【本編軸】やり直しデートの裏側で、眷属達は語り合う
【注意】本編を読まないと分からない登場キャラがいます。
分かりやすい登場人物紹介〜。
・《迷霧の幻竜》マキナ→竜。続編その2で出てくる。
・淫魔のエイダとエイス→双子の淫魔。番外編でも出てくる。
・ミミックと悪魔のルン→初キャラ。なお、今後の出番は分からない。
よろしくねっ☆
ミュゼとラグナが二人っきりの時間を過ごしている頃ーーーー邪竜の《箱庭》にて。
その世界に唯一ある建造物……邪竜の屋敷の応接室に集まった眷属達は、様々な反応を見せていた。
「キヒヒヒヒッ‼︎やったぜ、大儲かりだぜ‼︎」
長テーブルの上に乗ったお金を手が生えた宝箱……俗に言うミミックと呼ばれる魔物が数えていく。
それを見ていた女型悪魔のルンは……濃紺の髪を払いながら、声を荒げた。
「ちょっとミミック‼︎それはわたくしの手腕のお陰ですわよ‼︎感謝の一言ぐらいありませんの⁉︎」
「おぉっと、すまねぇすまねぇ‼︎流石の交渉テクニックだぜ、ルン‼︎下手に見てやがった商人からガッポガポ‼︎ヒヒヒッ、超興奮するぅ〜‼︎」
「うげぇ……守銭奴コンビがウルセェっす」
ソファにだらしなく横たわった淫魔のエイダが、金勘定に精を出す彼らを見てポツリと呟く。
小さな呟きであったというのにそれを聞き取ったルンは……脚線美を描く足を優雅に組んで、色気たっぷりで微笑んだ。
「あら。だって、仕方ありませんわ。久しかたの交渉ですわよ?興奮しないはずがありませんわ」
「そーそー‼︎ここ最近は、宝物庫管理をするだけだったし〜‼︎超つまんなかった時に、〝金が必要だから、換金してこい〟って命令だぜ⁉︎それも、初めて‼︎そりゃあ、本領発揮どころか相手の全てを毟り取る勢いでやるだろ⁉︎」
「…………うわぁ……相変わらず、すっげー金が好きっすね」
「「当然‼︎」」
堂々と言うように、このミミックとルンは邪竜の眷属の中でもトップクラスの金好きであり……邪竜の金庫番を務めている。
かつてはこの《箱庭》に存在する〝生きた鉱山〟(貴金属・宝石類を採掘しても、時間を置けば元に戻る)から採掘した資源を商会に持ち込み換金して、何かあった時に使用できるようにと、邪竜の資産を増やしていたのだが……。
家令的なポジションに立つ《迷霧の幻竜》マキナから「管理するのがお二人でも、増えすぎたら屋敷内で管理する場所に困りますから……金稼ぎはそれぐらいで止めてくれます?」と言われてからは宝物庫の管理に専念していた。
※採掘前の貴金属・宝石類は問題ないのだが……採掘後に屋敷外に放置すると邪竜の力の影響で腐敗してしまうため、屋敷内管理をしなくてはならない。
だが、そんな変わり映えしない日々の中で久しぶりかつ……初めて主人から命令されたーー〝金稼ぎ〟。
眷属として、金好きとして。
結果以上を出すのが当然というのが二人の考えで。
そんな感じで……ミミックが厳選した宝石をルンが商会に持ち込み、口八丁で値段相応以上に売りつけたのだった。
………余談だが。ラグナが二人にそう命令した理由は……ミュゼへのため(リボンやデート資金など)だったりする。
閑話休題。
「キヒヒッ。でも、驚いたよなぁ〜。まさか、じゃりゅー様がデートとか……あのヒト、そーゆう俗物っぽいコトすんのな」
「……そうですわね。最初、話をお聞きした時は耳を疑いましたもの」
ミミックとルンは金銭から目を離さずに、そう呟く。
眷属達の知る《破滅の邪竜》は、〝気まぐれ〟と〝無関心〟で構成されていると言っても過言ではなかった。
気まぐれで死に逝く魔物を救った癖に、何か目的があった訳でもない。
自分達を狩った者達に復讐に走った魔物がいても、それを放置し。
ただただ、なんとなくで生きているだけというのが彼女達の知る《破滅の邪竜》だった。
だと言うのに……主人は変わった。
