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助けて師匠!

内容に比べると暗かったので、タイトルを『JCの弟子入り』から『JSを愛してやまないラノベ作家の俺にJCが弟子入りを迫ってくる件について』へ変更しました。

今後もよろしくお願いします。

「――というわけで助けてください師匠!」


 華恋の母親と別れてからウチに戻った俺は、テーブルを挟んだ向こう側にいる華恋に助けを求められていた。


「お前、母親の前であれだけ啖呵を切っておいてその様かよ」


「あれはお母さんが挑発的な態度を取ったからつい……」


 シュンと俯く華恋。


「まあ気持ちは分からんでもないが……」


 俺も端から見てたが、最後の方は明らかに挑発していた。俺が華恋の立場でも同じことをしただろう。


「それなら協力してください、師匠。お母さんをギャフンと言わせたいんですよ!」


「何で俺がお前に協力しなくちゃいけないんだよ」


「弟子の危機を救うのは師匠の義務じゃないですか!」


「俺はお前の師匠じゃねえ」


 こいつは当たり前の顔して何を言ってるんだ?


「お願いしますよ師匠。私、まだ師匠みたいなラノベ作家になれてません!」


 尚も喰い下がる華恋。


「――ここまで頼み込んでるんだから助けてあげれば?」


 俺でも華恋でもない第三者の声がリビングに響く。


「紅葉……」


 声の主は幼馴染の紅葉だった。


 紅葉は俺たちが戻ってから数分後にウチに来た。ちなみに華恋の母親との件についてはすでに説明済みだ。


「何だよ。お前は華恋の味方なのか?」


「そうよ、悪い? あんたどうせ暇なんだからいいでしょ」


「一応俺、締め切りが近いんだけど……」


 しかも新人賞の締め切りのすぐ後。


「どうせ守れないんだしいいじゃない」


「おい」


 まったくもってその通りだが、この前担当を手引きした人間の発言とは思えない。


「第一、あんたみたいな変態をこんなに慕ってくれる娘が困ってるのよ? 助けようとは思わないの?」


 確かに自分を慕う人間が困っているのを見過ごすのは、俺としても心苦しい。しかし、


「JSじゃないしなあ……」


「こいつ……」


 なぜか紅葉が鋭い目付きで睨み付けてくる。怖い怖い。


「はあ……仕方ないわね。透、もし華恋のことを手伝ってくれたら、私が飛鳥さんに頼んで締め切りを延ばしてもらうように頼んであげるわよ」


「……それは本当か?」


「ええ、本当よ。嘘は吐かないわ。飛鳥さんも華恋がゴロゴロ文庫の新人賞に応募するための手伝いをするって言えば、納得してくれるでしょ」


 本来なら締め切りを延ばすなんてこと、編集者が容認するなどあり得ない。それはあのドS担当も例外ではない。しかし紅葉が頼むとなると話は別だ。


 なぜか担当は、紅葉の要求だとその大半を呑む。俺だと返答代わりに鞭を飛ばしてくるような要求でも聞き入れる。


 圧倒的なまでの扱いの差に涙が溢れそうになる。二人の間には何か俺も知らないような繋がりがあるのではないかと思うが、それがどういったものかは不明だ。


「どう? 悪い条件じゃないでしょ?」


 確かに悪い条件じゃない。むしろ、華恋の手伝いをするだけで少なくとも一ヶ月は担当の鞭を受けずに済むのだから、俺には利点しかない。


 それに、華恋の才能が世に知れ渡ることなく埋もれていくのは、華恋の才能を知る者としては忍びない。


「いいぜ。その条件なら手伝ってやるよ」


「師匠……!」


「ただし、やるからには全力だ。妥協や泣き言は許さないからな?」


「覚悟の上です!」


 聞いてて気持ちのいい返事をする華恋。やる気は充分なようだ。


「それじゃあ時間もないし、早速始めるとするか」


 一ヶ月というあまりにも短い時間。可能な限り有効活用したいところだ。となると、まず最初にするべきは何を書くのかだが、


「華恋、お前、新人賞用の作品の構想は練れてるか?」


「……まったくです」


 案の定、華恋は何のアイデアもなかった。まあ新人賞に応募すること自体、ほんの数時間前に決めたことなので無理はないが。


「ううう……どうしましょう師匠。このままじゃ、大賞を取る以前に締め切りまでに応募すらできません……」


「安心しろ。俺に策がある」


 俺はそれだけ言って、一旦リビングを出る。そして数分後に()()()()を持ってリビングに戻ってきた。


「それは……!」


 華恋は俺がテーブルに置いたもの――かつて華恋が書いた作品を視界に捉えて目を見開いた。


「今から一ヶ月で新作を書くなんて、常識的に考えて無理だ。だからすでに完成してる作品に手を加えていくぞ」


 この方法なら、一ヶ月という短い時間でも有効に使うことができる。……ただ一つ問題があるとすればそれは、


