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(7)サキミダレ
「花の種をもらったの。駅前で配っていたの! サキミダレって新種で、蓮に似た花が咲くそうよ。絶対に苗床を選ばない花なんですって。ね、植えてみていい?」
「ん、おかわり」
男は空になったスープ皿を、女に渡した。
◇◇◇
萌黄色のカーテンの向こうで、朝日が昇る。
黄色い光の中で目を覚ました女は、まず花の香りを嗅いだ。
「……おはよう」
女は窓際に横たわる、花を見つめた。
蓮のような花が咲き乱れ、かぐわしい香りを、部屋に満たしている。花の香りは苗床の腐敗臭を打ち消していた。
先月スープに入れた細い種は、苗床を選ばずに花開いた。
「今日は、たくさん光を浴びなくちゃね」
苗床の胸からは若い芽が、肌を破って伸びてきている。