たった一人の、それも魔物よりもちっぽけな人間の少女に出会っただけで変わってしまった。
勿論、その変化はーーーー良い変化と言えるだろう。
そして、その変化はーーーー眷属達に安心を齎した。
「まぁ、でも?今のじゃりゅー様の方がちゃんと生き物っぽくてオイラは好きだぜ」
「そうですわね。主人に向かって言うのも失礼ですが……最初にお会いした頃の邪竜様は、もっと恐ろしく感じましたもの。今の方が数千倍、マシですわ。……若干、ポンコツ臭も致しますけど」
「あっはは〜☆否定できねぇーっす‼︎」
恐ろしく不敬な言葉ばかりだが、邪竜が自分達の発言に興味を持たないと知っている三人はケラケラと笑い合う。
そう……今の様子からは想像できないだろうが、《破滅の邪竜》の眷属になった当初ーー彼女達にとって、邪竜は恐怖の対象だった。
世界を滅ぼすからではない。
巨大な力を持つからではない。
あの時はまだ……。
《破滅の邪竜》という存在が、気味悪くて……恐怖を抱いていたのだ。
もっと分かりやすく言うならば……生き物らしさを感じられなかった、だろうか?
当時の邪竜は、気まぐれを起こせど無関心すぎた。
何を考えているのか?
何がしたいのか?
何が目的なのか?
何故、自分達を救ったのか?
その全てが眷属達は分からなくて……分からないからこそ不気味で、気味が悪くて、怖かった。
だが、邪竜がとんでもなく〝気まぐれ屋〟だと言うことを知ってしまい……そして、彼が自分達をどうすることもないのだと。
邪竜に対して何を言おうが何をしようが何を思おうが無駄だと知ってからは……自分達で考えて、行動して、好き勝手して生きるようになった。
あるモノは魔物らしく暮らし。
あるモノは邪竜から許されたこの世界に引きこもり。
あるモノは自分がしたいことを好きなだけするようになり。
あるモノは邪竜の従者のように動くようになり。
そして……邪竜に恩返しをしようとするモノもいた。
(……邪竜本人が恩返しに無関心であったため、眷属達の自己満足での行動に近かったが。)
まぁ、そんなこんなで今ーー。
邪竜に永らく仕えていた眷属達は、初めて知ったのだった。
あの主人にも生き物らしい感情があることを。
誰かを愛することがあるのだと言うことを。
何かに関心を抱くことがあるのだと。
《破滅の邪竜》の生き物らしい一面を見て、彼女達は〝あぁ、このヒトも自分達と変わらないところもあるのだ〟と安心したのだ。
「ホント、今のじゃりゅー様は生き生きしてるよな。スッゲー今が楽しそう」
「それは楽しいに決まっているでしょう?恋をすると世界が輝いて見えるモノですから」
「それ、経験談っすか?というか、ルンって恋したことあるんっすか?」
「ノーコメントですわ。強いて言うなら、わたくしはお金に恋しておりますわ……♡」
「あっ、それならオイラも〜」
「おぉう……」
ニンマリと笑うミミックとルンを見て、エイダが若干引き気味になっている最中ーー。
唐突に部屋の空気が陽炎のように揺らぎーー灰銀色の髪の少年が現れ、部屋の隅にあった影から青年が這い出てくる。
《迷霧の幻竜》マキナと、淫魔のエイスは疲れ切った顔で……応接室に集まった面々に視線を向けた。
「おや。皆さん、お集まりでしたか。というか……何故、エイダは顔を引き攣らせているんですか?」
「な、なんでもないっすよ‼︎それよりも、お疲れ様っす‼︎」
「ヒヒッ。お帰りなせ〜」
「あら……お帰りなさいませ、マキナ様。エイス様」
「あ〜……疲れたワ〜……」
「ぐぇっ⁉︎」
エイスはソファに横たわっていた双子の姉を転がして床に落とし、ぐったりとソファに凭れかかる。
そんな双子の弟の暴挙に、エイスは打ち付けた腰を撫でながら叫んだ。
「先にいたのはこっちなのに、落とすとか‼︎酷くないっすか⁉︎」
「うっせぇ」
「男っぽくなってるっすよ⁉︎」
