いかにも恐ろし気な顔つきをしていた。

何より驚いたのは、それが間違えようもなく、昨日ギルドで声を掛けてきたあの冒険者であったことだ。

そして驚きはそれだけに留まらない。


「この度、講師を頼まれましたユルゲンと申します。よろしくお願いしますね」


と、その風貌に似合わぬ丁寧な言動を、昨日とは似ても似つかない穏やかな声で発したのだ。

明らかに昨日のアレと同じ姿をしているのに、性格も声色だって似ても似つかない。混乱する頭を何度も左右に振り、直接訪ねてみることにした。何せこのままでは気になって講習どころではない。


「あの…あなたは、もしかして昨日の…?」


「驚かれましたか?無理もありません。冒険者というのは、時には悪人や、そんなものよりもっと恐ろしい怪物を相手にすることがあります。なので、少々顔が怖い程度の人間に気圧されるような人間ではいけないのですよ。言ってみれば初めの試験みたいなものですか。私としても不本意ではあるのですが、この顔ですからね、そうした役回りを任されることも少なくないのです。ええ。非常に不本意ですが。

それと、声が変わっているのは風魔法の力です。ああ、それなりに高度な魔法ですから、誰でも使えるという訳ではありませんから安心していただいて結構ですよ。おや、どうしました?そのように口をあけて呆けていては、病魔が入り込んでもしりませんよ。まあ病魔といっても実際は口から…」


「ちょっと!ちょっと待ってください!一度落ち着きたいので静かにしてもらってもいいですか」


放っておけばいつまでも続きそうな話を一度止め、頭の中を整理する。といっても、べつに難しいことはない。ただ単純に、彼の個性の強さに驚き、頭が混乱していただけだ。

昨日のあれは演技だと自分に言い聞かせるが、彼の魁偉なる姿が脳裏に浮かぶ度、それこそが彼の本性であって、今目の前にいるのは偽物ではないかと、そんな疑惑も同時に浮かぶ。もう一度自分に言い聞かせても、やはり結果は変わらなかった。


今の僕には理解できないのだと思考を放棄し、もう一人の方へ目を向けてみると、件の少女もまた、目を大きく見開き、固まっていた。

僕であれば間抜けでしか無いそんな表情も、人並み外れて整った容姿をした彼女がすれば、中々に絵になるものだと、ぼんやりと空っぽにした頭で考えていた。


すると突如大きな音と振動があり、僕は否応なく現実へと引き戻されることとなった。


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