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僕と龍と美食譚  作者: のーむ
1章はじまりの街、はじめての仲間
12/17

10話

僕の返答のあと、刹那の静寂が訪れた。さきほどまでいくらか聞こえていた周りの話し声も一切聞こえず、まるで時が止まってしまったかのようであった。

そうした空気も長くは続かず、やがて一人の男の笑い声によって、その静寂は破られた。


「くっ、ははははっ!どうした貴様ら?ここは歓声をもって迎えてやるべき時であろうが。

今我らは新たな龍殺しの誕生に立ち会っているのだぞ!よもや、我の生ある間に英雄アベルの生まれ変わりに会えるなどとは、まさしく光栄の至りだ!」


堪え切れず漏れ出した笑いと共に、一人の男がそのように言った。実に堂々とした語り口で、まるで演説でも行っているかのようだった。

もちろん、男の本心はその言葉通りのものではなく、身の丈に合わぬ目標を語る僕への痛烈な皮肉であることは想像に難くない。ちなみにアベルの名を挙げたのは、この街の成り立ちや、彼の持つ輝かしい功績の一つである、城ほどの大きさの巨竜を討ち取ったという逸話をも意識してのものだろう。


「そういう貴方は、未来の英雄たる僕が名を覚えるに値する勇者の一人でしょうか?」


男の発言のあと、周囲から聞こえる笑い声や囁き声を打ち消すよう、努めて大きな声を出して僕は問いかけた。もちろん、これもまた皮肉だ。自分が大望を語る小僧であることは誰よりも承知しているが、流石に言われっぱなしでは終われない。そう考えぬいて返した言葉だった。


それを聞くと男は再び短く笑い、僕の方へと近づいてきた。

そこで気付いた。先ほどまで少し離れた位置におり、周囲が薄暗いため気づかなかったが、僕の胸ほどの高さしかないその男は、椅子に座っていたのだ。

ただの椅子ではない。座面の両横に大きな車輪が一対ついていて、それがくるくると回ることで、人の歩みの代わりをしていた。初めて見る奇妙な物体であったが、男の両足が木製の義足であることを目の当たりにすると、それの用途も自ずと分かった。


僕の目の前まで進み出た男は、その尊大な口調の割に若く、外見上は僕とそれほど変わらないように感じられた。また、彼が椅子に座っているということを差し引いても、背はそれほど高くなかった。

おまけに、その痩せこけた頬や骨ばった腕が、まさしく死人のごとき不気味な雰囲気を感じさせた。


それなのに蒼く輝くその目は野の獣のようにぎらついていて、溢れ出る活力を否応なく感じさせた。

奇妙で、不気味な男だった。僕は思わずその特徴的な外見に目にひるんでしまっていた。

男はがそのぎらつく目で僕を見据え、先ほどと同様に自信に満ち溢れた声で語りかけてきた。


「いかにも。我が英知をもってすれば、勇者の傍らにあっても何の遜色もないだろうな。ふむ…我のことはレオと呼ぶがいい。貴様は?龍殺しの英雄殿よ?」


「『未来の』が抜けているよレオさん。僕はフリート。よろしく」


「レオで構わん。そうか、貴様の名、覚えたぞ。気に入った。近いうちにまた会おう。それまで死んでくれるなよ」


良く分からないが、どうやら奇妙な男―レオに気に入られてしまったらしい。

今度は嘲笑ではなく、その口元を釣り上げて笑みを浮かべた彼がそう言うと、そのまま外へと進んでいった。

奇妙なことに、彼の乗る椅子に付属された2つの車輪は、彼が一切手を触れていないにも関わらず、一定の速度で回り続けていた。


思わぬ横槍に時間をとられてしまったが、未だ冒険者登録の手続きを終えていないことに気づいた僕は、彼を見つめてギルドの出口を向いていた体を反転させ、再びカウンターへと足を進めた。


そこで先ほどの受付のお姉さんに登録をお願いした。周りからは初めより格段に増した視線にさらされてはいたが、さらなる闖入者はなく、無事に手続きは完了した。

ちなみに登録に際して手数料が3000Gほどかかった。相場が分からないので何とも言えないが、流石に手続きだけでは高いだろうと思い尋ねてみると、冒険者証の発行や、初心者向けの講習費用も含まれているらしいことを教えてくれた。

ちなみにこの時点で僕の元々持っていた所持金は丁度3000Gだった。彼女からもらったお金が無ければ、なんと一文無しになるところだったと考えると、彼女には感謝してもしきれない。いや、すでに簡単には返せないほどの恩があるのだが。


そんな恩人のことを思い出すという目標を改めて胸に刻んだ僕は、ギルドを出て、今日の宿を探すために街へと繰り出した。


一通り街の中心部は見て回ったが、役に立ちそうな店は見当たらなかった。中心部には多くの店が立ち並んでいて、中には都にも店を持つほどに名が知れた店もあったのだが、いかんせん駆け出しの冒険者であり、先ほどまで辺境の村人であった僕には敷居が高かった。

全般的に価格が高く、とてもではないが手が出なかったのだ。それは何も売り物ばかりではなく、宿なども同様であった。


さてどうしたものかと悩んでいると、背後から中年の男が声を掛けてきた。

これといった特徴のない、中肉中背の男だ。高価なものではないが、身なりは整っていて、旅人や行商人の類とは思えない。この街の人間だろうか?


「ふむ。何かお探しですかな?この辺りのお店はあまりおススメしませんが…」


「今日この街についたばかりでして。差し当たり、泊まるところを探しているのですが…その、手持ちがあまり…」


「そうでしたか。それでしたら、ワタクシがお力になれるかと思います。ついてきていただけますか?」


そう言って、彼は中央の通りから一本外れた通りの方へ目を向けた。単に親切な人なのか、何か裏があって近づいたのかは分からないが、いずれにせよ自分ひとりでは困り果てていたところだ。

いざとなれば逃げればよいかと考え、辺りの地形を頭に入れながら、男の後を付いていくことにした。


不定期になってすみません。なるべく定期的に更新しようとは思っているのですが…本業の方が忙しくて…

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