「おっと……まぁ、本当に疲れたのヨ」
エイスは肩を揉みながら、大きな溜息を零す。
そんな彼を見たルンは、首を微かに傾げながら質問をした。
「確か……お二人は邪竜様のご命令で、市場の監視をしていらっしゃったんですわよね?」
「えぇ、そうです。ラグナ様のデートを邪魔されないように、ね」
たかがデートのために、市場の監視をする必要があるのか?と思うかもしれないが……。
今回のデートは、やり直しデート。
つまりは、誰にも邪魔されないことが最優先であった。
ゆえに、ラグナは万全の対策を整えて……誰にも邪魔されずにデートに及ぶため、マキナ達に市場の監視をさせたのだ。
そして……それは実際に、功を奏した。
「本当、監視してて良かったワ〜……あのままいってたら、デートどころじゃなくなってたモノ……」
「…………何かあったんっすか?」
「あの女がミュゼ様の元婚約者……公爵子息と市場でデートしてたんですよ」
『えっ……』
そう……ミュゼとラグナがデートをしていた市場に、後からアリシエラとアルフレッドが共に現れたのだ。
二人の会話を盗聴したところ、どうやら向こうも散策デートをしに来たようで。
まさかの事態にマキナとエイスは驚愕した。
人が多いため遭遇しない可能性も少なくはなかったが……もしも遭遇してしまったら。
〝何か〟が起こるのは、想像に容易い。
ゆえに、大慌てでラグナへとアリシエラ達のことを報告し……二人が市場から《永遠花の丘》へ転移するのを見送ってから、帰って来たのだった。
「……ところで。ワタシ達が市場にいる間、ちゃんとお茶の準備はしたんでしょうね?」
肩を揉んでいた手を止めて、床に座ったままの姉にエイスは質問する。
エイダは目をパチパチとさせてから……ハッと思い出したように親指をサムズアップし、バチコーンッ☆とウィンクをした。
「勿論っすよ‼︎ガーデンテーブル、チェアー、アフタヌーンティーセット諸々‼︎きちんと準備したっす‼︎」
「………ちなみに、お茶とかを用意したのは姉さんじゃないわよネ……?」
「もちもち‼︎シェノア家の料理長に用意してもらったから、安心して欲しいっす‼︎」
「なら、大丈夫ネ」
いつの間にか用意されていたティーセットは、エイダが事前に準備していたものだった。
だが、エイダ本人に料理やお茶を入れる才能はない。
なので、彼女は料理長にチョロっと催眠をかけて……今日のデート用のお茶とお菓子を用意してもらったのだった。
それを聞いたマキナは、「ふむふむ」と満足そうに頷く。
そして、にっこりと笑いながら皆を見回した。
「なら、ラグナ様のご用命通りに……裏方の仕事を全うしたということですね」
「キヒヒッ、そーだな〜。でも、初めての仕事がデートの裏方とかクッソウケるけどな」
「眷属であるというのになんの仕事も与えられていなかった方がおかしかったんですから……デートの裏方であろうがなんであろうが文句を言うんじゃありませんわ」
「文句じゃねーよぉ〜‼︎」
「まぁ、何はともあれ」
バチンッ‼︎
マキナが手を叩き、話を切り替えるように口を開く。
「我々は《破滅の邪竜》様に救われたモノであり、ラグナ様に仕えることを選択した眷属達です。ですから、彼の方が望むならば尽力するのが役目。本日は眷属として、よく勤め上げました。今後とも、ラグナ様と……ミュゼ様のために頑張りましょう」
『はい(おぅ)』
そう答えた眷属達は、やっと主人に命を救ってもらった恩返しができると喜ぶ。
こうして……復讐劇の裏方達は改めて、気合いを入れ直したのだった。
…………ちなみに。
この復讐劇の間ーーミミックとルンの出番は、この一回だけで終わってしまったのは、悲しい事実である。
本編を読んでいる人ならば予想がつくかもしれませんが……アリシエラとアルフレッドのデートは、乙女ゲームのイベントの一つになります。