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(10)閉じられた分娩室
使われていない分娩室から、女性たちの声が聞こえる。
看護師か助産師の話し声で、給料や患者の噂話ばかり。
下世話でみっともない――私はマタニティブルーから、そう苛立っていた。
ある日、私は担当の助産師に相談した。
あの分娩室から聞こえる声がうるさい、と。
年老いた助産師は静かに目を伏せた。
「あの子たち……向こう岸の声が聞こえるようなら、注意が必要なの」
それから私への指導と検査の量は増え、その甲斐あってか、無事出産できた。
退院時。例の分娩室の前を通る。
「無事に生まれたって」
「マジ? 良かったね」
私のことを話していた。
ぶつりと通話が切れたように。声は聞こえなくなった。
私は赤子を抱き直し、見えない彼女らに頭をさげた。




