(4)やまない鐘
除夜の鐘は煩悩の数だけつくもので、大晦日から始めて、新年は一回だけ鳴らして終わるらしい。
だけど私は物心ついてからずっと、山に囲まれた町で、元旦中も鳴り響く鐘を聞いて、生きてきた。
日が暮れたら『もういいかい』『まーだだよ』と山から子供の声がして、ようやく終わり。
元旦の鐘も、山の声も、聞こえるのは私だけ。
鐘の音は毎年増えた。
私が十二才になった頃には、三が日中、鐘が響くようになった。
ごうん、ごうん。
十六才になれば、七日間、除夜の鐘は続いた。
百八回も一万回もとうに越える数は、何なのだろう。
誰かの煩悩なのだろうか。
『もういいかい』
私だけ何も目出たくない。
『まーだだよ』
皆、話を聞いてくれない。
ごうん、ごうん。
十八才の今年は、もう十五日間も。
正月は松の内も終わろうというのに、鐘はやまない。
堪らなくなって外に飛び出たけれど、どこまでも音がつきまとう。
見知らぬ町で立ち止まる。常夜灯に蛾が集まっている。
ごうん、ごうん。
……一体いつになったら、音はやむの?
「もう煩い。この音、『もういいよ』」
怒鳴った途端、鼻につく獣の匂い。
蛾が逃げる。常夜灯が消え、宙に無数の目が浮かぶ。
毛むくじゃらの腕達が私に群がり、闇へと引きずり込む。見つかった。