(2)
■本の栄養
本の食わず嫌いは良くないと、絵本を抱えた紳士が語った。
「甘いのも苦いのも栄養になるからね。怖いのは嫌われがちだが、逆境に立ち向かう力がつくのさ。――さぁ今日は、甘いものにしよう」
紳士は私に向かい合うと、桜色の絵本を開いた。
絵本は私を見て舌なめずり。桜色の大きな口を開けて私に牙をむいた。がぶり。
■世界の終わり
世界の終わりを見たい一心で、私は自ら不死になった。長年の研究の末にだ。
人類滅亡。次の生態も滅亡。さていよいよ太陽が滅び、塵と泡になるのが見られるぞ!
――この最高潮で闇に包まれ、天の声が響いた。
「続きはまだ考えていない。だから死ね」
私は奴に、文字で表せないほどの罵詈雑言を吐いて、死んだ。
■真実を知る (お題元Twitter@140onewrite様)
助手席に菊の花束を投げ込むと、男は車を急発進させた。
マフラーから音と湯気を出し、山道を上る。
「どうした」
助手席の彼が聞く。
「山に、猫が」
「お前、猫好きだろ」
「いや!」男は青ざめた顔で、ハンドルを叩いた。
「熊より大きかった――あれは猫じゃない! ……なぁまさかお前、あいつに喰われたのか?」
助手席の彼は、透けた膝元にある弔いの菊を見つめ、にやり、と笑った。
■お局の忠告
「デスク作業中に靴を脱ぐのは、やめなさい」
忠告しても後輩の女はへらへら笑うばかり。
「……職場で靴を脱いでると、怖い目に合うわよ」
その時デスク下から後輩の靴が出てきた。
靴底には小人がいた。中年男性で鼻息が荒い。
小人は私達を見ると靴を持ったまま、六本足を駆使して逃げた。
ほら見なさい。
■ゲームオーバー
まもなくあるMMOがサービス終了する。
最後の時までデモする者達もいれば、ゲームの外で会おうと話す者もいる。
そして城壁の影には、ただ後悔している者がいた。
――どうして『ゲームの中に閉じ込められたい』なんて思ったんだろう。ゲームには終わりがあるのに――。
カウントダウン。3、2、1、