「嫌です」


 華恋が首を縦に振るかどうかだろう。


 かつて華恋は、俺に認められなかったという理由だけで担当に太鼓判を押された作品の応募を断ったことがある。


 俺は華恋の一種のこだわりに近いものは嫌いじゃないが、正直今だけはそれが恨めしい。


「お前、今の状況を分かってて言ってるのか?」


「はい。理解しているつもりです。その上で言わせてもらいます。私は、師匠に認めてもらえなかった作品を新人賞に応募したくありません」


 以前担当に新人賞応募を勧められた際にも聞いたセリフ。相も変わらぬ意思の強さが感じられる。


「そんなこと言ってる場合じゃないだろ……」


「例えラノベ作家を諦めることになっても、私の意思は変わりません」


 妥協しないと言ったくせに早速話が躓いてしまった。このまま話を続けても平行線。話がまとまることはないだろう。


 ……仕方ない。本当は言いたくなかったが、俺は華恋を説得するためにずっと言わずにおこうと決めていたことの一端を口にする。


「――華恋、お前の作品は面白い」


「……師匠、私はそんな嘘に騙されるほど――」


「嘘じゃない!」


「…………!」


 思わず張り上げた大声に、華恋が肩を揺らす。俺の言葉に動揺を露にしていた華恋だが、しばらくすると鋭い視線を俺に向ける。


「ならどうして……どうして私を弟子にしてくれなかったんですか!? 師匠に面白いと思わせたなら弟子にしてる約束だったじゃないですか! なのにどうして……!」


「悪いがそれは言えない」


「そんな……」


 卑怯なことは分かっているが、それだけは絶対に言うわけにはいかない。華恋は俺に憧れて作家を目指しているのに、憧れの対象である俺を自分が越えてしまっていると知ってしまえば、作家を諦めてしまう可能性があるから。


「もう一度言わせてもらうが、お前の作品は面白い。それも大賞を狙えるレベルでな。これだけは俺が保証してやる」


 華恋が微かに目を見開く。


「だから、この作品で応募する気はないか?」


 弟子にしなかった理由も語らず、都合のいいことを言ってるのは理解してる。しかし華恋を手伝うと約束した以上、俺は可能な限り力を貸さなければならない。


「もしこの作品で新人賞に臨むなら、お前の言うことを何でも聞いてやる」


「何でも……ですか?」


「ああ、何でもだ」


 俺が華恋にできるのはそんな程度のことしかないからな。


 華恋は何やら思案するように俯いた。しかししばらくすると顔を上げ、口を開く。


「――てくれるなら……」


「ん? 何だって?」


「だから大賞を取ったら――てください」


「もう少し大きな声で頼む」


 華恋の口からボソッと呟かれた言葉。あまりにも小さく聞き取れなかったので聞き返す。


「だから! 大賞を取ったら弟子にしてくださいと言ったんです!」


「…………!」


 俺は華恋の意外な言葉に驚愕させられた。何せ、未だに俺の弟子になりたがっているとは思わなかったから。


「……ダメですか?」


 俺の顔を下から覗き込むようにして訊ねる。


「本当にそんなことでいいのか?」


「それがいいんです!」


 純粋な瞳が俺を捉える。未だに俺へ尊敬の念を抱いてることが見て取れる。


「別に大賞を取ってからでなくても弟子してやるよ。何なら今からでもいいぞ?」


「ダメです。そんなことをされたら、幸せすぎて大賞を取る気力がなくなってしまいます」


「お前どんだけ俺の弟子になりたいんだよ……」


「私、師匠の弟子になれるなら死んでも構いません」


 予想外に重い答えが返ってきた。もしやこいつ、作家だけでなくヤンデレの才能もあるかもしれない。


「ま、まあそれはそれとして……もう時間はあまり残ってない。俺も全力でサポートしてやるから、覚悟しろよ」


「はい、師匠!」


 ――そして、そこから先の一ヶ月は怒濤の勢いで流れていった。


 母親に中学をサボってることがバレて以降、前回よりもウチに来る機会は減ったが、代わりにネットを介して会う回数は増えた。


 まず最初に手を付けたのは、華恋の作品の文字数についてだ。新人賞における文字数の規定は十万字以上十五万字以下。華恋の作品はそれを余裕で越えていた。


 なので不要な分を削り、規定の文字数に収めた。


 次に行ったのは添削。俺が華恋の拙い文章に目を通し間違いを指摘する。そして華恋は言われた箇所を直す。これを何度も繰り返した。


 無論華恋もただ俺に言われるがままではない。時には俺と意見が食い違い衝突することもあった。


 その甲斐もあって、締め切り間近となり応募する頃には、最初とは比べものにほどの高クオリティになっていた。




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